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■ 空白の進路調査書 編 ■



 アラハギーロは太陽の民の末裔が支配する、黄金の砂漠と流通の要である。黄金の砂漠に浮かぶ石船の楽園と呼ばれ、高い砂塵よけの防壁の内側はオアシスを中心とした緑に溢れ、極彩色の彫刻と装飾に惜しげも無く金と宝玉をあしらった。美しい見事な織物、遠方の果物、珍しい薬草、稀代の名剣、人々との出会い、このアラハギーロの市場で手に入らぬ物は何も無いと言わしめるほど。
 その様相を最後に留めたのは、魔族の侵攻が報告される前日であった。
 ワシはその報告を受けた直後に、この市場を閉めさせ、人々を南へ避難させた。当然、批判と反発は酷かったが、最終的には住民も商人も旅人も要請を聞き入れ南へ旅立った。理由は簡単。その報告をしにきたのが、グランゼドーラの兵であったからじゃ。グランゼドーラが魔族の攻撃を受けている。第一に攻撃されたのが勇者の王国とあらば、我が国に援軍は望めない。そのことを、流通に聡い者達は嗅ぎ取ったのじゃろう。
 無人の市場。喧騒なきモンスター闘技場。ワシは国が滅びることを覚悟しておった。
 旅の扉を抜け、砂漠に浮かぶ石船を見ても、その中が如何様になっているかを知るのは恐ろしかった。戦場は圧倒的な不利であり、防壁の中は魔族に蹂躙され跡形もなく荒廃している様しか想像できなかった。
 だから、驚いたのじゃ。
 アラハギーロは無事であった。市場は人々がすれ違うのも大変なほどに行き交い、行商人の呼び込みは煩いほど。酒場には吟遊詩人や芸人が舞台の上で己の技を披露し、人々は陽気に食事を楽しみ酒を食らう。唯一違うのは、モンスター闘技場の扉は固く閉ざされており、王宮は暗く沈んでいることであろう。
 このアラハギーロは魔族との戦争で交戦した、王を含む兵士達と、魔物使いと彼らが連れていた魔物が消息不明なままなのだという。戦争で砂漠を黒く塗りつぶすほどの魔族の軍勢は、翌日には存在していなかったのでは無いかと疑うほどに跡形もなくいなくなっていた。人々は数日様子を見ていたが、何の変化もなかったために、一人二人と帰り今に至ると言う。
「しかし、腹立たしい! ワシこそがアラハギーロ国王ムーニスだと言うのに、誰も信じてはくれぬ…!」
「いやー、無理でしょー。どこからどう見てもワカメ王様だから、逆に変に疑われなくてラッキーだったねー」
 ワシの絶叫に向かいに座ったイサーク君がけらけらと笑った。彼はレンダーシアの外にある、ウェナ諸島に暮らすウェディ族の若者である。伸びやかな四肢の所々に、魚らしい特徴を備えた一族じゃ。彼の端正な顔立ちの上に乗ったトンブレロソンブレロは、ぱかりと口らしき場所を開けて不思議な声色で言った。
『この国が魔物使い達で賑わう国風でなければ、ワカメなアンタやカレヴァンは入国拒否だったんだよ。国に入って宿に泊まれるだけ、ありがたいと思うんだね…!』
 ぐぬぬ。こればかりはトンブレロソンブレロではあるが、ブレラ殿の言葉が正しい。砂漠に放置されては、あっという間に乾燥ワカメになってしまうからの…!
 ワシとカレヴァンは魔物の姿のまま、アラハギーロに入国していた。これは、アラハギーロがモンスター闘技場を抱える、魔物使いの国であるという特色を如実に表しておる。もし、他国であれば、魔物達はモンスター酒場と呼ばれる場所で待機していなくてはならない。魔物の姿でも王国内を自由に歩けることは大きなメリットがある。
 だが、当然、それは魔物使いが登録した魔物に限る。イサーク君は入国時にワシとカレヴァンを、自分の仲間の魔物として登録してくれておった。だが、名前のセンスが最悪じゃ。カレヴァンはセラフィが呼んでおった『チョメ』で登録しておるが、ワシが『ワカメ』で登録されるのには我慢ならん! 本名で登録すると、予想外のことが起きるかもしれぬて、そんなことはどうでも良かろう…!
「まぁまぁ、ワカメ殿。先ずは国が無事であったことを喜ばねばなるまい。兵役に勤める者以外は誰も死者が出なかった今に、祝杯を。無事にアラハギーロに辿り着いた幸運を、我らが種族神に感謝しようではないか!」
 がはは! と白い髭に大量の麦酒の泡をつけたガノ殿は、豪快に笑いおった。
 確かに、我らが種族神グランゼニスに感謝申し上げねばなるまい。我が祖国が無事であったこと、民に死者が出なかったこと、それは、心から喜ばしいことであったからじゃ。
 先ずは、何の情報を得ることを優先とするか。ベテラン冒険者を具現化したかのようなガノ殿は、そう指を一本立てて問う。
「知りたいことは山盛りじゃ。このアラハギーロがワカメ殿やカレヴァン君の故郷であることは確定した。これによって、レンダーシアが二つ存在するということは、立証されたと言っていい。だが…それが分かったからといって、何も変わらぬ。変えられぬと言うべきじゃろう」
『ワカメの王様が、ワシがアラハギーロの王ムーニスであると叫んでも、誰も相手にしないのと同じだね』
 ガノ殿は、その白髪に埋もれた頭で深々と頷いた。
「信じてもらうには、信じさせる要素が必要不可欠。やはり、行方不明になっている王の帰還は、インパクト絶大! もうワカメ殿が玉座に座っているだけで、世界中の情報が駆け寄ってくる勢いじゃろうて…! 先ずは、ワカメ殿達が元の姿に戻ることを模索することとしよう!」
 そうして、ワシらは目的に向かって動き始めた。

 …のは良いのじゃが、日々の生活には銭が必要なもの。ガノ殿はアラハギーロの遺跡発掘関連の護衛の仕事を請負い、イサーク君もその多彩な才能を生かし宿と併設された酒場で働き出した。ワシもカレヴァンもイサーク君に誘われて、ちょっとしたショーに出演したりもする。
 アラハギーロの王が、酒場で日銭を稼ぐとは嘆かわしい。じゃが、兵達が死ぬのを見続けた虜囚の日々に比べれば、充実した日々であろう。
 酒場の客や旅人達の噂を聞くと、最初に魔族の猛攻を受けたグランゼドーラはかなりの被害を受けたらしい。王城手前の勇者の橋まで攻め込まれ、トーマ王子を筆頭にグランゼドーラの軍勢と魔物達の激しい攻防が繰り広げられていた。その苛烈振りは勇者と讃えられしトーマ王子が圧され、アンルシア姫まで戦線に参加したというじゃから相当のことじゃろうて。
 魔族の侵攻を退けることができたそうじゃが、トーマ王子は戦死され、国葬が開かれたとのことじゃ。共に戦線に立った、アンルシア姫は行方不明のまま。
 アンルシア姫…。
 ヒョッヒョと笑うキルギルという魔道師は、アンルシア姫に仕えていると言った。
 確かに、ワシは魔物の姿。魔物が一般人を傷つけるからと、討伐を命じるのは王として正しい。あの、キルギルという男が言ったアンルシアとは、行方不明になったグランゼドーラのアンルシア姫である可能性は十分にある。
 じゃが、ワシの疑惑はその可能性に暗い影を落とす。勇者である兄を支えるため、勇者の盟友を目指した娘。彼女がゴリウスの魂を弄ぶような研究を許すじゃろうか? もしかしたら、キルギルが許可なく行なっている研究かもしれぬ。邪悪で恐ろしい力が彼女の傍にいることが恐ろしい。
 笑顔の可愛い娘じゃ。無事であってほしい…。
「おぉ! 貴方だ! 貴方! そこのワカメさん! こんにちわ!」
 誰もいない酒場の外から、ワシの思考を割るように声を掛けてきたのは一人の優男であった。アラハギーロで好まれる通気性の良い装いをし、ターバンには極楽鳥の尾羽が挿さっており、その尾羽が鬼火を作っては怪しげな光を散らしておる。彼がちょいちょい手招きした手は戦士の手ではないが、何かの職業を極めたが故の歪さがあった。柔らかい茶色い髪の下の瞳は優しげで、ワシらの追っ手には見えない。
 ワシは傍にいたカレヴァンを見遣り、小さく頷いて男に近寄った。男は屈託無い笑顔で、心から嬉しそうにワシを迎えた。
「いやぁ、最近ワカメ王子を連れたモンスターマスターが酒場に出入りしてると聞きましてね、アラハギーロ中の酒場を総当たりしていたんですよ! 貴方はここの酒場に預けられておられるんですか? たしか、マスターは歌に秀でたウェディ族とのことですが、会えますか?」
 なんじゃ、この男。モンスターマスターオタクか何かかの?
 この国はモンスター闘技場を抱える国であるが故に、優秀な魔物使いにはファンがつく。闘技場の管理人を勤めていたベルムド、そして彼の弟弟子のカレヴァンにも多くのファンがいた。民は他国よりも魔物に対して好意をもっておる。
「イサークは今後の営業に備えて休んでおる。用件ならワシが承ろう」
 そう答えると、男は感嘆の声を上げて露骨に体を震わした。
「おぉ! 流石は魔物界きっての美声の種族! いい声をしてらっしゃる! とても魔物とは思えぬ、訛りのない流暢な人語も素晴らしい…!」
 男は興奮気味にそう言って、何かに気が付いたかのようにワシを見た。失礼と、ワシら以外誰もいない店内に一歩入ると、頭の先から足の先ワカメの裏側まで男は具にワシらを観察しだした。ワシとて美女にしげしげと見られるのは悪い気はせんが、どこの誰かも知らぬ男にジロジロ見られるのは気分が悪い。ワシは不快を露わにして男に言った。
「なんなんじゃね、君は。 いきなり現れて捲し立てたと思えば、今度はジロジロと見おって…!」
「あぁ、失礼。卵からの牧場育ちでも、貴方ほど完璧な人語を話す者はそういません。しかも、匂いや気配が魔物のものではない気がして…」
 そこで、男はワシを見て囁いた。
「貴方、本当にワカメ王子なんですか?」
 ワシは驚き、息を飲み込んだ。
 長い付き合いであるカブース大臣とワシしか知らぬ秘密を暴露したというのに、カブース大臣はワシを疑いおった。思い出しただけで腹立たしい限りじゃが、見た目がワカメ王子であってもワシはムーニス。信じて貰えぬことは、心が引き裂かれるほどに辛かった。見ず知らずの男に正体を告げても、信じて貰えるとは到底思えぬ。
 カレヴァンとて、妻と子の無事を確認しても姿を晒すことはせんかった。やはり、魔物の姿を拒絶されることは、恐ろしいのだろう。
「…お主は何者じゃ」
 ワシが絞り出すように声を出すと、カレヴァンがワシの横に蹲り男を睨み上げる。男は少し考え事をした素振りを見せてから、ワシの問いに答えた。
「申し訳ないですが、名乗ることはできないのです。僕は御前試合に招待されたモンスターマスターとして、この国に来ているので…」
 ワシとカレヴァンは雷に打たれたかのように驚いた。なにせ、御前試合に招待するモンスターマスターは、その道の一流であるからじゃ。何かしらの大きな大会で優勝しただけに留まらず、人柄、魔物への対応、モンスターの力を引き出すマスターとしての力量も審査の対象。この冴えない優男は、そんな一流のモンスターマスターなのじゃ…!
 しかし、ここはアストルティアで唯一の公式大会が開催される地。一流のモンスターマスターの滞在が耳に入った瞬間に、民衆が暴動を起こすのではないかという程の熱狂に包まれかねない。招待マスターの秘匿は、最重要機密と等しいのじゃ。
「うぅ! お主が何者なのか、聞けないけど、すっごく気になるぞい!」
「驚かれると思いますよ。僕がモンスターマスターとして大会に出るのって、とても珍しいことですので」
 優男はそう言って笑うと、ワシらを見て、ふむ、と頷いた。
「髭剃り用の鏡があったら貴方がたが何者か分かるのですが、生憎、今は仲間が持っています。貴方がたの容姿が悪ふざけでないとしたら、…そうですね、月の民の遺跡である『クドゥスの泉』を探すと良いでしょう」
 優男はそう言って、美しい声で歌い出した。それは子守唄のような単調で慈愛に満ちた調べと共に、そっとワシらを包み込む。

 月の民とは夜の民
 それらは眠りと癒しを施さん
 新月に祈りを重ね 泉は輝き
 満月に身を浸せば 輝きは身に宿る
 あらゆる病 あらゆる呪い あらゆる不安
 それらは大樹の泉が 洗い流すであろう

「アラハギーロは太陽の民、黄金の砂漠がよく似合います。逆に北方の密林は日中でも薄暗く、夜の雰囲気が似つかわしい場所ですね。密林には多くの遺跡がありますが、特に大きな樹が密林の奥にあるのです。伝説に縋ってみるおつもりでしたら、参考になさってください」
 深々と一礼すると、優男は身を翻し歩き出した。酒場の出入り口に手をかけた所で振り返り、柔らかい笑みを向ける。
「カブース大臣のこと、悪く思わないであげてくださいね。では、ムーニス陛下。お戻りになるのを、待っております」
 気が付いた時には、もう酒場の出入り口には誰もおらんかった。
 招待されたマスターは国賓として扱われる。カブースならば彼が何者か知っているはずじゃ。
 きっと、カブースは相談したのじゃろう。そして頼んだのやもしれぬ。ワシが困っていたら力になって欲しいと…。


 □ ■ □ ■


 優男の告げた密林の大樹について話せば、ガノ殿とイサーク君はすぐに心当たりがあったようじゃ。なんでも、ベルムドに頼まれてカレヴァンを探しにジャイラ密林を歩きまくった際、天に届かんばかりの巨木があったらしい。当時は巨木のそばに泉はなかったそうじゃが、もう一つのレンダーシアであるここには有るやもしれぬ。
 ワシらはすぐにジャイラ密林へ向かった。アラハギーロを北に進み、ピラミッドを背にデフェル荒野を横断する。ここまでは商隊も多く馬車で移動することができたが、砂漠や荒野では水の無駄遣いとワシはほぼ乾燥わかめで過ごせざる得なかった。
 商隊と別れデフェル荒野から北上すると、ジャイラ密林へ続く。ここは古代遺跡が多く残されているが、かつて栄えた文明の子孫はおらず手付かずの鬱蒼としたジャングルが広がっておる。ガノ殿は興味深そうに遺跡の柱を眺め、過去に思いを馳せているようじゃ。水分少なめの荒野や砂漠で元気を失っていたイサーク君も気力を取り戻し、ワシらはジャイラ密林の奥地を目指して進んだ。
 そうしてたどり着いた巨木は、世界樹と言いたくなるほどの巨大さであった。幹はモンスター闘技場と同じくらいの幅を擁しており、枝が茂り天を覆う様はアラハギーロが誇るピラミッドをも、すっぽりと覆い尽くすほどであろう。
 その根元に歩み寄り、ワシら一同は怪訝な表情となった。
「なんじゃろう…。これは、沼かね?」
 ガノ殿が零した言葉が一番妥当と言えた。大樹の根元に泉はなく、泥濘んだ沼地が広がっている。掬って見ても水っぽさはなく、とても泉とは形容できぬ有様じゃ。落胆するワシらに、イサーク君が一点を指差した。
「いや、泉だったと思う。ほら、あそこ。魚が死んでいるでしょ? あれは淡水魚の魚だ」
 目を凝らしたが、泥ばかりで何も見えぬ。
『誰かが地面ごと泉をひっくり返して、泥沼にでも変えたのかね。どんな酔狂な輩なのやら…』
 ブレラ殿が火の溜息を吐いた。ぼうっと沼の上を火が撫でれば、泥が乾いてヒビ入った。
「……誰が酔狂だ! 元はと言えば、お前らのせいだろうが…!」
 ガサガサと大樹の枝が動き出す。わらわらと現れたのは、緑と青と赤の三人組の魔物たち。誰もがスコップのような形状の両手杖を持ち、それぞれのトレードカラーらしい作業着を来ている。
「何者じゃ…!」
 ワシがそう叫ぶと、三人組は待ってましたと満面の笑み。
「何者かと聞かれれば、答えてやるのが世の情けってやつー?」
「魔界随一のプロの技で、世界の歪みも埋め立てる!」
「安心安全誠実な対応で、依頼人満足度毎年第一位!」
 左から緑、青、赤と並べば、ビシッと決めポーズ! 緑は決めポーズ左前、青は決めポーズ後ろ中央、赤が決めポーズ中央前列と仕草の書で配布された型に則ったものじゃ。これが見事にバランス良く決まりおった!
『我ら、穴埋め三兄妹!』
 どーーーん! 効果らしき照明弾が彼らの後ろで爆発したらしく、何ともかっこいい演出を決めた。横でイサーク君が『カッコイイなー!』と感心仕切りで、拍手を送っておる。青が照れ臭そうに『ご静聴ありがとうございました』と頭を下げた。
「って、ちっがああぁあう!!」
 緑が激昂し、ワシらに指を突きつける。その通り抜ける声に付随する唾液が、遠く離れたワシらに吹き掛かる勢いで捲し立てた。
「貴様らが俺らが埋める予定の旅の扉を通っちまったんだろうがぁ! 仕事に穴を開けぬがモットーの俺らは、勿論、旅の扉を埋め依頼を全うした! だが、安心安全誠実な対応、依頼人満足度毎年第一位の俺ら穴埋め三兄妹にとって、埋める前の旅の扉を通過した貴様らは汚点でしかない! 汚名を濯ぐ方法はただ一つ! そう、貴様らを葬り去ることだ!」
「泉の土ひっくり返して泥にしちゃえばー、アンタ達超迷惑でいい気味だしー?」
 ビシッと人差し指を突きつけられた我々だったが、何故に憎悪を向けられるのか分からずじまいだ。理解が追いつかず呆然とする我々だが、ガノ殿がポンと手を打った。にんまりと浮かんだ笑みは、悪漢以外形容がつかぬ。
「因縁は買ってでも貰えと友は言った。故に我輩は諸君らをこの沼地に埋めるか、大空にぶっ飛ばすかのどちらかに処す。覚悟はよいな?」
「ガノさん、この意味の分からない喧嘩買っちゃうの?」
 おろおろと暴力を好まないイサーク君がガノ殿を覗き込む。ガノ殿は不敵な笑みを浮かべて、悠然とハンマーを抜いた。
 本気で戦う気なのかね? ここは、我々の姿が元に戻るための泉があるかもしれぬ場所のはずじゃろうに…!
「ふははははは! 流石は我々を退けし強者。逃げも隠れもしないとは、敵ながらに天晴れな心意気よ! 貴様らの墓は、我々手ずから選んだ立派な石を据え置いてやろう! 行くぞ! 妹よ!」
「さっさと、埋まっちゃえー!」
 青と赤の二人が飛び上がり、そのスコップの形に見えなくもない両手杖を振り上げ、沼に向かって振り下ろした!
「我らが開けた大穴が貴様らの墓穴だ! くらえ! グレイブホール!」
 二人の杖の先が沼に触れた瞬間、大きく沼が抉れた。その穴の規模はトロルも余裕で落ち入る程に、巨大で深い。ワシらの足元まで抉られた大地に引きずられ、皆が泥まみれになりながらすっ転ぶ…!
 青と赤に一歩遅れて緑が続く!
「そして墓穴に落ちた貴様らを、俺が埋める! 行くぜ! 穴埋め!」
 万事休すか…! 息を飲み受け身の姿勢をとったワシだったが、次の瞬間信じられぬことが起こった!
 とぷんと音を立てて、抉れた穴は瞬く間に元に戻ってしまったのじゃ。泥濘んだ沼地に、ずぼずぼと三人揃って沼地に頭から突っ込んでしまう! 青、緑、赤の三色の苗が泥沼に植わったかのように、下半身だけが沼地から生えておる…! 根元からブクブクと泡が湧いたが、暫くして魔障の霧となって三色の苗は消えてしまった。
『何がしたかったんだろうねぇ?』
「うーん。自分達が泥にしたってこと、忘れちゃってたのかもねー」
 胸まで泥に浸かったワシは暫く呆然としておったが、いつの間にか人間に戻っておるのじゃった…。

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