四角い民と丸い旅人

 ピンクのまぁるい旅人。金色の流れ星に乗って、あっち ふらふら こっち ふらふら。星々の重力なんて、なんのその。気紛れ自由な風来坊。
 そんな旅の人は、今も これからも沢山の星を訊ねます。
 誘う方法なんて、とても簡単!
 星を見上げて貴方が声を掛けるだけ。たったそれだけで、星は流れて貴方の前にやってきますよ。
 四角は頭上の星々を見上げて、四角い目を瞬きました。四角い星から見上げる星は、全てかっちりとした堅い光を放って四角く輝いています。真上に浮かぶお月様は、四角い星の民は四角いものだと思っています。
 四角い星は全てが四角。
 だからだから、四角い星の民は驚いたのです。
 それは四角ではありませんでした。トゲトゲした、触ると痛いアイツみたいな形です。でもほんのり柔らかい光で、フワフワゆっくりと空を滑って行きます。不思議な形の先端は尖っていなくって、触ったら滑ってしまう程に滑らかです。
 なんだろう。
 四角は見上げます。
 もっと見たいな。降りて来ないかな。
 四角は、星を見上げて思います。
 すると、どうした事でしょう。柔らかい光を放つそれが、どんどん大きくなってきます。最初は四角い民のつぶらな四角い瞳程度の大きさだったのに、縦長の仲間と同じくらいになり、あっという間に四角い星に点在する大きな魔法の塔と同じ大きさになって行きました。もう、四角の目が眩みそうな程、柔らかい光でいっぱいです。
 柔らかい光にしがみついていた、見慣れない色の見慣れない形が何かを叫びました。でも、四角は動けません。だって、今まで見た事の無い形。不思議過ぎて、なにがなんだか分からなくなってしまったんですもの!
 澄んだ音を立てて、光が四角い星の平らな地面にぶつかりました。
 光は輝いて沢山の小さな光に砕けると、その中心で見慣れぬ形がぺったりと平たくなっています。
 見慣れぬ形は不思議です。全く四角くありません。角がありません。掴み所の無い滑らかな形です。
 四角が勇気を出して近づくと、見慣れぬ形がもぞりと動きました。真っ青な丸い瞳をぱちくりして、赤い足がばたばたします。四角には分からぬ言葉をむにゃむにゃ言って、ぽよんと跳ね起きました。
 それはピンク色のまぁるい旅人。
 尖った部分が何一つ無いまぁるいそれは、ぽよぽよと四角い星の住人に話しかけてきます。どうやら襲って来る気配はないので、四角い彼は相手の言葉に耳を傾けます。ちょこちょこ四角を支える足は、おっかなびっくり震えています。
 でも、全く理解出来ません。
 見慣れぬ形のそれが、一生懸命何かを言って、その言葉はそれぞれに違います。
「こんにちわ」
 ようやく聞き取れる言葉に、四角い目をぱちくり。ぺこりとお辞儀をして、こんにちわと返します。
「この ことば つかってる ほし ひさしぶり」
 見慣れぬ形は目を細めました。
「ぼく カービィ ながれぼし のって たびしてる」
 僕はキュービィ。四角は名乗り、旅人がやって来るなんてとても久しぶりだと思いました。思っただけで、四角が旅人を見たのは始めての事です。四角い星の外には、不思議な形で溢れているんだな!
「ながれぼし ばらばら あつめなきゃ」
 旅人がぷにぷに柔らかい身体を弾ませて駆出しました。四角も手伝います。電流びりびりの谷に落ちた星は、四角が電流を遮った隙に旅人が拾ってきます。とげとげの海にどんぶらこしている星は、四角を繋げた船に乗って追いかけます。不思議な雲を行ったり来たりの星は、旅人が四角を投げてキャッチしてもらいました。ぺたんとくっ付く崖に旅人が引っ付いた時なんて、二度と剥がれないんじゃないかって二人して半泣きです。
 ころころ転がった星々集めて、四角い星をくるりと一周。
 集まった星々くっ付けて、旅人は一安心。継ぎ接ぎだらけの星ですが、宇宙の光と力に暫く当てれば元に戻るんですって。四角はふしぎ不思議と星を覗き込みました。仄かに黄色く光るつるりとした面に、白い四角い姿が映り込んでいます。
「たすけてくれて ありがとう」
 旅人はぺこりとピンク色の頭を下げました。
 そして不思議そうに四角い星を見回しました。
「ふしぎ だれもいない けど けはい いっぱい」
 四角は旅人がとても聡い事に驚きました。この星に旅人が全く訪れないのは、実はこの星がとても殺風景だからです。空から見下ろすだけでのっぺりとした四角を作る面しか見えないのです。塔が見えても、それは態々足を止める程の事ではありません。
 でも、この星には民がいるのです。
 四角は旅人の隣に転がった、四角い石みたいなものに並びました。旅人がしげしげ覗き込んで、次の瞬間びっくりぽよよ!
「ぽよ!」
 旅人はくるくると星を為す全てに目を向けました。
 よーく見ると、星を為す全てが四角の集まりです。崖も、谷も、山も、そして地面も、なにもかもが、沢山の四角を積み重ねて出来ていたのです。旅人が覗き込んだ石も、よーく見れば眠っている四角でした。旅人は目をぱちくり。
「きみ しかくい ほし そのもの」
 四角は頷きました。
 動ける四角は今の所彼だけですが、寂しくなんてありません。四角い星は四角い民で出来ている。星から生まれ星に還る。星を救うのも四角なのです。
「ぼく いく」
 旅人は星に乗り上げ、四角を見ました。ここは旅人の住処にはなれない。四角も決して止めません。
 でもね、気が向いたら来て。
 四角が言うと、旅人は笑いました。
 きらきらと舞う黄金色の光が、四角い星に雨霰と降り注ぎました。全ての四角に挨拶をするように、星は何度も何度も星を旋回し、零れる光にありがとうの気持ちを込めました。星が輝き、四角の1つ1つが目を開けて旅人を見上げました。嬉しそうに微笑むもの、珍しそうに光を眺めるもの、久々に目覚めてくしゃみをするもの、様々な反応に星が一際強く輝きました。
 旅人が四角の前に留まると、にっこり笑いました。
「すてきな ほし また くる」
 四角も微笑みます。全ての民の代表として、旅人に告げました。
 待ってるよ。


「しかくい ほし いったことある」
 旅人は大王に旅の話をする。四角い星の四角い民。いっぱいいっぱい四角ばっかり。
 大王は生返事を返します。
「しかく ワドルディに にてる」
 旅人はワドルディを見て目をぱちくり。
「しかく ほしの いのち」
 たぶんワドルディもそう。旅人はトマトを頬張りました。