FF系雑記ログ3 キャラ指定ばとんシリーズ 後半

  Waltz with the Evils ……http://www1.bbiq.jp/w2te/

■ 発展途上の恋 ■

   キャラ指定バトン『優しいと言われて浮かぶ人は?』より

 私よりも少し小さい手。まだ少しぽっちゃりとした柔らかい手で、下から掬い上げるように私の手を取る。赤の甲冑にたくさんの宝石が散らされて、その一つ一つに私の顔が映る。様々な顔色の私に少し視線をそらすと、最終的に彼の顔にたどり着く。金色の短い髪に健康的な肌色がいっぱいに広がり、そのなかに瞳の色が一番際立って吸い込まれる。自信にあふれた決意の瞳が、しっかり私を見つめて宣誓する。
 『ティナは僕が守るよ』
 少しくすぐったい。だから、私は少しはにかんで微笑むのだけれど、彼は頬を赤らめてどこか遠くを見つめる。
 私よりも大きな手。少し筋張っていて、皮膚が硬い。薬草の匂いの染み付いた手が、促すように差し招くように私の前を泳ぎ彼は私の隣に立つ。茶色い髪に日に焼けた肌の横顔は、いつも笑みに目が細められて見上げる私は彼の瞳の色が思い出せない。彼はふと思い出したように立ち止まり、唐突に声をかける。
 『たまには笑っちゃえよ』
 白い歯を剥き出しにして笑うから、その顔が可笑しくて笑ってしまう。その笑みに彼は尚更嬉しそうに笑う。互いの顔なんてもう見えなくて、楽しげな気配と声が広がる。
 でも、私は笑い方なんてどこで知ったんだろう。
 以前はカオスの軍勢の下で人形のように殺戮を繰り返していたという昔は、私には実感のない過去だ。それでも、そんな過去に生きる私は笑うなんてしなかったと思う。だって、今居る皆と共に居る事を私は忘れたくない。忘れてしまう程度なら、きっと過去の私は仕合わせではなかったんだ。
 過去を思うと記憶は何もない。
 でも、私は沈黙が嫌いじゃない。それは昔からだと思う。
 オニオンは静かすぎるのが時々嫌いみたいだけど、バッツは静かに出来ないけど、私は気になんてした事ない。
 優しい沈黙は
 私が
 私という存在が
 居ても良いという事を許してくれるという事。心が苦しみから解き放たれるような気がする。
 いつ、知ったんだろう。
 それが思い出せない。
 でも
 きっと、人を好きになるって事は……


■ 世界の果てまで ■

   キャラ指定バトン『兎っぽいのは?』より

「こんにちわ、セフィロス」
 目を開けるとそこには漆黒の闇に爛々と光る双眼。己の目が瞼の裏と言う微睡んだ母体のような闇から、外界に放り出されて見た闇はぬるりと滑って相手の情報と言う情報をその黒に溶かしてしまう。双眼は笑みの形に縁取られ、ようやく慣れて来た組織が闇の中から相手を引きずり出す。
 三日月の装飾の施された巨大な帽子に量の多い髪と色黒い肌を埋め込んでいる。黒いローブは反射すべき光と言う光を吸収すべく、艶のない素材で出来ていて帽子の真下をより暗くした。遠くから見れば、光を反射すべき双眼しか見えない。
 黒魔導士の姿の男は笑った。
「生き返ったみたいだけど、調子はいかがだい?」
 生き返った…?
 私はそこで少し前の出来事を思い出す。
 そうだ
 私は己の手を見る。そこには長い刀があり、血に塗れていた。竜の髭の繊維を裂いて最も細く仕上げた糸を編み込んだ見事な柄の最奥にまで血は染み込み、鋼に刻まれた彫刻を芸術という者は少なくない鍔には血飛沫の跡が桜吹雪のように散っている。刃はまるで大胆な筆使いをする芸術家の類い稀なる気まぐれが反映されて赤と鋼が入り交じり、俺には似つかわしくない芸術品のように見えた。しかし、他人が持てば全く似合わないように思えて、手放すつもりには全くならなかった。
「ここは、お前の世界だよ」
 黒魔導士は笑う。その黒い顔のあたりにぽっかりと真っ赤な半月を描いた。
 俺は己の存在を確かめる為に、命を絶った。まるで数時間前の事柄を思い出すように鮮明にその経緯を思い出す。
 黒魔導士は語る。命の数だけ存在する、その者だけの世界。その者が死ねばその者の世界は壊れ崩れさり、生き返れば世界は復活する。彼はその世界を渡り歩く旅人で、名はバッツというらしい。
「ようこそ、セフィロス! 君の世界へ、ようこそ!」
 そして男は消える。存在すらしていなかったかのように、何も痕跡も残さずに。
 その存在そのものが、今の俺と似通っているようで俺は声を上げて笑おうとする。それとも男の言葉が面白かったんだろうか? なぜか可笑しくてたまらない。
 しかし、声にならず息だけが、高々と世界に巻き上がっただけだった。


■ 仮初恋唄 ■

   キャラ指定バトン『彼女にしたいのは?』より

 全く、僕があんな程度の敵に劣る訳無いじゃん。大人って馬鹿だな。
 青みを帯びた鋼の鎧を着た少年は、顔にそう書いた表情で薄暗い神殿の中を行く。鋼は青というよりも光沢のある黒に落ち着き、縁取りの銀が鋭さを増す。青い衣から覗く腕は大人に比べれば細いが、伸びきっていない背丈は大人にはもう決して真似できぬほどに軽い。まだ幼さに丸みを帯びる頬を引き締めるのは大人達に対する苛立ち。少年はいつも憤りを感じていた。
 神殿の長い廊下が終わり、外へ通じる。真っ青な夜空に満月が浮かんでいる。
 その満月の眩しさに目を細めて立ち止まった少年は、気配を感じて視線を巡らせた。気配は目の前を下る階段の遥か下方に居た。
「………」
 そこには年上の女性がいる。金色のふわふわと漂う風が夜空に光の粉を散らし、白い肌に滑らせた衣装はシンプルな作りでありながら赤い花を幾つも散らした華やかな柄の布である。マントも白地と見せかけて、さらに銀糸で光の加減で模様が浮かび上がるたぐいまれなる品だ。光の下で風を受ける彼女は、一つの至宝のように華美で繊細だ。
 魔導士ケフカのお気に入りの人形。少年は戦闘以外で見るのは初めてのその人形をまじまじと見つめた。
 弱そう…。白い頬を動かさず、小さくほんのりと赤みの差した唇がそう紡いだ。
 細い腕。細い足。細い腰。どんなに魔法に長けているとしても、その動きは機敏でも洗練もされてもいなさそうである。殺して来た人間の中に混ざっていた女を思い出す。逃げ惑う姿も、命を乞う様も、どれも下らなくて自分勝手で苛立たしくて殺した。そんな思い出を齎した女を彷彿とさせる雰囲気がある。
 儚げだ。脆そうだ。
 どうしてあの魔導士が執心するのかイマイチ少年には理解できない。
 こつんと、階段を下りるたびに、少年の苛立ちは募る。
 全くの無防備。自分の存在にこれほど近づいても気がつかないのか?馬鹿じゃないの?神経無いの?本当にコイツ役に立つの?瞳をよぎる数々の疑問が光によってきらめき、瞬くたびに疑問を確信に変える。本当に気がついてないよ。馬鹿だよ。神経無いよ、きっと。役に立つなんてあり得ないね。
 少年は横をついに通り過ぎる。
 かつん
 小さいブーツの金属が石を積み上げた階段に当たり甲高い音を立てた。
 目の前に見据える。女性の瞳は少年を見ておらず、遥かな空ただ乾いた瞳に映していた。
「……呆れた」
 殺す気も起きないや。
 そう言って少年は階段を下って行く。
 少年が殺さなかった弱者は、後にも先にも彼女だけ。


■ ある朝の事件 ■

   キャラ指定バトン『守って欲しいのは?』より

 カオスの神殿に主はほとんど居ない。カオス本人は火山帯を見下ろすカオスの領土の最奥にいつも居て、カオスの神殿はある意味前線基地のような場所だった。コスモスに選ばれた戦士と日夜戦闘を繰り返すカオス側の戦士が頻繁に訪れる。戦士達は時に命令を受ける為に訪れる事もあったが、ほとんどが同じ強さの者や気の合う者が出会ってはこれからの行程を話し合いコスモスの戦士に戦いを挑む事が多い。直接に命令が来る者など、ほんの一握りである。
 そして、実際カオスの言葉を伝えるのがウォーリア・オブ・ダーク。闇の戦士と呼ばれる男性である。
 そんな戦士の下に薔薇の香りと血の香りを纏う青年が訪れるのは朝早くの事。
「よう、ダーク」
 埃っぽい銀色の髪を掻き鋭い眼光を向けるのは、野薔薇の守護者とも言えるフリオニールと言う若者だ。
 主に皇帝との対決を繰り返しており、皇帝は彼が平和のシステムを崩壊させるエネルギーの持ち主と警戒してる。腕前は、カオスの軍勢の中ではかなり際立った力量を持っており、カオスに名指しで命令が下るほどである。闇の戦士は思い至り、フリオニールを見やる。実際話しかけてくる事など、今までに一度も無かったのだ。珍しい事である。
「バッツの居場所を知らないか?」
「私は知らぬ」
 漆黒の髪の戦士はその流れる黒の隙間に見える空色に何の感情も浮かべず応えた。漆黒の鎧の纏う体は微動だにせず、声だけが混じりけの無い沈黙の中に響く。
 エクスデスの下に付く旅人は神出鬼没でどこに居るかなど誰も知らない。時の魔女とて捜索は容易くはないだろう。
「ならば……」
 フリオニールがマントを翻し背後に置いていた何かを持ち上げた。緋色の瞳が空色の瞳を見る。
「これの面倒をあんたが見ろ」
 手渡されたのは小さな鉢。水色の双葉が出ている。
 闇の戦士は長い沈黙の後、フリオニールを見た。フリオニールは酷く不機嫌な様子で鉢の中の双葉を指差した。
「それは、エクスデスだ。先日手ひどくやられたを通り越して消滅させられかけたらしくてな、そんな状態で埋まってた。ご丁寧に俺の花園の養分を全部吸っていやがった。水やると双葉が揺れるから生きてはいるぞ」
 『これは、如雨露な』どこから取り出したのか、金属製の如雨露を取り出して闇の戦士に手渡す。
「じゃあ、俺は行くぞ。肥料を取りに行かねばならん」
 マントを翻し、高い靴音をたてて遠ざかって行く。
 残された闇の戦士は漆黒の鎧に映える水色の双葉を見やり、神殿の奥に消えて行った。

「で、バッツ。この如雨露と言う物はどうやって使うんだ?」
「如雨露の使い方を知らんのか!?というか先生枯れかかってるから!!」
 バッツが慌てて如雨露で水をかける様を、闇の戦士は興味深げに見つめた。


■ ここにいるよ ■

   キャラ指定バトン『良い相談相手は?』より

 陰鬱とした大気に押しつぶされたかのような荒廃とした石舞台。平たい石畳を敷き詰めた舞台には綿密な魔法陣が描かれ、その真上にふわふわと浮かぶ麗人を下から泡紫の光にて照らす。魔法陣を描く主はその銀色の髪を払い、瞳の色を厚い睫毛にて色彩と表情まで覆い隠して己の描いた陣を見る。磨かれて色を塗った爪先が音盤を舞うように一つ動くと、魔法陣は模様を変え生き物のようにその様相を変える。
 その光に金色の陰が舞い入った。
 軽やかに舞う軽業師はそのしなやかな尾にて風を引き裂き、手に持つ短剣の軌跡が風を生み出して石舞台の上に置かれたチェスの駒をなぎ倒した。
 魔法陣を描いていた主、クジャは乱入者の行動に思わず眉根を寄せた。空中で座る姿勢になり、足と腕を組んで目下の弟を見つめる。
「ジタン。ボクの邪魔をするな」
 顔に掛かった金色の色彩を払いジタンはクジャを見つめた。まだ幼さすら滲む丸みを帯びた頬に生意気な笑みを浮かべ、ジタンは片手に短剣を弄ぶ。
「この舞台には俺が立つんだ。この程度で崩れる舞台じゃ、俺の魅力は十二分に発揮なんて出来ないぜ」
「お前はボクの舞台で満足など一度もした事は無いだろう」
「ははっ!まぁな!」
 ジタンは大声で笑った。しかし、満足はしないがジタンはクジャの用意する舞台を好んでいた。あまり他者からの誘いに乗る気でないジタンは、自分がそれなりの理想の高さを持っていて相手がその理想に適うかどうかを見る眼力はある。ジタンは盗賊故に、物もさることながら人の魅力と価値を見る目にも優れていた。
 クジャは兄弟というよりも、一つの宝石細工のような男だ。
 プライドが高い故に生み出される繊細で洗練された流れ、鎮座して鑑賞される事が一番美しくとも本人は満足せず上を目指そうとする意思。ジタンが動けば彼の描いたプロットは淀みなく最も素晴らしい演出で幕を閉じる。最も美しい宝石は人目に容易く触れられる物でも、誰かが簡単に手に入る物でもあってはならない。
 ジタンはそんな兄を見上げて声を上げた。
「もう完成なら、俺がコスモスの連中の中から一番華やかな獲物を奪ってくるぞ」
 きらきらと瞳を輝かし疼く体を準備体操で慣らす弟は、本当に生命に満ちあふれているとクジャは思う。
 留まるよりも長く輝き続けるよりも一瞬の輝きが美しい彼に行動は最もふさわしい表現であり、彼も事ある毎に更なる輝きを得ようと鍛錬を怠らない。役者は一人の方が際立つ。役者はその場の劇を恋人とし、刹那の演舞を舞う美しさ。観客の目にどれだけ触れて晒されようと、役者の彼が愛されようと、舞台の上では役者と己の演出だけだ。
 下からの言葉にクジャは顎に指を這わす。暫く考えた後に、一つ小さく頷いた。
「そうだな。手練たお前がどんなに早く観客を連れて来ようと舞台は完成できる」
 舞台を整え、役者がいて、観客がやってくれば、後は円滑に幕を開けて閉じる。
 さぁさ、皆さん馳せ参ぜよ。されど、慎重に参られよ。
 我らの舞台の入場料は貴方の命か運で支払われる。


■ 激情ドールズ ■

   キャラ指定バトン『男前と言われて浮かぶ人は?』より

「熱くなっちゃ駄目ヨ〜。人生楽しまなくっちゃ」
 笑うメイクを殊更にゆがめて笑い、のどの奥から歯車が外れても尚回るような乾いた笑いを響かせる。調子はずれのどこかの王国の軍歌は、聞いた事も無いが絶対音程をズラしていると思われ嫌が応にも耳につく。気になるを通り越して、己の胸の中をざらざらと紙ヤスリで擦られるような痛みにはほど遠いが苛立ちを助長するには十分だった。
 獅子は耐えきれずに吠えた。
 雄々しい声の中に血泡が泡立つ音が混ざる。まるで溺れているかのようで、時折噎せる。血が、ぱたたと口から降った。
「貴様はカオスの協力者だろう、どうして俺たちを助ける真似をする!」
 敵は目の前の道化師ではなかったのに、どうしてこれほどまできつく叱責するのだろう。抉られた箇所は古傷になったが血管は圧迫されたかのように細くなり、血圧が上がるとその細い血管に怒濤のように血流が流れ込む。血管が悲鳴を上げて膨張しすぐ側の神経を刺激して重要な感覚を伝う敏感な神経系が痛んだ。冷静な部分ではスコールは傷口に沿って痛む頭痛を堪えながら、先ほどまでの経緯を思い出していた。
 確か、カオスの軍勢にはめられた。
 偽の情報だと予測は出来ていたが、それを確かめずにおく事はこれからの戦略上に弊害が出るとされた。仲間の為に道を切り開く、そう言ってクラウドは立ちはだかる敵を相手取りスコールを先に行かせた。スコールが確かめたのは偽の情報であったという真実で、それ以上でもなくそれ以下でもなく、予測が事実に変じた事で任務を遂げたと思われた。そこには当然のごとき待ち伏せがある。念入りに作られた罠に足を掬われてしまうのは確かめた数秒後。
 待ち伏せの襲撃はきつく、その事実を仲間に伝えるという任務は遂行できぬと歯を食いしばる。
 その時だ。
 この道化師がけたたましい笑い声を上げて、罠を粉砕したのは。
 敵である者達の熾烈な言い争いを後目に、クラウドが追いついてスコールを回収して逃げ帰って来た。戦場から十分な距離を置いて休憩できるという地点に着いたと思って腰を落とせば、目の前に道化師が笑って立っている。
「不快だ。とんでもなく不快だ」
 スコールが威圧を血と共に吐き出すその顔を見て、道化師はこわいこわいと身震いする振りをする。
「敵は敵。仲間は仲間。何もかも白黒ついちゃ面白くないじゃない」
「貴様の神経が俺達に理解できると思うか?」
 はたはたと白い手袋が振られると、ついにクラウドが剣を道化師に向けた。
 同類などと思われては、自分のみならず仲間も貶されているような気がしてクラウドはどうにも我慢できなかった。敵か見方か思案する相手の内心を弄ぶように観察し楽しむ目の前の男の神経など、自分達には理解できるはずが無い。俺達は兵士なのだ。命令は完遂するべき事柄であり、仲間は守るべきもの。疑う事も、蔑ろにする事も、俺達には許されない事なのだ。それはソルジャーとして生きて来たクラウドにとって常識のようなもので、相手の男は一般的に見てもソルジャーとして見ても、非常識そのものだった。
「おやおや、ぼくちん仲間外れ? それも結構」
 じゃあねぇ!と裏声だろう甲高い声が響くと、翻った鮮やかな衣の残像が瞼を焼く。
 視界が慣れて来た頃には、あの耳障りな声は遠くに遠ざかっていた。風にあの男の香水の香りが流れて、スコールとクラウドをあざ笑うかのように撫でていった。


■ 猫の目 ■

   キャラ指定バトン『癒し系と言われて浮かぶ人は?』より

 以前はまっさらな更地を通り越して荒涼とした大地になってしまった庭であったが、日々重ねた肥料集めと水やりや耕地が効を奏したらしい。以前は水気の無い白く乾いた土が、ふかふかの黒く湿った土となっている。あまり養分が多いと野薔薇が黒くなり過ぎる。この庭の主フリオニールは赤黒いくらいの色彩の薔薇を好んでいた。
「ようやくここも整った事だし、植え替えてやらんとな」
 そう言って振り返ったのは、頭に三つ葉を生やしたエクスデスである。
 以前は片手に乗るくらいの大きさで双葉を生やしていたのだが、両手に収まる程度に大きくなってくるとどうやら三つ葉になるらしい。もっと大きくなれば頭のは大樹になるのか少し気になるところである。どちらにしろ、完膚なきまでに己の庭の養分を吸い尽くされてしまって酷い目に会ったのだが、闇の戦士の鉢植えの生き物の扱いに見るに見かねてフリオニールが引き取る事になってしまった。鉢植えももう窮屈になって来たようだし、まぁ、仕方が無い。肥料も土地も皆タダだ。
「おーっす、黒いの!……って見ない間に随分とすっきりしちまったなぁ!」
「ジェクト……」
 のっしのっしと坂道を上ってやって来たのは大剣を携えたジェクトである。彼は数ヶ月に一回程度、庭の草刈りや枝払いを手伝ってもらっていた。本来の薔薇であれば一日でも手入れを欠かしてはいけないのだが、フリオニールの薔薇はそれほど柔ではない。フリオニールもジェクトもカオスの命令があれば戻るのでさえ容易くはないのだ。その程度で枯れてしまう弱い花ではお話しにならない。
 しかし、数ヶ月に一回は草刈りや枝払いをしないと庭が樹海のように成り果てるので、庭という状態にはそれなりにこだわりのあるフリオニールである。
 特に量が多く密集して生える蔦などは、ジェクトの大剣くらいでないと一気に切れないので重宝している。それでも定期的に来てくれるかと言えばそうではない。ジェクトが気が向いたとき。その間隔は猫のようでフリオニールには全く掴めはしない。
「これじゃあ、俺様の出番はまるでないな」
 そうして見回した筋肉隆々の体に掛かる、絡んだ癖毛の黒髪の隙間から好奇心剥き出しの瞳が細くなる。
「なぁんだ? この水色のちんまいの……」
「エクスデスだ」
「うわ!ほんとじゃねえか!!ちっせーし三つ葉生やしてるけど、なんかむっくり具合というかぽってり具合がエクスデスだな!」
 鉢植え抱えて水色の胴体をぷにぷに押され、エクスデスが『カメェーー!!』と怒る。その様子にジェクトがさも愉快そうに笑った。
「ははははは!これはいいや!!黒いの、お前コイツもここに植えるのか?」
「鉢植えではこれ以上大きくなれん」
 スコップを担いで見やっていたフリオニールは、冷静に応えた。
「コイツがでっかくなって葉っぱが茂ったらジェクト様が整えに来てやるぜ!」
 そこでジェクトがエクスデスを見て、一カ所を覗き込む。
「なんか…食いちぎられたような痕があるが……」
「蛇に噛み付かれるそうだ」
 鉢植えに埋まっていたエクスデスが『ファー』と怯えるように鳴いた。


■ 至上の赤 ■

   キャラ指定バトン『大人だなぁと思うのは?』より

 遠目からでも青々と茂って影が黒く落ちる為に、黒い庭園をなしていた空間に赤々と深紅の薔薇が咲く。鮮血のように生々しく、深紅のように深く、紅玉のように滑らかな赤を持つ薔薇を、主は一種憎々しげに眺めていた。カオスの領土の一部に属するその野薔薇の咲き誇る庭の主のフリオニールは、赤黒いくらいの色彩を好んでいたのでこれほどまでの深紅は彼にとって『いらない花』となるのだ。しかし、庭には一つも彼の望んだ暗赤色の薔薇はない。その原因も心得ていた。
 フリオニールは目下に視線を落とす。諸悪の根源は相も変わらず、風を受けてその葉に雫を宿す。
 しっかりと養分を賄っているというのに、その水色の生命は想像以上に成長のペースが遅い。
「さっさと育て、エクスデス。そして出て行け」
 スコップの先で突くと、水色の四葉の根元が『ファファファ』と笑う。
 だいぶ大きくなってきたが、相変わらず養分の吸収量は半端ではない。まぁ、千年近い樹齢を誇っていた大樹の化身が、本来の力を取り戻そうとすれば千年分の養分が必要になるのだろう。そう思えば納得はできるが、肥料を調達すれどもすれども全く大きくならない苛立ちが募る。
「まだ、使い物にはならなそうだな」
 薔薇の横であまり感情も表さずに眺めているのは、エクスデスの様子を見に来た闇の戦士である。元々エクスデスはカオスの陣営の者の中でも相当の実力者であり、その実力者の復帰はなるべく早いに越した事が無い。今後の作戦等の思案の為の視察という意味合いもあるそうだ。
「戦力になるなら、今すぐ引っこ抜いてやる」
 背後の言葉に、フリオニールが憎々しげにスコップを根元に引っ掛ける。
 ジェクトに『双葉がやっぱりお前には似合うぜー!』と刈り込まれてから数日もせずに四葉になったのだ。再生能力はかなり復活して来たのではないか、ささと出て行け、俺の庭が台無しだ、ぶつぶつぶつ。フリオニールの不満はそれなりに多い。
 実際、カオスの陣営のまとめ役になっている闇の戦士が使い物にならないのがいけない。
 フリオニールはその結論に至ると、闇の戦士に振り返った。
「……?」
 闇の戦士は薔薇を見ている。黒い髪の彼に赤い薔薇は嫌というほどによく似合った。まるで血飛沫の中に身を投じているような、戦場にふさわしき男の横顔だ。赤と黒の中に唯一ある真っ青な瞳は、ただ一点、薔薇を見つめてそらさない。
「その薔薇、気に入ったのか?」
 闇の戦士は反応はなかったが、フリオニールは彼が見つめていた薔薇を一つ手折った。
「俺には要らないものだ。欲しければ持って行けば良い」
 手渡し拒否無く掌に収まった薔薇を、というよりかその薔薇を握った指先を闇の戦士は見た。指先から一つ、深紅の薔薇よりも更に鮮やかな深紅が一つ流れる。
 不器用な男だ。
 フリオニールは薔薇の刺で怪我をした闇の戦士に、呆れてため息をついた。