DQ交流系ログ2


■ ラム酒にコーラと恋バナ少々 ■

   白石妙奈 様の3賢者バーンさんをお招きしています

 アリアハンの酒場には、古今東西の酒が並べられています。地ビールの種類もなかなかの品揃えですが、やはり最も近い大陸という事でランシールのお酒が豊富に取り揃えられています。ランシールで有名な白い熊が目印のラム酒は、遥かポルトガでも見た事がある銘柄です。
 琥珀色のボトルを傾けラム酒を二つのグラスに注ぐと、ぶわっと芳醇な香りが空間に広がる。熟成している樽はオークのようで、甘い香りの最後に豊かな木が鼻腔に残るのです。自分用に用意したグラスを傾けて一口含めば癖のない、喉を焼くような強い酒精が一気に胃に落ちて燃え上がり、鼻に抜ける香りの爽快感。ランシールで愛される理由がよくわかります。
 グラスにベースとして注いだラム酒に、炭酸の効いたコーラを注ぐ。飴色の辛くすら感じるスパイスの効いたコーラは、しゅわしゅわと弾ける炭酸の上でラム酒の香りと跳ね回っています。
「このラム酒をベースに、コーラで割るラムコークに最近凝ってましてね。ラム酒にコーラのスパイスと甘みが良く合うんですよ」
 さぁ、どうぞ。そうグラスを差し出した相手は、僕と同年代とは思えぬ落ち着きのある男性です。ジパングの方面に多い幼く見えがちな顔立ちですが、長く伸ばした黒髪の下に深い知識を得ている黒い瞳は賢者の風格。世界を救いし勇者の先導者として、名の知れたお方です。
 礼を言って飲み干せば、唇を引き上げ笑みを浮かべる。『うまい』と声が弾けました。
「カクテルに惑わされて飲みすぎないようにされた方がいいですよ。ベースのラム酒の度数はなかなかに高いですから」
「いや、大丈夫。俺は酒に強いから」
 それは何より。そう言いながら、互いに杯を重ね合う。想像以上に目の前の御仁、バーン殿はお酒に強いようだ。カンダタさんなら顔が赤らむ程度に飲んでいるはずなのに、その顔色は全く変わりようがない。炒って塩を振ったナッツを男性らしい指先が摘み上げる。
 そういえば。呟いた声に顔を上げると、冴え冴えとした黒い瞳が僕を見る。
「ガライ殿はロトちゃんと、何時結婚するんだい?」
 勢いよく吹いた。最悪なことに炭酸のキツいラムコークが、僕の鼻を切り落とすくらい強烈な刺激を残して鼻の変な所に入り込んでいる。凄く痛い。いや、本当に洒落にならないくらい痛い。咽せている側から炭酸が鼻を捻り上げるほどに痛めつけてくる。
 完全にテーブルに突っ伏した僕の背を、バーン殿が摩ってくれました。大きな手が僕の背を何度か往復していくうちに落ち着いて来れば、僕は勢いよく顔を上げてとんでもない質問をした御仁を見る。
「なんでそうなるんですか!?」
「え? だって男女二人旅なんて、新婚旅行だとフツーは思うだろ?」
 なんなんだ、この人は。僕は鼻から垂れたラムコークを拳で拭って睨み上げる。
 確かに目の前の御仁は若くして既婚者で、緋色の美しい髪を持つ奥方がおられる。勇者の仲間として共に行動する前から、奥方となった女性と長らく二人旅をしていたらしい。だが、バーン殿と奥方は二人旅をした結果結婚したのではなく、幼き頃から惹かれあっていたそうじゃないですか。この人は男女二人旅が常に愛情が伴うものだと、本気で思っておられるのか?
「僕とロトちゃんはそんな関係じゃないです!」
 僕の否定をバーン殿は完全に呆れ顔で聞いている。
「おいおい、ガライ殿。血縁でもない知り合ったばかりの他人の女性と、何の感情もなく旅出来ると思ってんのか? 成人男性に可愛い娘を預けたご家族の覚悟を、まさか、理解してないのか?」
 うぐ。息が詰まる。
 確かにロトちゃんと共に旅をするにあたって、ご家族に厳しい審査を受けたと思う。可愛い孫を預けるのだからと僕を見たパマーズさんの目は、道化の化粧が怪物の顔に見えるほどに冷え切っていた。可愛い娘を任せるんだからって、笑うクリスティーヌさんの方が穏やかなくらいだ。だが、クリスティーヌさんは木刀握らせて戦闘能力を見極めると、運動音痴の僕をめちゃくちゃにシゴきましたけどね。僕は昇天の梯を昇ったと思うほどに痛めつけられましたよ。えぇ。
 ロトちゃんは良い子です。大事な仲間だから傷つけたくないし、良い思い出をたくさん作って欲しいと共に旅をしてきたつもりです。そこに、結婚願望を挟み込む余地があると?
「おいおい、本気で何とも思ってないのか? あんなに、可愛くて、良い子を目の前にして?」
 歯を見せて意地悪く笑う。カンダタさんでさえ、ここまで追撃しないんですけど…!
「あんなに可愛くて良い子だから、大事な仲間なんじゃないですか!」
「いやー、ムキになっちゃってカワイイねぇー」
 口元に手をやってぷふーっと吹き出すように笑う。これが既婚者の余裕というやつなんですか? なぜに僕は『ロトちゃんと結婚前提で旅をしている』ということに、されそうになっているんですか?
 いや、それよりも、可愛い良い子を目の前にして、どんな感情を抱けと? 僕はロトちゃんが笑顔になるようなことを、してあげたいと思う。性別が異なるからと、隣にいるからと、恋愛に安直に結びつけないで欲しい。僕はロトちゃんに幸せになってもらいたい、それだけなのだから!
 僕は勢いよく立ち上がって、カウンターの奥へ視線を向けた。
「女将! バンディを持ち帰ります!」
 バーン殿が吃驚したように体が強ばったのが見えた。自分自身を抱きしめるように腕を回し、何故か顔を赤らめて見せる。
「ま、まさか、ガライ殿はそっちがお好きなのか? 俺は、そういうのは、ちょっと…」
 何を言っているんだろう? 僕は半眼になりながら、女将から琥珀色の瓶を受け取った。白い熊の描かれたラベルを、バーン殿に見せるように捧げ持つ。
「このラム酒は『バンディ』って愛称で呼ばれてるんですよ?」
 バーン殿にラム酒の瓶とコーラの瓶を押し付けると、僕はよく響く声でお勘定を頼んだ。お開きです! この話題はおしまい! 貴方は酒瓶持って、愛しい奥方の元へお帰りください!