魔法の玉

 アリアハンは広い平原の中央にある湖に添う形で建てられた王国だ。その大聖堂の鐘を掃除しながら視界を外に見遣れば、大聖堂より高い王城があるものの広大な広さを見渡せる。ちょっとした船でさえ入港出来る深さを持つ湖の青は空よりも深く、海に繋がっているが波立つ事ない程に穏やかだ。上流の川の水の影響で水質は汽水で、魔物も海に比べれば遥かに少なく水産業では珍しい養殖まで行っている。平原がアリアハン大陸の半分を占めていて、黄緑色の平原の上には羊の真っ白い羊毛が雲の様に動いている。
 風は今日は山側からの風で爽やかで心地いい。流れて顎を伝っていた汗が瞬く間に冷えていくのを感じながら、太陽が大分高くなって来たのを確認する。
 正午の鐘を鳴らす前に掃除を終える約束だったが、後は仕上げ程度の部分しか掃除する必要はない。十分に間に合うだろう。
 掃除を終えて役目を終えた雑巾を把手付きの桶の中に放り込むと、その横に置いてあった油差しを取り出す。この大聖堂は階下から繋がる仕掛けが動いて鐘が鳴る仕組みの為、掃除と共に油を注しておかねば錆び付いて動かなくなってしまうのだ。アリアハンは潮を含む海風も吹き込むので、この掃除と油を注す作業は短い間隔で行われている。
 鐘楼の柱を慣れた手付きで昇ると、直ぐさま複雑な仕掛けが目に飛び込んで来る。いつの間にか居着いた鳥の巣の幼い住人達に謝りながら、俺は体を伸ばして油を注して行く。透明な液体が、金属の隙間に添って流れキラキラと輝いた。稼動部の殆どの部分に油を注す頃には、風が吹き込まず太陽に近い場所で作業する俺の顔から汗が雨水の様に滴った。
 もう、良いかな。俺がそんな事を思って手を止めた時、下から俺の名を呼ぶ神父様の声が聞こえてきた。柱を伝って降り外が見える位置まで来ると、太陽は真上に来て正午の頃合いになっていた。鐘を鳴らす時間だ。
 清掃道具を引っ掴んで、俺は素早く梯子を下りて行く。梯子を降り切って床に着地すると、ひょろ長い長身の神父様が出迎えてくれた。
「お疲れ様、オルテガ君。奥に居るシスターがお茶を用意してくれているから、休憩してから帰りなさい」
「ありがとうございます」
 俺がぺこりと頭を下げた。鐘楼から出ると直ぐに教会の裏に繋がっていて、井戸で掃除道具を洗って物置の横に片付ける。そのまま顔や腕を洗って汗を流していると、妙齢のシスターがタオルを持って来てくれた。シスターは賛美歌で鍛えられた良く通る美しい声で俺に礼を言うと、お茶にしましょうと言ってくれた。
「俺、この後に道具屋の主人から配達を頼まれてるので、お茶は有り難いんですがお断りします」
 俺が断るとシスターは少し表情を曇らせた。心配そうに俺の顔を覗き込む。
「オルテガ君、あんまり無茶したら駄目よ。道具屋の主人も理解して下さってるから、休んでお行きなさい」
「大丈夫です」
 そうきっぱり言うと、シスターの福与かな手から逃れて身を翻す。
「次の清掃の時期が近づいたら、また声を掛けて下さい!」
 言い切った頃には俺は既にアリアハンの大通りの石畳の上を走っていた。道具屋の主人に頼まれた配達の後は、王城の兵士宿舎の武具清掃の手伝いが待っている。本来ならこんな沢山の用事を抱え込む事はしないのだが、今日だけは特別だ。
 とにかく体を動かしていないと、不安で仕方が無い。仕事に集中している間は忘れられるのだ。
 何を意識して忘れているのかという事まで忘れるのは難しいが、薄れてはくれるのだ。薄れてくれれば不安も苛立ちも精神的な負担も、随分と軽減してくれる。椅子に座って本を目の前に呪文の勉強をしていても払えないそれが、体を動かしたり仕事をする事で少しでも遠ざかってくれる。だから、俺は休まず遠ざける努力をする。
 だが、ちょっとの間に親父の事が考えを占領している。
 忌々しいくそ親父め。
 毒付くが目の前に居ないだけマシだ。
 久々にアリアハンに帰国したという親父と顔を合わすだなんて、例え国王からお願いされても拒否するだろう。だから一カ所に留まらずいくつもの仕事を受けて、忙しく動き回っているのだ。
 そんな事を思う端から親父の顔が頭に浮かんで来る。真っ白い白粉を塗りたくり、太陽やら月やら星や涙と言ったモチーフと共に冗談みたいな化粧が踊る。派手派でしい服装は花模様か水玉か、動き難い靴のくせに空中三回転とか平気でやってのけるなんてオカシイだろ。俺の親父パマーズは、アリアハンの恥曝しと言える程の生粋の遊び人だった。物心付いた時から素顔なんて見た事ない。世界中をあんな格好で駆け回っているなんて正気じゃない。
 それでもアリアハンで遊び人パマーズは煙たがられているかと言えば、逆なんだ。道行く住人は挙って声を掛ける。他愛無い挨拶からチェスの相手、お酒の誘いに家族の愚痴を聞いておくれ、挙げ句の果てにナンパされてるわ王城に招待される事すらあった。どんな秘薬も珍品も手に入れて来ると、個人的に交渉する金持ちすらいるという。年に数回しか帰って来ない遊び人を、アリアハンの人々は愛していると言っていい待遇で迎えていた。
 俺以外はね。
 俺は親父が大嫌い。俺が生まれて間もなく母さんが出て行ったのだって頷ける。あんな家の事が中途半端でいい加減な人に惚れたのが、母さんの不幸だったんだ。母さんは家を出て行って、今は世界の何処かでその不幸を埋め合わせて幸せになってるんだ。
 大通りで城下町の人達と挨拶しながら擦れ違って行くと、道具屋の看板が見え始めた。木に彫られたキメラの翼の看板に塗られた塗料が、潮風で剥がれかかっている。先日ランシールの方から船が帰港したからか、入り口横の看板には調合役が充実して特売してますと書き込まれている。扉は窓みたいに硝子が嵌め込まれているので、俺が入り口に立つと道具屋の主人の双子の息子のどっちかが気が付いた。
 扉を開けると、扉にくっ付いている鈴が鳴る。
「やぁ、オルテガ。まだ荷物の準備を終えていないんだ。少し待ってておくれ」
 彼はにこにこ笑いながら、柔らかい金髪と温和な表情でカウンターに備え付けた椅子を勧めた。服は暖色系を基調とした色で、温和な双子の片割れの方で一安心だ。俺は赤い兄貴に勧められるままにカウンター席に付いて、これから配達する先の伝票だけ先に目を通させてもらう。定期的に薬を届けている老夫婦の家を含めた数件の民家、城下町の東側にある治療院、宿屋もあった。
 ことんとカウンターにグラスと水が置かれた。
「お、オルテガ兄さん。どうぞ…」
 カウンターの向かいに恥ずかしそうに顔をお盆で隠したクリスティーヌを見つけた。双子の息子の下には末っ子のクリスティーヌがいて、これまた病弱な娘さんだった。最近は歳を重ねて体力が付いたのか外を散歩出来るようになったけど、小さい時は余命幾ばくもないと言われて寝たきりだった。実は親父が彼女の薬を遠くの国から持って来たのが縁で、俺はこの道具屋家族とは親父以上に付き合いがあった。
 クリスティーヌがそろりと盆を下げて顔色を窺ったタイミングに合わせて、俺はにっこり笑いかけた。
「ありがとう、クリスティーヌ」
 かぁっと顔を赤らめると、クリスティーヌはぱたぱたと店の奥に消えて行った。そんな背中を見送って、赤い兄貴はくすくすと笑いながら声を顰めた。
「オルテガ、実はクリスはお前に惚れてんだ」
「俺は成人に達したらこの町を出る。クリスティーヌにもそう言ってるし、惚れてるっていっても年上への憧れみたいなもんだろ」
 俺はクリスティーヌが用意してくれたグラスを傾ける。殺菌用に浸したハーブの風味が広がりながら、水が喉を滑り落ちる。
 おやおやと赤い片割れが芝居掛かった表情を浮かべる。
「クリスティーヌはお前の旅立ちに同行する為に、頑張って体を鍛えてる。ありゃあ本気だぞ。俺達の可愛いクリスティーヌを泣かせたら、タダじゃ済まさないからな」
 全く、冗談じゃない。俺も負けじと意地悪く笑ってやる。
「お前等が重度のシスコン野郎であると、このオルテガが責任もって町中に広めておいてやろう」
 赤い男は金髪が暖色系の衣類の一部になりそうな程、反っくり返って大笑い。しかし体を戻して俺を見た顔は真顔なので、俺は思わず驚いて腰が椅子から浮いてしまった。あまりに真面目で怖い顔をするもんだから、寒色系を好んで無愛想な青い方かと思う程だ。クリスティーヌの兄貴達は柔らかい金髪から顔の作りや身長や体格も全く同じ。違いを見極めるのは趣味と性格の違いだから、入れ替わろうと思えば不可能じゃない。
「俺達の可愛いクリスを泣かせたら容赦しねぇからな」
 俺が真っ青になって赤い男を見ていると、奥から青い服を着たもう片割れが顔を覗かせた。いつもは苦手な青い兄貴にこれ程、感謝したくなるのは俺の人生で初めての事に違いない。あと少し遅かったら確実に気絶してた。
「荷物の用意ができた。オルテガ、よろしく頼むぞ」
「お…おう…」
 よれよれと歯切れ悪い返事を返すものだから青い兄貴が怪訝な顔をしたが、何も触れなかった。店の奥に用意された複数の箱とその説明を受けると、俺はそれらを鞄に入れて道具屋を出発した。
 時刻は丁度昼食の時間だった。アリアハンの昼食は長くゆったりしていて、あちこちから食事の良い匂いや紅茶の香りが立ちこめた。俺の腹も腹減ったと言わんばかりに鳴いたが、少しでも立ち止まって居たく無かった。親父の話も聞きたく無いし、親父に会うだなんて失態は犯したく無かった。あの冗談みたいな顔を見たら、顔面を殴ってやりたくなる。
 親父は遊び人だったが、生活費には困らなかった。生きる為に十分な金額が常に銀行にあったが、俺はその金をなるべく使いたく無かった。今では子供ながらに働き者なオルテガと、アリアハンでは認識されているくらいだ。働いて経験や知識を得るのは好きだったし、親父の影響で遊ぶ事が好きじゃなかったから願ったり叶ったりだ。
 アリアハンの空は晴れが多く奇麗だ。そんな空を見上げ、俺は嫌な気持ちが少しだけ払われた気がして次の配達先を目指した。
 猫が俺の横をするりと追い抜いて横の路地に入って行った。そんなのを横目に見た時、背後に気配を感じた。いや、気配なんてそこらにある。アリアハンの中央よりの区域だから、人は何処にでもいる。背筋を撫で上げられるような、鳥肌がぞっと立ち上がるような感覚だ。そんな奴、心当たりは1人だけだ。
 俺は祈るような気持ちで振り返った。気のせいであってくれと、ミトラにこれ以上なく祈ったが現実は厳しい。
 脅かそうと両手を構えた遊び人がそこにいた。
「ありゃ。気が付いちゃった?」
 てへへー、と顔に描いたような笑顔を向ける。真っ白なキャンバスに笑い死にそうなモチーフを抽象画の様に描いたその顔は、道化師独特の真面目な人間の神経を逆撫でする何かを秘めていた。真っ赤な林檎を思わせる付け鼻に、俺は問答無用で拳を叩き込もうとした! しかし、相手は余裕とでも言いたげに軽々と避ける。
「パパにいきなり何をするんだい、オルテガ。酷いじゃないか」
 絵に描いたような不真面目な父親を恥じる子供の気持ちくらい分かれ。心の中でそんな悪態は付くが、俺はそこまで真面目な人間じゃない。いや、大人達の評価では真面目で、親に甘えたい年頃には既に独り暮らしの同情すべき子供である。この父親の為にイジメの対象にされたが、気が付くと俺は家に担ぎ込まれていた。何でも、苛めっ子をボコボコにして誰かの家に放り込んだら、場所も構わず気絶するらしい。良い感じに捻くれて普通じゃない子供に育ってるんだよ俺は。お前を殴らない理由を探すのが大変だ。
 俺は不機嫌を顔に描いた様な表情になると、無視して配達の続きを始めた。
「え!? えぇー! オルテガ、待ってよー!」
 付いて来る。この遊び人は俺の後を付いて来る。これが赤の他人ならまだ許容範囲だったかもしれないが、実の血の繋がった父親だと思うと情けなさや腹立たしさで胃の中身が沸騰しそうだ。
 俺は遊び人というのを知らないが、このパマーズという遊び人は本当に何でも出来る男だった。戯けているが剣の腕はアリアハン王国の兵士長すら手玉に取り、魔法の知識で王族に仕える魔導師をも言い負かした。重傷で神父様に終えない人間が担ぎ込まれて、鼻歌みたいなのをワンフレーズ歌って治した事もある。誰にも懐かない馬を一時間で従順な名馬にしたり、誰と対戦してもチェスは負けた事がない。本格的に遊び人として活動する前の顔は、隣国の姫すら見初める偉丈夫で色男だったそうだ。
 まぁ、凄い男らしいのだが個人的にこの男を許容する訳にはいかない。
「やいや、オルテガ。お前の父の顔を忘れたのか!? 泣く子が笑い王が腹を抱えて玉座から落ちる、天下の遊び人パマーズ様だぞ!」
 幼稚で舌っ足らずな口調でありながら、この猫なで声をドギツイメイクを施した赤っ鼻が言ってると思うと魔物よりも不気味だ。父親とか本当に無理だ。
 道端に落ちていた石ころを拾って投げつけると、見事に顔面のど真ん中に当たり蛙が潰れたような声を挙げる。
「ふがっ!」
 そのまま昏倒して倒れるかと思ったが、そこは不気味の塊。メイクの顔がにっこり笑った様に歪ませ、さらに走る速度が上がって迫って来る。小便漏らす子供ではないと自負する己であったが、その有様についに喉の奥から悲鳴が迸った。
 悲鳴に喉に熱の棒を差し込まれた様に痛む。冗談じゃない。
 必死に足を動かすのに、まるで骨が抜けてしまったように縺れてしまう。背後にあれが居るんだ。転ぶんじゃない。
 手はむやみやたらに宙を掻いて様々な物を薙ぎ倒した。咎める人間が居ないなんて変だ。頼む。誰か俺をこいつとの追いかけっこから助けてくれ。
 全速力で過ぎ去って行く景色は流線に書き換えられて流れて行く。誰かが路地から歩み出ただけで避ける事なんて難しい。
 あぁ、もう悲惨だ。
 なんで俺の親父なんだあんたは。
 走る。走れ。あの遊び人は追いかけっこのつもりなんだ。捕まってそれっきり、そんな訳無いだろう。あの遊び人は血の繋がった俺の親父なんだ。
 年端の行かない歩く事が楽しくて仕方ない子供が、犬を追って道の真ん中にふらふらと歩み出る。犬は驚いて端へ駆けたが、子供は方向転換出来ずにその場に尻餅をつく。避けろ。だが、左右に曲がる程の制動が利かない。俺は力一杯大地を踏みしめ飛んだ。
 無理して跳躍したから、空中に居る時から体のバランスが崩れて行く。
 ゆっくりと子供の上を通過するのを他人の様に見ていた。
 そして勢い良く地面に叩き付けられる瞬間、意識が真っ黒く塗りつぶされて落ちる。
 もう逃げられないと悟って意識が落ちる瞬間、俺が思った事は一つだった。あぁ、あのくそ親父め。地獄に堕ちてしまえ。

 頬に当たる空気が随分と冷えているのを感じた。時間の経過を実感して、あぁ、気絶したんだなぁと納得する。気絶した後はする前に比べて比較にならない程すっきりしているが、今回ばかりはそうはいかなかった。あの親父が何処に居るのか、それを確かめるまでは安心等出来る訳が無い。
 目を開けると夕日の残滓が僅かに残る程度の、夜が覆い始めた空があった。輝き始めた星を目指し、木々が黒々とした闇色の枝を伸ばしている。手の甲に柔らかな芝生の草の感触が触れ、体が柔らかく包まれているのを感じた。防寒を兼ねた厚手の外套が俺の体に掛かっていた。持ち上げて僅かに臭いを嗅ぐが、真新しい布の匂いしかしない。新品なんだろうか?
 親父の外套?
 あの遊び人という意味の分からないプロ意識の塊の親父には、不釣り合いな実用的な外套だった。起き上がった拍子に膝の上に折り重なった外套を持ち上げて、しげしげと眺め回す。良く見れば見る程、それは新品のようだ。紫の布地の中で、黒曜石なのか漆黒の宝石と黒鉄の竜の留め金がきらりと光った。
 ひゅうん。
 そんな聞き慣れない音が空を目指すのを感じた。意味の有無よりも先に音に連れられて見上げた視界に、ぱっと閃光が広がった。
 夜空に大輪の花が咲いたようだった。心地よい手を叩くような音と共に、黄金や赤の光が広がって溶けていく。一つ二つではない。沢山上がっては広がって散る光に、俺は綺麗だという言葉以外何も浮かばなかった。
 後から知った事だが、これはアリアハンから遥か北にある日出ずる国で出来る魔法の玉なんだそうだ。親父が大量に持って来て、帰国したその日に打ち上げたそうだ。だが、この魔法の玉が生み出す光を見ている俺は、先程まであれほど警戒していた血の繋がった遊び人パマーズの存在を完全に忘れてしまっていた。
「オルテガ、誕生日おめでとう」
 声を掛けられて初めて俺は真後ろに親父が居た事に気が付いた。物音一つしなかったという事はずっと俺の後ろに居たのだろう。気配には敏い方だったから愕然とした気持ちだったが、振り返る気になれなかったのはその声だった。
 その声は酷く落ち着いた威厳のある声だった。まるで地響きの様に広大で芯から揺すぶられるような、途方も無い力を秘めている。呪文の素質があって勉強に励んでいた俺にはその強さが分かった。だから驚きに声も出ない。この強い響きが、あの遊び人の父親のものなのか…と。
 声は少し逡巡した気配の後、非常に大切な秘密を明かす様に慎重に紡がれた。
「お前が成人を迎えたら大事な話をしようと思ったけど…」
 『成人』その言葉に俺は改めて自分の年齢を思い出した。そうだ、16だ。アリアハンでは成人と認められる、そんな年齢だった。
 そしてぶつりって効果音を入れたいくらい唐突に、威厳が消えた。あの遊び人独特の気配が生暖かい春風のように背中を撫でた。
 嫌な予感にゆっくりと立ち上がり振り返ると、遊び人パマーズは手を伸ばせば届く距離で『お茶目』なのだろうポーズを取った。ぱっと広がった魔法の玉の光に、白い化粧とぺろりと出した舌が否応無しに目立った。彼は先程の威厳が嘘のように、いや実際嘘だったんだろう明るい裏返った声で言った。
「そんな大事じゃないから、いっか!」
 俺の容赦無い右ストレートで、遊び人は今度こそ地に倒れて動かなくなった。