ノルン山脈 思い出の味

 ノルン山脈へ続く場の悪い獣道。それを往復する影がめっきり減ってから一年近くが経ったはずである。伸び放題の草を踏み締めて、珍しい来訪者は獣道を行く。
 赤い衣を纏う初老の紳士は、赤茶羽の鳥人を伴って青い山脈を目指す。山道が似合わないどこかの宮殿の位の高い人物が着るような上品な出で立ちであるのに、紳士の歩調は鳥人の若者よりも遥かに早い。ざくざく進む遥か後ろで鳥人はへたり込んだ。
「待って下さいっすよ、ティアマット様〜。そんなペースで…僕は歩けないっすよ〜」
「それなら一足先きに飛んで行けばよかろう。わざわざ私につき合う必要はないのだぞ、カマイタチ」
「そんな事できませんっすよ〜」
 徒歩で山脈を目指すティアマットは本来は巨大な竜である。しかし、今は人間の姿でこの険しい道のりを進んでいるのは、ティアマット自身が望んだ事であった。それにわざわざつき合うカマイタチという鳥人の人の良さに、ティアマットはこれから会う仲間を重ねる。
 汗ひとつ流れないの顔に浮かぶ苦笑は、数カ月前に世界を支配しようとした者の顔とはほど遠い。
 息も絶え絶えのカマイタチから数十歩先にティアマットは腰を降ろした。ノルンの豊かな自然に住う生き物の声が、流れる川の音と見事に調和して空気にしみ込んで行く。ティアマットは奈落では見る事のできない空間をゆっくりと楽しむ。
 がさ。
 カマイタチが即座に立ち上がってティアマットの前で翼を構える。ティアマットも音を立てる草むらの奥にいる者が動物とは異なる気配を持っている事は分かった。
 草むらから大きく手を挙げて、誰かが敵意がない事を必死で伝えてくる。
「うわ〜ストップ、ストップ!怪しくないよ。全然怪しくないから〜」
 がさがさとクモの巣と葉っぱを引っ掛けて少女がほふく前進でやってきた。
 その少女の格好にティアマットとカマイタチが顔を見合わせる。
 少女の格好はどっからどう見てもサーカスのピエロの格好である。白い頬に金色の太陽のメイクが施され、腰には小さいナイフが下げられている。場違いも甚だしい。
「ノルン山脈って、でっかくてすぐ行けるかと思ったら、全然遠いんだもん。道は途中でなくなってるし、渓谷に遠回りしたり、見とれて足を滑らして川に落っこちたりしてたら、帰る事もできなくなっちゃってさ〜。そうそう、天気だってあんま良くなかったの。来た頃はお日様ぴっかぴかのハイキング日よりって感じだったんだけど、数日間雨が降ってたりして、もうびっちゃびちゃになっちゃうし…。せっかく洗った服も葉っぱだらけでブルーな気分になっちゃうわ。道に迷って数週間、水以外何にも飲めないし、もう、く………ったくたなの!!ねぇおじさん達もノルンに御用なんじゃない?」
 マシンガントークのドサクサに、おじさんと呼ばわりされた2人組が目を白黒させる。
「僕らもノルンに用があるっすけど、君みたいな珠魅がノルンになんのようなんっすか?」
 立ち上がって初めて見えたオパールの核の輝きを、カマイタチは訝しげに見つめる。
 風読み師に珠魅との交流はなく、珠魅がノルンに何の用があるのかさっぱり分からない。かといってカマイタチが師匠と仰ぐ者に、珠魅の友人が訪ねてくるとは思えない。
「ここに捨て置く訳にはいかん」
 意外な助け舟にカマイタチは驚いて振り向く。
 そこには赤い礼服を着込んだ人間の姿のティアマットしか居ない。
「っすけど、ティアマット様…」
「ならカマイタチ、その子を近隣の村に送っていてやるがいい」
「そんな体力残ってないっすよ〜!!」
 悲鳴に近い声にティアマットは愉快そうに口元を歪めると、一人さっさと進んでいってしまった。
 残されたカマイタチと珠魅の少女は顔を見合わせる。少女はにっこりと微笑むと、あのマシンガントーク並の早口でカマイタチに言った。
「怖い感じの人だと思ったら、意外に良い人だね。アタシはオペラ。宜しくね♪」
 神速もかくやの勢いでカマイタチの羽を掴んで握手すると、くたくたと言っていたとは思えない足取りで、ティアマットの横に追い付く。口八丁手八丁なオペラをカマイタチは目で追うので精一杯だ。
 オペラの女の子らしい高い声でまくしたてられるマシンガントークから、少しでも遠ざかろうとする後ろ姿はどこからみても普通の人間の背中である。
「良い人っすか…。このノルンの運命をぐちゃぐちゃにした張本人も、他人から見れば良い人っすか…」
 カマイタチは複雑な心境で先行く2人を追いかけた。

 風読み師の村が見えて来るとオペラという名の珠魅は入り口に向かって駆け出した。入り口で足を止めると慌てて空を見上げる。オペラに追い付いたティアマットにしか見えなかったが、オペラは感極まって泣いているようだった。透明な水晶が一個だけ頬を滑る。
 オペラが見上げる空を悠然と飛んで行く空色のドラゴンの影が、地上にいる3人に投げかけられる。
「メガロード様…」
「意外と元気そうだな」
「誰かさんのせいで、メガロード様がどれだけ傷付いた事っすか」
 ティアマットの言葉にカマイタチは刺のある言い方で返した。ティアマットは少しうつむくが何の反論もしなかった。ティアマットを睨んでいたカマイタチの耳に、オペラの短い悲鳴が響く。
「危ないよ〜!」
「まさか飛び出して来るとは思わなかったからな。怪我は無いか?」
 カマイタチが村を見ると倒れたオペラを、空色の巨大なドラゴンが覗き込んでいた。その輝く空色の鱗と巨大な翼を見るのは本当に久しぶりであるが、一年前は小さいプチドラゴンだったと思うと思わず笑ってしまう。
「お久し振りっす!メガロード様!!」
「元気そうだな、カマイタチ。ティアマットもわざわざ人間の姿で来たのか?大変だったろ?」
 メガロードと呼ばれたドラゴンは嬉しそうに瞳を細める。他者に威圧感を与えず安心感を持たせる優しい雰囲気が、巨大な竜の姿であっても十分に伝わって来る。
 メガロードの言葉にオペラがまじまじとティアマットを見つめる。
「おじさんって、人間じゃないの?」
「……ぷっ!おじさーーーん!!? ティアマット…こんな珠魅の子供におじさんって呼ばれてるのか!!あははははっはは! 良く我慢してるな……ぷ…あっはははっははっはっ!腹痛い!顎痛い!…くはっははははっは!」
「黙れ、メガロード」
 腹を抱えて笑い出すメガロードをティアマットが絶対零度の視線で睨み付ける。瞳に涙まで浮かべてようやく笑いを堪えると、メガロードは風読み師の集落の中で一番大きい家に通した。
 この家の半分は大きいウッドデッキになっていて、天気の日は風読み師達はここで食事を取っている事が多かった。それも食いしん坊の主も風読み師と食事ができるようにと提案された物で、提案した本人が村一番の大工と死闘といえる交渉の果てに作らせた物であった。
 ウッドデッキの半分を占める巨大なテーブルに4人分のお茶が乗せられている。お茶請けのお煎餅をつまみ上げると、メガロードはオペラに訊ねる。
「カマイタチとティアマットの用件は大体分かるが、珠魅のお嬢ちゃんは何しにきたんだい?」
「あれ?メガロード様のお知り合いではないのですか?」
「ん〜。いろんな人間や珠魅に会ったつもりではいたが、お嬢ちゃんとは会ってないと思う」
 首を横に振るメガロードにオペラが例のマシンガントークで説明し出した。
「アタシはセレスタインに会いに来たんです!あの人に助けられて以来、お礼も言えなかったし、アタシに名前を付けてくれたし、おいしいご飯もたべさせてくれたし、一緒にいるととっても安心したし、アタシの大切な人なんだ! 大切って言っても恋人じゃないよ!お兄さんみたいな人なんだからね、本当だよ! 探し回ってようやくここにいるって分かったから会いに……………って、皆どうしたの?黙っちゃって?」
 マシンガントークを中断させたオペラは、きょとんとテーブルを囲む面々を見回した。メガロードはうつむいて、カマイタチは胸にくちばしをつけるように、ティアマットはオペラから少し視線をそらして、それぞれに沈痛な表情を浮かべていた。
 最初に口を開いたのはティアマットだった。
「セレスタインは…私が殺してしまったんだ」
「………!?」
 オペラが固まった。しばらく固まっていると突然手を合わせてニカリと笑う。
「冗談最悪だよ、おじさ〜ん。だってセレスタインって珠魅でしょ?珠魅は核が無くならない限り死なないんだよ! あ、そうか!涙石がないから核のまんまなんでしょ? まっかせて!アタシが泣いてあげるから!!」
 ドンと胸を叩くオペラだが、ティアマットの変わらない表情を見て唇が僅かに震える。
 掴みかかろうとする細い体を空色の巨大な手が押しとどめた。
「どうして!? どうして殺したりするの!? あんなに優しい人を、どうして!?どうして!!?」
 ティアマットが唇を噛み締めているのがメガロードにだけは見えた。だがメガロードもオペラという珠魅の少女の気持が痛い程分かる。
 ティアマットが殺したような風に言っていたが、セレスタインが死んでしまった一因はメガロードにもある。
 涙をぼろぼろと零しながら悪態の限りを早口で捲し立てる少女を、メガロードは強引に引き寄せた。このままでは泣き過ぎて核が壊れてしまう。
「オペラ」
 メガロードが涙に潤む瞳を覗き込む。
「私からも頼む、アイツの事でティアマットを責めないでくれ」
 オペラはしばらくティアマットをにらみ付けていたが、メガロードの大きな手を振りほどいてウッドデッキから飛び下りた。山に向かって走る小さな背中を、すぐさまカマイタチが追って行く。
 山脈からひときわ強い風が吹き付けて来た。
 その風が過ぎて少し経った頃、ようやくティアマットが口を開いた。
「あの子の名前をいつの間に知ったのだね?」
「ん?何か言った?」
 メガロードの前でカマイタチもティアマットもオペラの名前を口にしてはいなかった。第一メガロードが『珠魅のお嬢ちゃん』と呼ぶ辺り、メガロードが知っていたとは思えなかった。
「もしかしてセレスタインは……いや、何でもない」
 ゆっくりと首を横に振ったティアマットは席から立ち上がって手すりにもたれ掛かった。それをしばらく眺めていたメガロードがお茶を手にして話しかけた。
「それよりティアマット。この前相談した件なんだが…」
 ゆっくりと紅に染まり始めた空の下で難しい話し声が交わされてゆく。


□ ■ □ ■


 風読み師として駆け回った山脈であるが、オペラの素早さにカマイタチは追い付けずにいた。身軽な体は急な斜面を風のように駆け上がってしまうし、立ち止まってしまう程の亀裂を難無く飛び越えてしまう。
 初めてこの山に入った女の子に負けていると思うと、カマイタチも少しムカッとする。
「ちょっと待つっすよ!」
 カマイタチは飛んでようやく追い付いたオペラを、押し倒すようにしてようやく止める事ができた。オペラの額がちょっぴり大きな石に当たったらしく、オペラは飛び起きておでこを擦る。
「いった〜い!」
「あ、ごめんなさいっす」
 呻くオペラからとっさに離れるカマイタチは、とりあえずオペラが駆け出さずその場に座り込むのを確認すると、カマイタチはオペラの傍らに腰を降ろした。
 見上げた空はうっすらと星が見え始めている。ノルンの澄んだ空気は、どこよりも多くの星を見る事ができるから幼い時はよく親に内緒で眺めに来た。
 その両親も今は奈落である。
 でも奈落に仲間がいても、彼が師匠と崇める彼はいなかった。
 星空を見上げると急に実感が湧く。でも信じたくもないからか、カマイタチはポツリポツリと独り言を呟く。
「死んでしまったなんて信じられないっす。きっとメガロード様と考えた新手のびっくりで、今もあそこの岩の影で笑ってるんじゃないかって…集落に戻ったら台所に立ってて『まだ晩飯はできてないぞ』って言ってくるんじゃないかって思うっす」
 カマイタチが腰に下げた袋を探ると、奇麗な三角形のおむすびが5、個清潔に洗われた葉に包まれている。
「はい、おにぎりっす」
 先ほどのお煎餅数枚しか口にしていなかったし、かなりお腹が空いていたんだろう。美味しそうに頬張るオペラにカマイタチは嬉しくなる。
「おいし〜い♪カマイタチすご〜い」
 何となく、師匠の気持ちが分かる気がした。
「味は、師匠の足下にも及ばないっす」
 いつも修行に明け暮れていた時、子供だけじゃなく大人の風読み師に振舞っていた。具も日に日に違う。
 カマイタチは獣肉のそぼろが好きだった。
「師匠?」
 オペラが訊き返すとカマイタチが恥ずかしそうに頭を掻いた。
「セレスタインさんの事…勝手に師匠と呼んでるだけっす。本人は師匠って呼ばれるの、嫌がってたっすけど」
「ははっ。セレらしい」
 そう言って最後の一つを一口で食べてしまう。
 結構大きめに作ってきたのだが、まさか一口で食べるとは思わなかった。カマイタチは目が丸くなる。
「この味、覚えてる。初めて食べたご飯だった。……ほら、珠魅ってご飯食べなくても死なないから」
 オペラも嬉しそうに微笑んだ、しかし微笑みが向けられたのもつかの間、笑顔は空を見上げる。
「ずーーーーっと探していたの。 ずーーーーーっと孤独だったアタシに手を差し伸べてくれた人だったから、お礼が言いたくてしかたなかったの!探してる間にもどんどん感謝の気持が溢れてきてね、もう言葉にならない程のありがとうが心の中にあったんだ!!」
 カマイタチも困った人を見捨てるような人ではない事も良くは知っている。
 全く、師匠らしい……。
「でも師匠は珠魅狩りだったんっすよ?珠魅が珠魅狩りを慕うなんて信じられないっす」
「セレは確かに珠魅狩りだったけど、アタシ、珠魅の方が好きになれなかったな。運良く流れ着いた都市は玉石姫が死にそうで皆イライラピリピリして、よそ者のアタシを迎え入れるどころじゃなかったらしくてさ。そんなんだったら、こっちから出てってやるわよ!こんちくしょーーって感じ!!」
「はははははっす」
 珠魅狩りで重ねた罪も重かったろうけど、珠魅狩りを守り続けてきた命の重さも師匠の肩に乗っていたと思うとカマイタチはゾッとする。1つの命の繋がりの多さに、その繋がりの1つ1つが死を悔やむ事に、その嘆きを受け止める重さに、想像するだけでカマイタチは押し潰されそうだった。
(師匠はどれほどの珠魅の嘆きを受け止めたんだろう? どれほどの命に関わって来たんだろう?)
 珠魅は涙を取り戻して次々と蘇り、かつての栄光を取り戻そうとしている。しかし珠魅狩りは人間で蘇ることはない。
 だからこそ、子供や孫、その子孫達を師匠は見てきた。
 彼を慕う者は自分を含めて何人いるか想像も付かない。
(師匠の死を誰かが知る度にティアマット様は責められ、苦しむのだろうか? だとしたらどれだけの嘆きを受け止めるんだろう?)
 復活などあり得ない当たり前のルール。
 珠魅の都合の良さに師匠は苛ついていたに違いない。だからこそ、この死に方に不満なんかなさそうだ。
 カマイタチの視線の先で、明るい声が星に向かって響く。
 オペラは立ち上がって星空を抱きとめようとしてるかのように、両手を広げていた。
「会ったらね、思いっきり抱きついて、最上級の笑顔でありがとうを言おうと思ったの! あの人の事だからきっと照れて真っ赤になるんじゃないかな?……そしたら『なに真っ赤になってるの? もしかしてアタシの事、好きなんでしょ!?』っておどけてみせてね、『そんなことないさ』って返されたら、『ひっどーーーい!!』ってふくれて押し倒してあげるの! んで、大声で笑って……」
 笑顔で楽しそうに捲し立てるマシンガントークに嗚咽が混ざり始めた。真っ直ぐ広げた腕は細くて小さい肩を抱くように折り畳まれて、食い込んだ指が震えている肩を押さえる。
「ずっと…この時が……来るのを待ってたのに……ようやく…会えるって…」
 もう言葉では無くなった声をカマイタチも嘴を噛み締めて聞いていた。
 どんなに都合が良くても、師匠が嫌がっても構わない。
「酷いっすよ…こんな……別れ方…」
 水を弾かない羽は吸い込んで濡れた分だけ重くなってゆく。


□ ■ □ ■


「帰って来ないな」
 メガロードが心配そうに暗くなった山脈を見上げる。
 地上に投げかけられた最後の赤い光を受けて燃えるようだった山脈は、漆黒の夜空に星と月の明かりに冷たく色付いてから随分と経つ。カマイタチがついているとは言え、夜の山はそれなりに危険だ。
「子供じゃないんだ。勝手に帰って来るだろうよ」
 メガロードが山脈を心配そうに見上げる横で、ティアマットは手に持った一通の手紙に視線を落とす。
「だが良いのかね? 本当に奈落に落ちた風読み師を引き取ってしまって…」
「だって生き返らせる事なんかできないんだもん。ティアマットだってラルク君がシエラさんの所に出掛けてばっかで、ドラグーン不足だろ? カマイタチもお前の事悪く思ってはいるが、嫌とは思ってないようだし」
「悪くは思ってるって…」
 ティアマットがジト目でメガロードを見上げる。
 ティアマットと地上に蘇ったラルクは、姉であるシエラに呪いー厳密には違うのだが表現的にこれが1番近いーを移してしまうため触れることすら叶わない。が、それでも仲の良い姉弟は健在のよう。ちょくちょく会いにいくレベルを通り越し、ラルクはシエラの元に入り浸っているのだった。
 咎めることはできないが、さすがにドラグーンが居ないのは色々大変だ。
 お人好しのカマイタチがラルクの代わりにドラグーンの仕事を代行しているが、それもそれでティアマットにとって肩身が狭いというか、申し訳なく思っているのだ。
 なんたって元凶が自分だから。
 自分が加害者であり、相手は被害者だから。
「新しいドラグーンを得る為に地上の人間殺しちゃダメだからね」
「それはせんが…」
 ティアマットの手にある手紙は、メガロードが奈落に落ちた風読み師達に宛てた物だった。メガロードからティアマットのドラグーンになるように、という内容が書かれている。
 メガロードはティアマットの顔を覗き込む。
「体に溶け込んだ仲間とマナストーンの抽出の研究、しっかり頑張ってくれよ。ティアマットは私なんかより頭が良いんだから」
 紳士は神妙に頷く。
「吸収してしまった仲間を解き放たねばならない。ただでさえ私1人で3属性を支えているのだからな」
 お前も頑張るのだな…とティアマットは続ける。
「吸収してしまった核を抽出するのだろ?」
「あぁ…」
 メガロードは何気なく台所を見た。
 今でも生きてそこにいるのではないかと錯覚する。渇望する日常を取り戻すため、その日常は自分に最も近くて遠いところにあって、簡単に帰ってこない。
『呆れてものも言えないぜ。俺を生き返らせようとするだなんて…』
 記憶を手繰れば姿と声は簡単に想像できる。
 いや、それ以上に鮮明で生き生きしている。
 ーお前はまだするべき事がいっぱいあるだろ? 私だけじゃない、お前を必要とする者はたくさんいるー
 青年は笑い飛ばしてこう答えた。
『人の人生は一度きりだ』

むかしむかし、この世界には「知恵のドラゴン」という世界の守護者達がいました
六匹いた「知恵のドラゴン」の一匹は言いました
「支配者になれないのは、私達が支えられているからだ」
支配者を主張したドラゴンの暴挙は仲間によって阻止され
「知恵のドラゴン」達は決して支配者にならないことを女神に誓い
この地の更なる守護と平和のために力と知恵を使うことを約束しました
そして人々が知らない所で起きたドラゴン達の戦争は終わりました

THE END