FF系雑記ログ3 キャラ指定ばとんシリーズ 前半

  Waltz with the Evils ……http://www1.bbiq.jp/w2te/

■ 火種 ■

   キャラ指定バトン『綺麗と言われて浮かぶ人は?』より

 野営の準備の為にバッツが投げて寄越したのは乾燥した枝の束。ご丁寧にも蔦でまとめられ、一人の戦士の腕力が放ったとしても空中で分解することはない。それを空中で華麗にキャッチしたのはティーダ。空中で一回転した時に重力から解き放たれて一瞬でも宙を漂う姿が、夕焼けに照り輝き金具がトパーズのように煌めいた。
 戦士としても一流の腕を持っていたスコールでさえ、ティーダのしなやかで完成された身のこなしを純粋に褒め称えた。まるで空中ですら水の中で泳ぐような動作を、魔力の力なしで肉体の躍動で賄ってしまうのは大したものだと思う。ブリッツボールという競技の選手である彼から大まかなルールを聞かされているとは言え、その競技のエースであり抜きん出た実力を持っているとは言え、一つのスポーツに収まる力量では既にないと、スコールは思っていた。
 ティーダの日に焼けた顔に白い歯がより白く見え、逆光に夜に浮かぶ三日月を思わせる。青い瞳がくるりと動いて、スコールを見る。
「ほい!パス!」
 真っ直ぐ、振れなく、懐に転がり込むような勢いで薪がスコールに届いた。先ほどのバッツの一投が弧を描く黒い影を想像させるとしたら、ティーダのそれは直線で光の矢を思わせた。
 スコールは蔦をサバイバルナイフで切り裂くと、木の枝にしぶとくくっ付いていた葉をいくつか毟り取る。足りない分はそこら辺の落ち葉を集める。両の手に溢れるほどの量に達すると、薪の下に忍び込ませる。少し意識を集中し、魔力を指先に集める。
 唇が呟くほどの動きをしたと思った瞬間、指先に火が灯りスコールはその火を葉に移した。葉が勢い良く燃えると、火は瞬く間に薪に移り焚火となる。
 スコールが少し安堵の息を吐いた。
 先日、焚火の火起こしに失敗してバッツから指南を受けたからであったからだ。魔法の火は魔力を燃料とする為、薪を全て炭化させる。葉の力で魔力の炎を自然の炎に転換させる事。わかったかい? スコール?
 年上の真顔で自分の知らない世界の常識を語られれば、人によっては咎められているようにもお伽話でも聞いているかのように思うだろう。スコールは真面目で不器用な性格が災いして、どちらかといえば仲の良いバッツに咎められた気分だった。今回ばかりは失敗できない。失敗したらどんな顔で言ってくるのか、スコールは不安に思えば思うほど心臓の音が重く響いた。
 目の前には魔力の力を離れ自然に燃え出した焚火がある。薪を定期的に足していけば、おいそれとは消えない安定した光をスコールは見つめていた。暫くして視線をあげて、彼は驚くことになる。
 ティーダが真剣にスコールを見ていたのだ。
 きらきらと瞳を輝かせ、ようやく自分の視線に気が付いたと察したティーダは急き込むように言い放った。
「やっぱ、かっこいいっすね!!」
「……?」
「魔法っすよ! スコールはすっごい上手に扱えて、俺、羨ましいっす!!」
 スコールは少し眉根を寄せてティーダを見た。相変わらずの不動の尊敬の念がこもった瞳が、そこにある。
 今回の火起こしが上手く行かねば、ガンブレードの為に用意していた火種と火薬を使うことになっていただろう。魔法の扱いがどんなに上手であろうと、本人の認識など様々だ。今回は特に『魔法がうまく使えて何になる』と懐疑的に思っていたのに…だ。
「お前は、本当に奇麗な奴だ」
 どんなに呪っても。
 どんなに嫌っても。
 彼の方程式に掛かれば太陽の如き輝きに変じてしまうのだ。
 その熱意は太陽のように無慈悲で、眩しく、心に届く温度はまさに日向の暖かさ。
「それほどでもないっすよー」
 ティーダの声が響く。仲間の声が辺りを騒がせはじめた。
 暖かい、自分の起こした焚火を中心に、温もりが広がっていく。


■ replica ■

   キャラ指定バトン『俺様街道まっしぐらなのは?』より

「そんなの、どうだっていいじゃなーい」
 甲高く響いた男の裏声は、鉄板の反響しガラスの筒を震わす。白塗りの顔を愉快そうに歪ませ、口元の笑みは誇張された赤いメイクにより笑みが映える。床に散らばった数々の古代文書が道化の衣の一振りで幻のように消えると、彼は軽快な足取りで立ち上がり声を掛けてきた存在を見た。
 金色の色彩。滝のように流れる金髪を色とりどりの宝石が乱舞する内に、金の粉をまぶしたかのような光沢のある白い肌がある。紫のメイクが誇張するのは高貴なる顔立ちで、整った顔に宝石のように嵌る瞳が軽蔑のような感情を宿して細められた。
「やはり貴様はオリジナルには劣る」
「ふん!そんなのはどうだっていいんだよ!」
 道化はじたんだを踏んで、そしてカラカラと笑う。忙しなく変わる感情は不安定で、その気配は他人の心を荒立てる。
 幻獣から引き抜かれた魔導の力を注入されて生まれた魔導師。純粋に力で勝負しようものなら、その技を競うものであるなら、それはもはや人の領域ものではない。そして、この壊れた人格はその与えられた力をきちんと引き出し扱うよう意識が向いていた。暴走せずに存在しているその逸材は、確かに成功例であり慎重に扱えば重要な駒になるだろうと策士なる皇帝は感じていた。
「だが、お前はあの娘を逃がしたのではないか。追えば簡単に引き戻せるのに、なぜしない?」
「皇帝サマ。駄目ですよぉ」
 道化が喉に絡み付くような甘ったるい猫撫で声で言う。ネイルの施された指先がそっと皇帝の顎を撫で、露骨に不機嫌な表情を表した様に大げさに恐れ戦いて遠ざかる。そしてくつくつと肩を震わし笑う度に、衣が揺れる。まるで存在全てが笑っているようだ。
「確かにボクちんは模倣品だろうけれど、『俺様』は模倣品じゃない。オリジナルには憧れるけど、それは、模倣品の持つ憧れじゃない。『俺様』が元々持っていた……信仰心だよ。だから駄目ですよ。そんな言葉では……。俺様は彼女を迎えには行かない」
 皇帝はわずかに瞳を見開いた。
 そこにはいつもの雷光のように明滅を繰り返す瞳に宿った狂気の色がない。耳に障る裏声でもない。
 そこには一人の男がいた。ケフカ・パラッツォは薄氷の張った湖の如く静かな感情を瞳に宿し、整然と物を言う技術士のような口調で言った。
「あの子は更なる力を手に入れる。俺様の手元にあった頃の不十分な力では、もうない、本当の彼女自身の力。伝説の幻獣の力……」
 ケフカの口調はまるで子の成長を見守る親のような、弟子の力を信じるような師匠の口調。狂った様など何処にも無く、その装束で語られて滑稽に見えた。
「本当に、あの子をご所望なら……」
 ぺたぺたと道化の柔らかい靴底が鋼鉄の板の上を渡る。目の前に迫ったのは、この上なく正気で少々軽蔑の色が混ざった色。道化のメイクの隙間から呟かれた言葉は、北風のように冷えていた。
「自分で迎えに行けば?」
 私に道化を演じろと?
 皇帝は今度こそ強い嫌悪を表情に表して、その場を後にした。甲高い、狂った笑いを背に受けながら。


■ ショコラ ■

   キャラ指定バトン『ペットにしたいのは?』より

 銀色の結った髪を解くと、髪にこびり付いた砂埃が舞う。彼は背に巨大な袋を担ぎ、カオスの領土と人々に恐れられる地域の道を行く。時折、袋の底から液体が滴り落ち、その液体を啜ろうと影が走り寄り舐める。獰猛で飢えた瞳が袋を見るも、その奥にある担いだ主の視線に打ち抜かれ砕ける。
 影達は察する。その男は強い。
 影達は知っている。カオスの領土で、屈指の実力を誇る者達の一人であること。
 やがて青年は一つ溜め息を吐いて背袋を落とした。何かが潰れ折れる音が鼻を突く死臭と共に袋から広がる。彼が足を止めた場所は取り立てて何かあるという場所ではない。木は鬱蒼と茂る程の本数もなく疎らに根を張り、生きているのか疑わしいような葉を付ける。建物でもあったのかレンガの壁の残骸があるも、それは家のどの部分であったのか既に判別はつかない。風に吹き曝され、非常に風が強い場所。しかし、そこには多くの野薔薇が咲いていた。血のように赤黒い野薔薇が、その小振りな花を散らせていた。
 陰鬱に厚い雲の下にある光景は、背筋を寒くさせる恐ろしさを秘めていた。
 青年は自分の庭を見回して、一点でその視線を止めた。野薔薇を踏み、邪魔になれば剣で薙ぎ払いながら、庭の一角に生えた木の下に辿り着く。
 そこにいたのは、空色の鎧を纏う魔道師。青年には見覚えのある存在だった。
「何しているんだ? エクスデス」
「無意味な事を訊くな、フリオニール。見れば分かるであろう」
 空色の甲冑の複雑な文様が、小さな身じろぎに鈍く光る。フリオニールは改めてエクスデスを見た。木の幹に背を預けている相手の半身は……地に埋まっていた。
 フリオニールは出てきた答えの阿呆らしさに、目を細めた。
「コスモスの連中に手酷くやられたか。無様だな」
「ファファファ…知った口を利くな若造が」
 エクスデスは笑うと、地面の土を一つ掬い見た。
「しかし、この土の養分は凄まじいな。強力な無の力が宿っている。花も良く育つ筈だ」
 ふふ…。フリオニールが薄く笑った。
 彼は園芸を好んでしている訳ではなかったが、こうも言い当てられ褒められる要因が籠った言葉を受ければ悪い気はしない。まるで甘いものを口にしたかのような心地よさがしみ込んできた。カオスの軍勢では誰にも打ち解けず単独の行動をするのは彼以外にも多くいて珍しくもなかったが、彼が笑うのは非常に…いや、今までもこれからも無いのではないかという程に珍しかった。
「どうせタダだ。好きなようにすればいい」
 エクスデスが『ほぉ…』と唸った。
「私が本気で養分を吸収すれば、この花園は朽ちて無に還るぞ」
「好きにすればいい」
 フリオニールはエクスデスを見下ろし、身を翻した。
「その程度で朽ちる野薔薇なんて、普通の薔薇と変わらないさ」


■ 馬上の騎士 ■

   キャラ指定バトン『自分的に忠実、部下、子分は?』より

「よ、エクスデス」
 気安く掛かった声の主は、明るく響く。暗い重厚な城のような内部は陰鬱とし、乾いた空気がゆっくりと流れた。先ほどまで視界にも気配にも誰も存在しなかったのに、いつも彼の登場は唐突だった。声を掛けられた主は兜の隙間から視線を落とす。
 少し、背の小さい男はようやく振り返った相手に、ここではこれほど似つかわしくない無邪気な笑みを浮かべた。
 前に多く下ろされた茶色い髪の隙間から、屈託無い笑顔が見える。長袖にブーツとマント、一般的なごく普通の旅人の装束の彼は本当にこの場に相応しくない程に普通だった。彼はバッツ・クラウザー。エクスデスの片腕である。
 動けば風となるそれは、留まる時は穏やかな空気のようにそこに存在する。動く事を拒めばそれは生命に死を与える毒となり、命に従って添えば寿命まで蝕み続ける毒となる。そこに存在しながら、認識されないそれは、そこにいながらそこにいないも同じ存在。彼は空気という特性を十二分に帯びてそこに居た。
 しかし、一度風となって動けばそれもそれで恐ろしい。暴風は命を脅かし、狂気を運び、人の心をざわめかせる。
 特にチョコボに黒い装甲を取り付け戦場を駆け巡る様は、敵に恐れられていた。
「また、黒の薔薇さんの所に行っていたのか?」
「それがどうかしたか?」
 バッツは首を傾げて、少しだけ後頭部を掻いた。
「あんたが居ない時に命令が来たからさ、とりあえず行ってきた。それを伝えに来ただけだ」
 言いたい事を言ったのか、赤いマントが翻る。
 空気に滲むように漂ったのは、血の香りと戦場の匂いだった。
「じゃあな」
 次の瞬間、バッツはその場から掻き消えるように居なくなっていた。エクスデスは己の忠臣の行為に一言も礼を漏らさず、一瞬魔法陣を輝かせて消えた。
 もう、その空間には誰もいない。


■ 合わせ鏡の中 ■

   キャラ指定バトン『怖いもの無しなのは?』より

「うちの先生埋まってる?」
 突然掛かった声と、突然湧いた気配。思わずフリオニールは剣を抜き放ち飛び退って身構えた。
 刃を突き付けられても動じる事なく立っているのは、茶色い髪の厚手の旅人の装束をまとった男。エクスデスの部下のバッツ・クラウザーという男………の筈だ。とフリオニールは心の中で付け足した。特に関心もない相手であるし、それに、何度か会っていると思われるのにフリオニールはほとんどバッツという男を思い出せなかった。今見ても、ごく普通の特に特徴のない旅人が目の前にいるのである。
 今回、目の前の男が『バッツ・クラウザー』であると思ったのも、相手がエクスデスを『先生』と呼ぶからである。カオスの陣営のピンからキリまで多数存在していても、エクスデスを先生と呼ぶ存在は居ない。以前、バッツがそう呼んでいるのを耳にしなければ、フリオニールは目の前の男が何者だか理解できなかったであろう。
 フリオニールは剣を構えたまま、バッツを睨み付けた。
「ここには居ない」
「そっか」
 バッツはにっこりと笑った。カオスの陣営に属するにはあまりにも似合わない、屈託のない無邪気な笑み。
 弱そうだな……。
 そう、フリオニールは思う。エクスデスは次元の挟間に存在する『無』の力を用いる強力な魔道師である。そんな強力な存在の片腕となるような男には到底見えなかった。
 そんな思いを見透かしたのか、バッツは笑った。
「きっと、あんたと俺は一生理解できないよ」
 バッツはざっと野薔薇の花園を見渡す。
「俺は旅人。人の心に刻まれることなく、記憶に残らずこの世界を渡り刹那を巡る者。俺は誰にも顧みられない代わりに、誰も顧みない。あんたのように、存在し続け生き残り留まる野薔薇の守護者とは対局の存在だ。理解はできない。でも、そんな事はどうでもいい」
 次の瞬間、目の前にいた男がそっと己の顎を背後から撫でる。警戒を緩めてなどいないフリオニールは確然とした気持ちに、衝撃を受けた。
 怒りにフリオニールは振り向き様に相手を切り裂こうと剣を振るう。しかし手応えはなく、気配も途絶える。まるでそこには最初から誰もいなかったかのような静けさが辺りを包んだ。強い風に煽られる野薔薇の葉の擦れが、刺が花弁を裂く音が耳に届く。
 肩を叩かれるのと、気配が湧くのは同時だった。
「駄目だよ、黒の薔薇。俺はどこにでもいるし、どこにもいない」
 俺を拘束する力を持つものがいるなら、それはどんな存在なんだろうな? 実はすっごく原始的な力だったりして。言葉が山彦のように遠くから響いて溶けた。もう、周囲には誰もいない。もう、気配も湧かず声も聞こえなくなった。
 フリオニールは苛立ち、男の顔を思い出そうとしたが、すでにどんな顔か思い出せなくなっていた。
 ただ、背後を取られた屈辱が頭を加熱する。


■ Never Lover ■

   キャラ指定バトン『彼氏にしたいのは?』より

「こんばんわ。アルティミシア」
 赤い帽子に赤い装束の男が、帽子を持ち上げ挨拶をする。心地よい声色と、帽子を持ち上げてふわりと浮かんだ髪がふわふわと茶色い葉が翻るように落ちて落ち着く。確かエクスデスの部下のバッツという男だったわね……アルティミシアは過去の記憶を遡ってその存在を確かめる。
「何かご用事?」
 以前会った時は普通の旅人の装束であったというのに、今回はこんなに真っ赤など派手な法衣。白魔導や黒魔導、青魔導に赤魔導そして召喚術などあらゆる魔術に精通している人物には、アルティミシアには到底見えなかった。それでもバッツはアルティミシアの知る中で自分以外に唯一の時魔法を操れる人物であるとも知っていた。それは己が時を操り過去を垣間みた記録ではなく、目の前の本人から聞いた言葉でもあった。
「いや、特に用事はないよ」
 そう言ってバッツは笑う。時折ケフカとたわい無ない遊びに興じていると思えば、次元城の隅で釣り糸を垂れリヴァイアサンを釣り上げる。
 それでも突然誰かの隣に現れては、突然消えて跡形も痕跡を残さない。
 用事があるのか、本当に言葉の通り用がないのか、実は誰にも理解できなかった。空を掴むような存在である。
「アルティミシアが望んだから、俺はここにいるんだよ」
 美麗字句を並び立てる気障な男によく似合う、優雅な会釈とその言葉。
 体の良い割には意味のない言い訳ね。アルティミシアは呆れたように吐息を漏らす。
 それでも吐息は驚くほど熱を帯びる。何処の過去で渡された言葉であったのだろう。アルティミシアは懸命に過去を捜索しようとしたが、答えを見いだそうとしようとすればするほど心が痛み耐えきれなくなる。最後にはその謎を迷宮入りにして、表面だけの答えを口にする。
「口ばかり達者ね」
 永き時を超える自分に付き添える者など居ないだろうし、自分には孤独が似合っている。でも、それでも、この男のこの言葉の軽さはその言葉の意味を真としてしまいそうだった。時間の網では捕らえる事の難しい目の前の男は、確かに存在しているとも存在していないともいえて、永き年月を経ても身近に思えていそうだった。
 アルティミシアはうっすらと微笑んだ。
「貴方みたいな男には付き合いきれない」
「それはそうですとも」
 バッツは誰の口調を真似ているのやら、楽しそうに言葉を紡いだ。
「俺は誰とも付き合ってなんていないからね」
 次の瞬間、姿が消え、気配も消えた。
 アルティミシアは少し前に落ちた前髪を指先で払うと、少し意識を集中する。魔法の力が練られ、時が渦巻く。
 しかし、その流れは止まった。
 時は追撃を止め、穏やかにいつのように流れる。
「どこかに居て、何処にでも居るのならば、捜索の範囲が広すぎるわね」
 全く、厄介な坊や……。そんな言葉が一つ、過去になる。


■ 耳鳴り ■

   キャラ指定バトン『守って(助けて)あげたいのは?』より

 未来を断つ為にするべき事と言えば、己を殺す事がもっともらしい答えに違いないはずだった。しかし、この輪廻に閉ざされた世界ではそれも叶わず、自害したとしてもいつの間にか自分はこの世界のどこかに立っている。己の獲物を持ち、敵の場所を知っていて、叶わぬ望みにどこか安堵する。
 そして、目の前には必ずあの男が立っている。
 笑みも知らず、怒りも知らず、ただ、目的をなす事を目的として作られた人形の玩具のような存在。未来の己の趣味は、今の私には想像もつかぬほど悪趣味だ。
 名前を持たぬ男を、私は個人的に狂戦士と呼んでいた。いや、狂っているように見えないから、若造共は闇の戦士と呼んではいた。
 黒い豊かな髪は艶やかで、肌は髪と対照的に白い陶器のように透き通り生気がない。瞳は冬の空のように高く透き通った空色で、水面に張った氷のようにその感情らしきものを奥底に封じ込めている。唇の色は薄すぎて肌の色と同化しているのではないかと思うほどであり、剣を交えた時に感じた相手の体温は非常に冷たかった。
「彼を哀れんでいるのですね。ガーラント」
 コスモスが愁いを帯びた表情で、私には大げさすぎると思う悲しみを滲ませた。
「奴は敵だ。同情は死を招く」
「確かにそうかもしれません」
 コスモスの金色の睫毛が悲しげに伏せられた。二の腕に触れる細い指が小さく震え、ブレスレットの輝きを空気に散らす。
「それでも、彼を想う存在こそが彼を救うに足る資格を持つと思うのです」
 ですから…
 コスモスは言葉を継いだ。
「彼を見捨てないであげて下さいね」
 それは…カオスに行って欲しいものだな。
 私は見上げてくるコスモスの顔に苦渋を滲ませた視線を投げた。第一、なぜ私が彼を救う必要があるのだろうか? 付きまとわれているのは私であって。何か特別な縁がある訳ではないのに…だ。一分の隙もなく顔面を覆う兜だが、なぜか周りには己の表情というか気配が漏れてしまうものだった。コスモスは微笑み、甲冑の胸元に掌を置いた。
「貴方は優しい人。私の言葉を貴方は必ずここに留めてくれる」
 花びらが開くように唇が紡ぐ。言葉を発するべく喉が震えたが、声が聞き取れない。だが、言った言葉の意味はわかる。
 『おねがいしますね』
 敵すら愛おしく思う女神。その願いが耳に痛い。
 私はその手折れてしまいそうな小さい手を取り、引きはがした。


■ はがねのこころ ■

   キャラ指定バトン『クールと言われて浮かぶ人は?』より

 黒野薔薇。
 カオスの軍勢からはそう呼ばれている人物が居る。数多くの世界をつなぎ合わせたこの閉ざされた輪廻の地に置いて、言語すら難解に感じる異種族は必ずや存在し、互いに理解しかねる異文化が濃厚に漂う。故に、己と同じ世界…いや隣国とも言える近き国の青年は一目で存在を見いだせるほどに浮きだって見えた。
 しかし、彼とは道が違い過ぎた。
 彼は革命を望んでいるという訳ではなかった。小さい彼自身の夢。しかし、その夢を叶えるまでに巻き込むものは、決して小さくはなかった。彼の夢が叶う時、それは己の国が滅ぼされるという事。民一人例外無く厄災は降り注ぐだろう。連結は断たれ、誰もが孤独に打ち震え、他者の温もりを失い荒廃するのがえ目に見えた。それは認められぬ。だから、私はフリオニールという男と敵対しているのだ。
「国を否定する事は許されん」
 私の言葉に旅人はふぅんと言葉なのか吐息なのか曖昧な音を漏らした。
「私は皇帝だぞ。国を導き、守る立場だ。国という存在がもたらす利益を誰よりも知っている。だから、国を否定する者を許す事はできん」
 例えばだ
 私はそう言って足を組み替えた。金色の装飾がしゃらりと鳴って絹に淡く黄金色が移り込む。
「お前たち旅人が安全と思えるのは何だ?」
「そりゃ、治安が良いとか平和だとか、戦争が無いとか、色々だな。特に交通の要になる都市の治安が良い国は信頼できる」
 流石、旅人として長き旅路を行く男だ。私はのほほんとした顔で井戸端で交わすような口調でありながら、的確に意見を述べる鋭さに内心感心する。
「でも、盗賊はやりずれぇなぁ」
「盗賊に我が物顔されちゃあ国の面子が丸つぶれだろ」
 バッツの横を通りかかったジタンの言葉に、からかうようにバッツは拳を入れる。そうすればジタンも負けじと拳を叩き込み、駆ければ追い飛べば跳ねる。いつも遠巻きに眺めている光景が、目の前から徐々に遠ざかる。
 ジタンを追おうと姿勢を低くしたバッツは、体を強張らせるように留まり私を見た。
「故郷の民を裁くのか?」
 先日、私と黒野薔薇の戦闘を見ていたのだろう。バッツの顔に茶化した様子は感じられない。
 私は生真面目そうに小さく頷いた。
「それも、皇帝の責務だ」
 そう、例え、故郷の民、己の親族であったとしても、裁かねばならないのだ。
 私が皇帝である限り…。