温泉郷 de ぼーいずとーく!
大皿に一通りの食事を盛りつけ、俺は煙管から滑り込む煙を味わいながら歩く。キャンプファイヤーの賑わいがギリギリ届く所に設置されたテーブルに辿り着くと、俺は煙管をぐらぐらさせながら先客に声を掛けた。
「相席、いいか?」
スランって小僧の上司ってフーガって男と、天狗のお面を被った浴衣姿のテングって男、そして狩りで一緒だったスランとロレックスがそれぞれに俺を見る。俺は特に返事を待たずに煙の流れから風下に位置する場所にてんこもりの料理を置く。フーガって男の向かい、ロレックスの隣だ。
しかし、こんな連中と一緒に食事するなんて、ぞっとするね。
社長が誘った他所の社員旅行のトップ、課長と呼ばれたフーガは軍属だろう。体格が良く力がありそうで、接近戦はご遠慮してぇな。動きの端々に軍隊として染み付いた動きを引き摺っている。
天狗の面を外さねぇで、どうやって飯食ってんだこのテングって男。まぁ、モシャス系の能力者にしては癖を隠すのは上手い。見抜くのは難しいだろうし、これだけ手練なら変化のバリエーションも多そうだ。
スランは狙撃の腕が良いな。世界中探してもなかなか見つからない筋の良さがあるが、風力計算等から出る誤差修正はまだ甘そうだ。アレフがこいつの目撃情報を頼りに大鶏を見つけたって言うが、そりゃ嘘だな。大鶏の巣は俺が森中駆け巡ってても、完全に死角になる位置だった。
どいつもこいつも能力者だろうが、実際、世界中で能力を隠して生きている奴は多い。能力者同士群れる事も少なくない。
だが、軍の幹部が上に立ってるんだ。そりゃあ、裏は黒かろうな。
相手からは、俺達がどう見えてんだろうな。興味があるが、ボロは出すまい。
俺がぐるりとテーブルのメンバーを見回していると、盛られた食事の量を見てロレックスが笑う。
「ケネス、まだ食うの?」
「いや、これはアレフの分だ」
アレフは殆ど席に着かず、この宴会の裏方の仕事をしている。まぁ、俺達の副社長は仕事中毒だからな。誰かと語らったり談笑したリってより、仕事に没頭したいんだろう。正直、誰もそういう役をやる奴がいないもんだから俺も放置だけどな。
青ざめたロレックスの額に、一発デコピンを見舞う。
「あんまり俺を働かせるな」
そして煙を全部肺から吐き出すと、大きく息を吸ってアレフに怒鳴る。
「アレフ!食い損ねるぞ!取って来たから食え!」
俺の声にアレフが追加の肉まんを入れた蒸篭を竃に掛けて、ふらふらとやって来た。放心し切った様子で俺が退いた席に座る。
お先真っ暗。通帳の残高ゼロって顔でアレフは頭を抱えた。
「ケネス、俺は悪夢を見てるんだろうか…。あれだけ用意した食事が尽く食われるとか…明日から俺はどれだけ食料を調達すれば良いんだ…」
「あー、面倒くせぇなぁ。あればあるったけ食っちまうんだろ。ほれ、リセット!」
ばん!背中を叩くとアレフが噎せる。恨めしそうに俺を見上げて、溜息を吐く。
アレフは同席した客人達に、静かに訊ねた。
「味はどうでした?」
「在り来たりな表現で申し訳ないが、大変美味しかった」
心からの賛辞を述べたフーガの言葉が響けば、天狗の仮面が道化のように『美味しかったよ!』と賛同し、スランも整った顔立ちを輝かせアレフを褒める。アレフは照れくさそうに目元を細めると、自分が作ったカレーを口に運ぶ。
うん。冷めてもまあまあ。アレフは自己採点しながら飯を食う。
そんな顔を横目に、俺はアレフに声を掛ける。
「そうだ、アレフ。面白くない話と、面白い話、どっちが先が良い?」
「面白くない話に決まってるだろ」
眉間に皺を寄せながら、今かと言いたげに俺を見る。俺はテーブルの直ぐ横に転がった岩に腰掛けて、煙管を噴かす。カレーのスパイスの余りを拝借したから、とってもスパイシーな味わいだぜ。
俺はにやりと笑ってみせる。
「今回で、お前の失敗カウントいっぱいだ」
蛙の鳴き声みたいな面白い声を上げて、ロレックスが嫌な顔をする。
俺達三人は、互いに失敗をカウントする。失敗数がある程度重なると、それを分析した上でお説教だ。
ロトは依頼さえ遂行出来れば文句は言わんが、遂行する過程で失敗等の評価は重要だ。依頼以外もカウントするが、アレフに至ってはヒーローズでの活動も対象に含む。基本的には俺とアレフがロレックスを説教するんだが、俺もアレフも勿論対象だ。だがアレフに説教出来んのは、アレフより年上の俺くらいだしな。
「あの大鶏もカウントに入るのかよ…まぁ、仕方がない。剣撃ではジリ貧だった」
アレフが俺に向き直った。そんなアレフに俺は言う。
「全く、技量も一流、要領も良い、頭の回転だって悪くねぇってのに、お前の気絶・負傷回数ぶち抜けてんぞ。割合は9割強が対人関連。詰めは甘くねぇが、お人好し過ぎる。ロレックスに仕事を分担させられるようになって、難しい仕事の割合が増えたんだ。切り替えろ。情け容赦私情は仕事に不要だ」
フーガって男が俺達のやり取りを興味深そうに見ている。思う所でもあるのだろうな。
俺は肺の奥まで煙を吸い込みゆっくり吐き出してから、言葉を続けた。
「まぁ、俺個人としてはお前のお人好しは必要だと思ってる。なんせ、俺は面倒臭がりだからな。俺に出来ない事はお前が出来る、それは効率がいい事だ。だが、お前は俺達のボスの右腕だ、しっかりしろ」
「いちいち的確で反論もできねぇよ。努力する」
「俺が望んでんのはお前の失敗の改善じゃなくて、お前自身のレベルアップ。さっさと実行しろ」
了解。アレフが素直にそう返すと、俺も話は終了って意味でひらひら手を振った。
火の粉が飛んで来るかとそわそわしていたロレックスが、話題を切り替えたいのかアレフの隣から俺に言った。
「で、面白い話は?」
あぁ、そうだ。面白い話するって約束だった。俺は燃え尽きた灰を形態灰皿に突っ込むと、新しい煙草を入れて火を付けた。
「ガライ教授のランシールの件だ。あの教授マジすげぇぞ。伝説の不死鳥ラーミアの卵のありかの仮説、かなり信憑性高めてるって話だ。学会未発表だからここだけの話だぞ」
男達の目の色が変わった。
「不死鳥ラーミア!」
「精霊神ルビスを乗せ天を駆ける伝説の不死鳥だよな!え、でも、卵とか聞いた事ないぞ!」
ロレックスとスランが顔を見合わせ色めき立ち、残りのメンバーも興味を持ったようにこちらを見る。
不死鳥ラーミアの伝説は世界各地にある。子供を寝かしつける童謡では、偉大なる勇者と魔王の戦いに次いで人気がある。飛行機はラーミアを模して最初は設計されたし、世界各国の帆船の船首にはラーミアのように飛翔する事や無事に帰る事を願って不死鳥の像が飾られる事が多い。
長らく、その存在は伝説とされていたが、実在すると提唱し始めたのがガライ教授だ。
あの人は元々音大の教授で民族音楽を中心に世界中の音楽と詩を収集し調べていたのだが、内容を深く知る為に考古学や言語学にまで手を出している。その甲斐あってか、伝説研究の第一人者にもなりそうな勢いだ。
世界に散らばると言う7つの宝玉の話。宝玉を揃えると、ラーミアが目覚めるのだ。7つの宝玉は大昔、大魔王と戦った七賢者の末裔が保管しているらしい。そんな仮説を伝えると、フーガが顎に手を当てて唸った。
「七賢者…聞いた事が無いな」
「ですけど、古くから存在する権力者で絞り込めば…」
スランの声にテングが笑う。
「やっぱ、教会関連とか? 裏社会にも強大な影響力を持つカジノの経営一族も古いらしいよ。あとは誰がいるかなぁ…」
「いや、それよりも七賢者の情報を集めた方が良い。彼等の活躍の方向性が子孫に引き継がれている可能性が高い」
アレフがテングに指摘する隣で、ロレックスとスランが賑やかに話す。
「7つの宝玉ってどんなんだろ? やっぱ家宝になってるんじゃないの?」
「だけど長い年月で他人が持っている可能性もあるよ。七賢者を頼りに探すよりも、宝玉をピンポイントで探した方が良いかもな」
わいわい皆楽しそうに話してくれるじゃん。俺はにんまり笑って彼等の話に耳を傾ける。
世界中旅して歩いた俺が、まさか一所に腰を据える事になるなんて思わなかった。死ぬまで根無し草してると思ってたさ。天使様のお導きって奴かもな。皆良い奴だし、怠いってゴロゴロしたって受け入れてくれる。たまの口喧嘩なんて、ただの戯れあいさ。
お前ら、本当にお人好し共だぜ。
立場が違えば殺し合いだ。情が生まれちまうような関わりなんか、ぶっちゃけ持つもんじゃねぇ。効率悪ぃだろ。
だが…まぁ。たまには良いのかもな。
俺は煙管の煙を吸い込んで、話に油を注ぐ。
「教授の話じゃ、伝承で不死鳥ラーミアが伝説の大陸アレフガルドに導いてくれるらしいぜ」
男共がそれぞれ声を上げる。まったく、お子様だなぁ。
「胡散臭いけど、面白いね!」
「アレフガルドか…行ってみたいもんだな」
「新天地って考えただけでワクワクするよな!」
興奮を隠せない野郎共に、ただ一人冷静なフーガが諌めるように言う。
「未知なる場所にこそ危険は潜んでいるものだ。興味だけではミイラ取りがミイラになるぞ」
そんなフーガ見てスランが笑う。
「課長!目が輝いてますよ!」
「バレてしまったか」
苦笑いしたフーガが、身を乗り出して話の輪に加わる。
男達の賑やかな話を、女性達は不思議そうに見ているな。まぁ、良いじゃないか。冒険の旅は男のロマンだ。