光の教団 de 世界を廻り踊る愚者達
爆発と閃光が爆ぜる。漆黒の稲妻が、何もかも巻き込んで圧縮し消して行く。
それは圧倒的な光景だった。久々に見る本気の仕事。あたしが決めた、あたしの殺意が彼等にそうさせている。
ケネスさんは古風な弓矢を拳銃を片手に構え、矢尻の代わりにダイナマイトのような円筒を括り付けた矢を放つ。それが目の前の魔物の群れに放たれると、魔物達の中に飛び込んだ矢の円筒に向けて素早く銃弾を撃ち込む。銃弾に貫かれた円筒は瞬時に巨大な爆発となって、火炎と爆風の暴力で魔物達を一掃した。
屍の魔物は退魔の術か昇天の法を用いなければ、肉体の過度な損傷でしか倒す事が出来ない。爆風に砕けた肉塊は熱によって全て黒い炭と化す、ケネスさんらしい完璧な対応だ。
「ロレックスが居れば、凍結させて粉砕出来るからイオの矢で十分なんだがなぁ…。やはり、俺だけだとイオナズンの矢くらいじゃないと、木っ端微塵に出来ねぇなぁ」
氷の属性を持っている装備を使うロレックス君が、魔物達を芯まで凍らせケネスさんのイオの矢が粉砕する。最近はロレックス君と組んでいるケネスさんは、銃口に口元を持っていって硝煙を吸い込んだ。
矢なんて古風な武器を使うのは、銃弾にすると銃弾発射の衝撃で爆発してしまうから。矢で目標箇所に飛ばし、銃弾の衝撃で爆発させる。彼が編み出した火薬調合は何段階もあって、ちょっと弱い爆発からギガント級の魔物を吹き飛ばすレベルまで様々だ。
「ごめんね、ケネスさん」
ロレックス君とアインツちゃんは、サトリ君の護衛をさせている。命のリングの使用者として聖職者に出て来られては困る事を、教団側が分かっているなんてちょっと意外ね。
ケネスさんはひらひらと手を振った。
「俺達は社長に付いて行くって決めてる。謝る必要なんて無いさ」
背後に冷たい風が吹き上がったが、その空気は瞬く間に押しつぶされた。冥界の入り口すらも出掛かりであったなら潰すジゴスパークの力。ブラックホールの力は収縮の力だから、扱いが難しくてもアレフさん自身にダメージは蓄積しない。アレフさんは冷えた目で、かつて蠢いていたモノだった黒い塊を踏みしだいた。
あたしの横に立っていたフーガさんが、冷静な瞳でグローブを装備して歩み寄るアレフを見遣った。
「アレフ!」
ケネスさんがライフル銃を片手に怒鳴る。
アレフさんはゆっくりとあたしとフーガさんの間を通り抜け、グローブの嵌った手を翳した。両足を軽く広げ、静かに呟く。
「いつでも良いぞ」
ケネスさんのライフル銃が、行く手を阻む扉に向かって放たれる。イオナズンの矢でさえ破壊出来なかった扉は、きっと戦車の砲弾も貫通出来ないだろう。だが、その銃弾にはアレフさんのダークフォースが添付されている。アレフさんはダークフォースの力を介し、ブラックホールの力を扉に放つ。
遠距離だからこそ発動する、広範囲の静かなる消滅。目の前で扉は、音も無く丸く切り取られいた。
ケネスさんは間髪入れずにイオナズンの矢を放つ。銃弾の音と共に扉の奥で爆ぜた閃光は、数多くの影を薙ぎ倒し1つも起きる事を許さない。
「ふふん。正面からノコノコ乗り込んだ俺達を、数で潰せると思ったんだろうなぁ。甘く見やがって」
硝煙を吸い込みケネスさんは笑う。その隣でグローブを握り、アレフさんが底冷えする声で囁く。
「好都合だ。情報を隠蔽させる暇など与えるものか」
彼等の進軍は圧倒的だ。負ける要因はこの戦いに無い。ここは教団の重要な拠点の1つであっても、彼等の敵になりえる強大な魔物は配置されていなかった。
あたし達の道を空けるように、ケネスさんとアレフさんが両脇に退いた。アレフさんがフーガさんを見遣り、小さく頭を下げた。
「社長を頼みます」
フーガさんは1つ頷き、あたしは歩き始めた。
もう、この先には魔物が配置されていない。人は居たけどフーガさんが一本背負いで瞬く間に取り押さえ、皆まとめて手錠をかける。いったい、いくつ手錠を持って来たのかしら?
そして辿り着いた最奥の部屋。高い天井まであるスーパーコンピューターを冷却する空気で満ちていて、ビル街を彷彿とさせる。中央の魔法陣を囲んで、ぐるりと円形に並べられた機械の連なり。空調の唸りは獣のように低く、闇からこちらを伺うように無数の輝きがちらつき、配線は脈打つ血管のようだ。
あたしは中央の魔法陣の前に立つ。タブレットを起動させ、計算されている術式の開示を機械に要求した。SICURAの干渉に拒否出来る機械は存在しない。展開された術式は複雑な数字の羅列を魔法陣の形にする。
虚空にホログラムとして描かれた二つの術式を指差し、あたしはフーガさんに説明した。
「1つはエスタークをコントロールする為の術式、もう一つは魔界に繋げる為の術式。フーガ様、コピーされます?」
ゆっくり吟味したんだろう。フーガさんは二呼吸程考えた後に、静かに答えた。
「あぁ、宜しく頼む」
「SICURA。公安十課のデータベースにコピー。その後、貴方のマスターに繋げて」
ヨン。タブレットからSICURAの電子音声が響いて、実行の進行状況が表示される。膨大なデータは流石のSICURAでも時間が掛かるようで、彼女の仕事では考えられない『分』の時間表時が示された。
目の前で蒼い光で表示される術式を見上げていたあたしに、フーガさんが声を掛けて来た。
「ロト、君は良いのか?」
「要らないわ。こんな雑な術式。あたしはもっと完璧に整えた術式を得ているもの」
あたしはタブレットに表示された数字を見つめる。
「こんな適当な術式の組み方じゃ、魔界へ繋げただけで暴走して世界が裏返るわね。エスタークをコントロールするなんて夢のまた夢。もともとこの術式を教えた奴は、コントロールの方法を伝えていないわ。教祖は適当に教えられたものが完全な術式だと思っている。笑っちゃうわね!」
ちょっと面白かった。笑ったけれど、すぐ笑うのを止める。
「このまま自爆させちゃおうかしら」
かちりと空調の音ばかりの空間に金属音が響く。タブレットから視線を上げれば、フーガさんは躊躇いの無い目であたしに銃口を向けた。
「それはさせん」
そうね。これだけ強大な力を伴うものは、暴走した時には世界を滅ぼしかねない。自爆と言ったけれど、それは世界の崩壊と同じ。
光の教団に制御の能力が無いなら、誰が制御するというのか。今の所、公安十課はその制御をあたしに求めている。結果的に教団を助け、世界を守れという。契約に正当な対価が支払われるなら、あたしはその仕事を全うするのみ。十課を国を利用する代わりに、利用されるのは承知の上だ。
あたしは再びタブレットに視線を落とした。進行状況は進み『秒』の値がゼロに近づいている。
「冗談よ。私は教団は完膚なきまでに潰すと決めたわ。自爆なんて生温い事を、許しはしない」
ベルの音が短く響いて、コピー完了の表示が灯った。
『こんばんわ、ロトさん』
落ち着いた男性の声がタブレットから響いた。
あたしは小さく微笑んで、SICURAのマスターである男性に挨拶をする。男性は穏やかな声で、あたしに話しかけて来た。
『指定対象の検索段階でオフラインの領域がありましたが、プログラムを仕込んでオンライン状態に移行させました。世界中の全ソフトウェア内の些細な教団のデータも、すべて把握しております。ほぼ教団全域のシステム及びデータに対し、完全破壊を実行出来ますよ。実行後の復元の可能性は0.00001%です』
あたしはタブレットの向こうにいる男性を賞賛した。
「流石、SICURAのマスターね。ありがとう、今直ぐ実行して」
『SICURA、いきますよ』
ヴン。
そんな音を立てて部屋が静止した。空調は止まり、目の前の術式の表示は消え、スーパーコンピュータは事切れた。
あたしはタブレットに表示された『完了』の文字で暗闇を照らし、フーガさんに向き直り頭を下げた。
「今回の目標は達成です。お疲れ様でした」
「ロト」
頭を上げ、名を呼んだ公安十課の課長を見上げた。
「なんでしょう、フーガ様」
「君は簡単に世界を敵に回そうとするのだな」
厳しい敵を見る瞳。あぁ、この人はあたし達を敵として見ているんだわ。
とても心地よかった。だって、貴方の味方なんてごめんよ。人殺し、平然としちゃうんでしょ? 貴方の班長さんが魂に干渉するの、知らないと思ってる? あんな魂が易々と傷ついてしまう方法を、あたしだったら絶対に認めない。好きじゃないの。嫌いなの。だからあたしは言ってやる。
「一人の命より、世界を取る貴方達とは価値観が違うの。でも、安心して。世界あっての家族だって、私も分かってるから」
あたしも敵を見る目でフーガさんを見る。
最後は記憶を消去するつもりなんでしょ? 今だけの味方。利害の一致から手を取り合う仲。利用するだけ利用してやると、互いに思って隠さない。
そうであって欲しいって、貴方も私も望んでる。