女神様は悪戯がお好き
今日はね、人材紹介所に集まってもらったの! だって、今回はヒーローズの部外者の皆さんにもご説明しなきゃね! アインツちゃんが皆にお茶をせっせと配って行き渡った頃合いを見計らって、あたしは手を挙げた。ちゅうもーく!
「はーい! 皆自分どうなっちゃったか、説明求めてる感じだよねー!」
そこで皆の視線が集まる。
見渡す限り可愛い女の子でいっぱい!あたしったらアインツちゃんと、むねきゅーん!ってなっちゃう!
「女神様の調子が悪いみたいで、女神様の力にちょっと影響されちゃってるんだよねー」
ヒーローズの力は女神様の賜物って奴なの。まぁ、属性とかそういう相性は本人の資質だろうし、能力者としての資質や条件で力が増減するとか色々あるだろうけど、ヒーローズって存在は女神様の庇護の下なので凄く影響を受けやすい。女心は秋の空っていうだけあって、触れ幅が広い。その幅を出来るだけ均一にするのが、あたし達技術組の仕事でもある。
ただねー。今回はその触れ幅が凄かったのよ。
影響が5人だけじゃなくて、代理の皆にも及んじゃったのは申し訳なかったわ。
でも、この場でそれは言えない。影響を受けちゃった人がヒーローズだって知らない人だっているからね!あたしはひらひらと手を振った。
「ま、一生このままじゃないから、だいじょーぶ!」
その言葉に一同がほっとした。
実は神様の庇護が強い国の国民は、その神様の影響を受ける事は良くある事なんだ。ある砂漠の国は神様に猫ブームが来て、国民の半分が猫になった事もある。神様の調子が戻れば、元通りになる事は世界常識なの!
「ファルシオンの皆が、気合い入れてメイクしてくれるからな!俺としてはこれで十分楽しんで行くつもりだ!」
そう凛とした声で言い放ったのはレックちゃんだ。彼女を囲むファルシオンの女性メンバーの手腕で、ビジュアル系のような中性的な容姿になっている。青い髪はゆるふわっとしながらもワイルドさを潜ませたウルフヘア。シルバーアクセサリーにレザージャケットの似合う男装の麗人みたいな姿に、レックちゃんの彼女のバーバラちゃんも満更ではない様子だ。
「女神様の不調が原因なら、危険はないわね。明日はどんな服を用意してあげようかしら?」
そう微笑み合うバーバラちゃんとミレーユさんに挟まれ、レックちゃんはにやりと笑った。
「戻る前に、ファルシオン特別ライブやっとかねぇとな! ライブ名は、持ってけ☆セーラー服!」
やーん。楽しみ! 早くチケット宜しくね!
そう喜ぶのはあたしだけじゃない。ノアちゃんの彼女のナナちゃんも大喜びだ。その嬉しそうな表情にノアちゃんが、ほっと胸を撫で下ろして、ティアちゃんに囁いた。
「ナナの服、胸回りがキツくてさ…。かなり不機嫌だったんだ」
「大変だな」
ノアちゃんはそれはもう大きな胸を、隠すように恥ずかしそうに背を丸めてる。
いきなり電話をして来たからどうしたのかと思ったら、『ロトさんは何処で服買ってるの?』だって。確かに、これだけバストサイズが大きいと、普通の量販店では取り扱いが少ない。あたしが紹介したお店は可愛い服も沢山扱ってるから、ナナちゃんの可愛い系センスでノアちゃんは大変身だ! きっともう少しかっちり系にしたかったろうけど、彼女のご機嫌取りにノアちゃんも選択肢がないのだろう。胸が大きいのも問題だね。
ティアちゃんは学校の制服だ。男性用では胸元がキツいらしくて、上着の前を開けている。それでも、明日は下駄箱がラブレターで大洪水って位に可愛い。長く伸びてしまった髪は誰かが梳いてくれたようで、可愛らしい花のピン留めが耳元を飾っている。
「確かに服には困るよな!」
そう笑い飛ばすのはアレンちゃんだ。彼女もこれがまた、胸が大きい。アレフレッドさんが、電話口で餅でも詰まらせたように『胸の大きい服を扱っている店を知らないか』と訊ねて来たのも頷ける。彼女の場合は、運動中でも大丈夫なようにがっちりホールド出来るブラジャーを購入したかったみたいね。大丈夫、このロト人材紹介所に紹介出来ない案件はないわよ!
ぴょこぴょこと笑う度に跳ねる銀色の尻尾の後ろで、大人の女性達が囁き合っていた。
「サルムも婚約者に遊ばれたクチかい?」
「アレフレッドさんも? 大変だったよ」
アレンちゃんの保護者は勿論アレフレッドちゃん。金髪のショートヘアーに、スーツ姿のキャリアウーマンだ。かなり奥様に遊ばれたらしくて、化粧はOLよりも丁寧でかつ上品な仕上がりだ。胸元のネックレスがシンプルでも洒落たクリスタルスライム社。うーん、奥さんセンスが良いなぁ。
サルムちゃんも負けてない。金髪のロングヘアーを上品にカールさせた、まるで社長秘書のような美しい女性だ。ボタンが開けたブラウスから覗く谷間の闇が深そうな胸元が、ただ一つ吸引力の変わらないなんとかって感じ。ナチュラルメイクが映える、気恥ずかし気でちょっとあどけない彼女自身の表情の魅力。そこを余す所なく表現する婚約者さんはやり手ね!真っ白いブラウスを飾るさり気ないレースがとっても素敵よ!
「俺は秘書を信頼しているよ」
そう悠然と語るのはゾーマちゃん。ロングでタイトなスカートから覗く太腿のセクシーなこと!さらさらのロングヘアーをなびかせ、女王のように微笑む姿は一幅の絵のようね! 流石、秘書の目は洗練されてるわ! スーツはこの短時間でオーダーメイド、生地は全てが超一流のシルク、香る香水もうっとりするような薔薇の香りよ。もう、非の打ち所がないわね!
そんな女性達の背後で、これまた美しい伴侶の方々が紅茶とケーキを片手に優雅に語らっている。貴方の施したメイクはとても良いですわね、明日はあれを試してみようかしら? アレフレッドさんがお召しになっているネックレス、とても素敵ですね。でしょう? 秘書さんはご予定は? 良ければ貴方が社長さんに用意された香水のお店、私達にも紹介して下さりません事? いい香りですものね。私が付けたいくらいです。分かりました。喜んでご案内させて頂きます。
女性達の会話に、ゾーマちゃんを挟んだ二人が顔を青くした。
ぷぷぷ。一通り眺めて、あたしは横にいるアドルちゃんを見た。
「あれれ? アドルちゃんはご機嫌斜め?」
「そんな事ないよ」
アドルちゃんは、全く見た目が変わらない。
元々、女の子っぽかった外見だったから、女の子になっても変化がない。胸が膨らむのかなぁと思ったけど、普通に清楚な感じだね。学校の制服を着て、彼女はふっと笑った。
「それより、アレフは戻って来ないかなぁって」
早く見たいなぁ。そう、アドルちゃんは言った。
アレフさんね。
あたしも朝のひと騒動を思い出して、ぷぷぷと笑った。噂をすればなんとやら。アレフさんの大型バイクが停車する音が響くと、玄関が開いた。アインツちゃんが『おかえりなさい!』と声が響くと『ただいま』と柔らかなアルトが深々と居間にも届いた。
リビングに集まった皆が注目する中、アレフさんが入り口を通り過ぎる。硝子が嵌った扉に、人影が映り込んだだけだ。
「ちょっと待て! アレフ! 顔を見せろよ!」
レックちゃんが叫ぶと、暫くしてがちゃりと扉が開いた。
ひょこりと顔を見せたのは柔らかい茶色いセミロングを無造作に流した、女性だった。朝方急遽買い付けに行った、セミオーダーの女性もののスーツが、女性らしいボディラインを強調させる。彼女が自分で施したメイクは、彼女自身の印象をとても柔らかくしていた。お客さん達に微笑んで会釈する様は、優しいお姉さんのようだ。
そして眼鏡を押し上げて、あたしを見る。真剣な視線だけど、やっぱり目元は女性らしくて柔らかい。
「社長。商談を纏めてきました。グランバニアさんのお迎えに行かなくてはいけませんので、報告は後ほどでお願いします」
「はーい、あっちゃんいってらっしゃーい!」
あたしが手を振る先で、アインツちゃんとアレフさんが奥へ消えて行く。
アレフさん、スーツは新調しましたけど服はそのままですよ。入るんですか? あぁ、サラシ巻いてるから大丈夫だ。スーツを新調する羽目になるとは、予想外の出費だ。で、悪いんだが、ちょっと手伝ってもらえないか? やはり一人は難しいしズレる。はい、任せて下さい!
あーーー! アインツちゃん! ずるいーーー! アレフさんにサラシ、あたしも巻き直したいー!
あたしはの心の葛藤を他所に、直ぐに間を置かずに扉が開いた。
髪を結い上げた茶髪の女性は、白いシャツにジーンズの装いで再び顔を覗かせた。
「では、行ってきます」
いってらっしゃい、アレフさん。 あぁ、後は頼んだぞ。
扉が閉まる音と、バイクの音が響いて遠退いて行く。静寂が包む中、誰かがぽつりと言った。
「結局、アレフの胸のサイズってどれくらい?」
皆があたしを見たけど、あたしは首を横に振った。
あたしもすっごく気になるんだけどねー!