ロトの末裔

 勇者ロトは大魔王ゾーマを打ち破り、このアレフガルドに光を齎した人間だ。
 神から光の玉を授けられたロトは、このアレフガルドの地に降り立ち大魔王ゾーマと死闘を繰り広げた。髪は黒髪で瞳の色は地方で異なるが蒼か黒。青く金の装飾を施され神々から与えられた武具を身につけ、日の出ずる国の鍛治師が鍛えた剣で闇を切り裂く光となったとされている。ゾーマが倒された後の行方は知れないし、ラダトームには何故かロトに関する記述が全く残されていない。ガライの残した文献で殆どが詩で所々虫食い状態であるのが災いして、非常に謎の多い勇者ロトである。それでも勇者ロトの存在を疑問に思っても、誰一人否定した者はいなかった。
 決して変わらないのは、アレフガルドの人間は勇者ロトが最大の感謝と敬意の対象である事だけだ。
 人間なので百年以上過ぎ去った今の時代に生存しているなんて、当然不可能でとっくの昔に死んでいるのだろう。そんな認識は当たり前過ぎたのだが、俺達は勇者ロトという存在が死んでいないかの様に死亡という事実を遠ざけていたんだろう。今思えば、勇者ロトの墓なんて聞いた事が無い。今も続く感謝と敬意の象徴の墓が、何故存在しないんだろう。
 魔物側に残されていた記録では、ロトは北西の砂漠地帯で消息を完全に絶ったそうだ。なんでそんな記録が残っているかというと、そこはかつて『魔王の爪痕』と呼ばれる大空洞と底の無い深い深い亀裂が存在していたそうだ。そこを住処としている魔物は昔は存在していたが、今は魔物でもその場所を覚えている者は居なかったらしい。
 既に熱が奪われて砂漠の上は寒々しい程だ。アレフガルド北西の砂漠地帯はドムドーラに比べれば半分以下の小さいものだが、最寄りの森でさえ線の様に遠くに見える。しかし、ガライの南にある山脈の真横にあり、歩きやすい街道がその山脈を迂回する様に走っている為に山脈を横断しようなんて酔狂な人間は居ない。地図で砂漠がある事を知っていても、砂漠に行こうという人間は先ずいなかった。
 その砂漠の丁度真ん中に、岩を重ねたような場所があった。一見すればただの岩だが、奥へ行けそうな隙間があって深い闇に沈んでいた。竜王が人一人通れそうな隙間に目を留めると、興味深そうに覗き込んだ。
「こんなものが現存してるとはなぁ」
 俺が首を傾げて覗き込むと、洞窟のひんやりとした空気が鼻先に触れる。アレフガルドの洞窟にしては珍しく、生き物の気配がしない。半年くらい前に行ったドムドーラの北の岩山の洞窟には、数多くの魔物が生息していて生臭い魔物の臭いや喰い散らかしの発する腐った臭いが酷かった。アレフガルドは聖水で清められた人の住んでいる場所以外には例外無く魔物が居るとされていて、魔物の気配がしない洞窟は初めてだ。
 竜王は隙間の前に座り込んで呪文のようなものを幾つかと試している。派手な音を立てて火花が散ると、俺やローラやイトニーが血相変えて竜王を見た。心配性なイトニーは竜王の真横に駆け寄る始末だ。
「どうされたんですか?」
「結界が張ってあったんで、解除しようと思ったのだが…」
 小さい魔物の姿の竜王は、小さい外見の割りには不釣り合いな程大きい足を入り口に突っ込む。竜の巨大な足をそのまま小さくしたような足は、鋭い鍵爪を付けていてその先が火花の様に小さい稲妻が触れるのを見た。魔物避けか何かの結界が張られているらしく、竜王を始めとした魔物は入る事が出来ないのだろう。
「現代の魔術で理解出来ないかつての術式を、『虹の橋』と呼ぶがこの結界もその類いだろう」
 ふむ…。竜王が腕を組んで考え出した。イトニーも並んで結界の解除に挑んでいる。
 そんな様子を見ている俺の横に、ローラがにじり寄って来た。驚いた事にこのラダトームのお姫様は、城に生還したというのに『このアレフガルドの危機に率先して対応したい』とかなんとか言って国王や臣下を説き伏せて俺等に付いて来たのだった。しかも兵士が護衛で付くと散々進言したらしいのだが、俺が兵士長をボコボコにした事もあって俺に護衛を頼む始末である。国王も兵士長より強く、ローラ救出をやって退けた逸材なら文句は無いと言いやがる。結局、ローラが押し掛けて来たのだ。良い迷惑だ。
「なになに? どうしたの?」
「この何の変哲も無い岩の隙間に、すげー魔法が施されて入れねぇんだってさ」
「あたし達も入れないの?」
 ローラが首を傾げて俺を見上げているのをみて、そう言えば…と入り口らしき隙間を見る。竜王の真横で頭突っ込んだが、俺は問題なく中が覗き込めた気がするな。
 俺は再度竜王の横に立つと、入り口の隙間に恐る恐る手を伸ばしてみる。結界が反応するだろう境界線を指先が触れても、何の変化も無い。そのまま岩に手をついてランプを持って足を踏み込むと、何の抵抗も反応もなくすんなりと隙間の中に入る事が出来た。その様子を目を真ん丸くして竜王が見ている。
「人間は入れるみてぇだな」
 俺の言葉に竜王は足を突っ込んで試してみたが、やはり結界が作動して入る事は叶わなかった。その横でイトニーが残念そうな顔をして、いじけた様に膝を抱えて地面に之の字を書き始めた。竜王はそんな部下の頭を撫でながら渋い顔をして、俺を見た。
「いじけても仕方が無かろう、イトニー。アレフ、ここで待っているからな」
 見送る様に手を振った竜王の肩に手を置いて、ローラが結界が張られている空間に手を伸ばした。そのまま手を滑らして俺に突撃する様に転んだ体を支えると、俺は嫌な予感を噛み締めて蜂蜜色の髪の中の無邪気な笑みを見つめた。
「えへへ。魔物は出ないんだよね。あたしも付いて行って良い?」
 断ったら諦めるのかよ。お前は。

 岩の下に長年放置されて来た洞窟にしては保存状態は良好だった。入り口付近は入り込んでいた砂が覆っていたが、手で払えば整備された床の石畳が現れる。空気は冷たく淀んでいたが乾いていて、滑りやすさもないだろう。何より、魔物の気配は全くなかった。
 俺はローラを連れて行けない理由が見出せず、イトニーのストレスの奏でる音を背中に聞きながら洞窟の奥を目指す事にした。
 ランプを予備として先に松明を灯すと、洞窟内が赤く照り出される。入って暫くすると階段が下へ伸びていて、砂漠の真下とは思えない程堅牢な岩盤を掘り抜いたようなものになってきた。人工的な洞窟内が自然をそのまま活用した形になっていくが、床は平にされ壁も天井に頭がぶつからないようになっている。それなりの広さを持つ空間に、柱や壁の様に岩盤が上下に貫いているようで迷子になる事も無いだろう。
 俺が空間をそれなりに把握して安心したのを感じ取ったのだろう。ローラが俺の左腕に抱きつきながら口を開いた。
「凄いね。洞窟ってみんなこんな感じなの?」
「邪教の根城だった洞窟とか、お前が住んでいた通路に使われている洞窟とかが俺の知る限りでは多いな。だが未発見の洞窟を含めれば天然洞窟の方が多いのだろうさ」
 ローラは俺の腕にしがみつきながら、『ふーん。そうなんだー』と分かってるのか分かってないのか俺には伝わらない返事を返す。そんな彼女の瞳は恐いもの見たさの好奇心で、周囲をおっかなびっくりきょろきょろと見回している。
「とっても暗いね」
「洞窟だからな」
 俺の返事にローラは唇を尖らせながら、唸る様に呟いた。そーじゃなくてさー、もっとなんかちがうかんじでー、と自分でも言葉にし難い直感の分類なのかローラはぶつぶつと心の中を整理しているようだった。怖いのなら竜王やイトニーと共に待っていれば良かったんだ。そう思うとあの竜達をすっかり信頼しきっているのに気が付いて、俺は無視を決め込んだ。
 ローラはガキではないのだ。本当に怖ければ帰りたいと言って来るだろう。
 黙って進み大分深い所まで来ただろう。徐々に選べる道は少なくなり、ついに一本道になった。やがて俺の目の前に薄らと光る何かを見つける。暗闇に眩しく感じる淡い光に、俺もローラもぎくりと身を堅くして立ち止まった。
「ねぇ…あの先、明るいよ」
 分かってると口の中で言うとローラを背後に庇う様に下げて、松明を預け留まらせる。俺は剣を手に光ににじり寄る。
 この光がこの洞窟の終点と考えて間違いなかった。魔物は居ない筈だが、その光は僅かに揺らめいている。鼻先に僅かな水の臭いと、植物が放つような青臭さを感じる。そよ風の様に僅かな空気の流れが俺の頬を撫でていて、その風に乗って臭いと水の音を運んだ。俺は疑問を殺して近づき、そして光がよく見える位置で足を止めた。
「大丈夫だ、ローラ。慌てず来い」
 振り返ってローラに言うと、ローラは待ってましたと言いたげに近づいて来た。駆け出しそうになる足取りを少し強い語気で押し止め、彼女をゆっくりと歩かせる。彼女が俺の真横に来る頃には、その足下は湿っていたからだった。
「わぁ…」
 ローラが感嘆の声を上げた。そのまま光り輝く空間に入って跳ね回る。
 俺の目の前には、ヒカリゴケとその苔を喰う蛍が舞っていて松明が要らない程明るい空間があった。岩壁から僅かに滲み出した水が俺の足首くらいの深さの小川となっていて、ローラの膝下まで伸びた背の高い水草を育んでいる。小川の中には石碑と、それに続く石畳がある。水に手を浸けてみれば冷たく清らかで、この水がこの周囲にある環境を護っているのだろうとわかる。
 一足先に幻想的な空間を味わっていたローラは、石碑を見上げていた。
「これが勇者ロトのお墓なのかな?」
 ローラと並んでみれば、ヒカリゴケが生して分かり難い何かが刻まれている。俺が持っているロトの剣の柄にある、鳥が羽を広げたような紋章にそっくりなレリーフ。その下にはびっしりと文字が連なっている。文字は俺達の使う文字ではない。ローラがその文字を見ても理解したような様子が無い所を見ると、どうやら彼女も読めないようだ。そうなれば、この文字を写し取って竜王に相談した方が良いだろう。
 俺は仕方なくこの膨大な文字の羅列を写し取る事にした。しかし、暫くして横から覗き込んでいたローラが吹き出した。
「アレフ、文字汚すぎるよ。きっと竜ちゃんもイトニーにも通じないよ」
 俺が黙り込むと、ローラがちょんちょんと俺の手を指で突いた。
「あたしが写すよ。文字が奇麗な所は、ちょっと自慢出来るんだよ」
 姫さんが文字汚かったら、いろいろ夢が壊れるんじゃないのか? 俺がそんな事を思いながら、紙とペンをローラに渡した。ローラは受け取ると、俺からすれば驚きの速度で石碑の文字を転写していった。石碑から文字を抜き取って紙に納めたかの様に、精密で奇麗でしかも早いと文句が出ない。
「あたしね、竜ちゃんに頼んでお城から連れ出してもらったんだ」
 竜王は事を荒立てるつもりなんか全くなかったんだろう。『光の玉』が誰かに盗まれ国中いくら探しても見つからない、それで終わりになるはずだった。それがローラの我が儘でこんな大事になってしまったんだ。我が儘もここまでくると感心してしまう。
 ローラの視線が紙と石碑を往復しながら呟いた。
「あたしね、竜ちゃんが『光の玉』を盗みに来たのに気が付いたの。竜ちゃんは黙っていれば何もしないって言ってくれたんだけど、あたしはここから出られるチャンスだ!って思ってね。『大声出されたくなかったら、ここから連れ出して!』って頼んだの…。結局、兵士に見つかっちゃって竜ちゃんはあたしを連れてってくれたんだ」
 いつの間にかローラの手が止まっている。石碑の紋章を見上げながらローラが呟いた。
「ロトの伝説って嫌いじゃなかったな。あたしは小さい頃から勇者の子孫がやってきて、あの狭苦しいお城か連れ出してくれるって夢見てたの…」
「酷い妄想だな」
 俺の言葉にローラが頬をぷくっと膨らませたが、反論はしなかった。勇者ロトは大魔王ゾーマを打ち倒した後の行方を誰も知らない為に、勇者ロトに子孫どころか恋人が居るのかすら謎だ。勇者の子孫が来てくれるのは、彼女の中でも空想で妄想なのだと分かっていたのだろう。
 そういえば、魔物達の記録ではここで勇者ロトは消息を絶ったんだった。この空間は一体何の為に作られたんだ?
 そう思った俺は、何気なく石碑の奥を覗き込んだ。
 背中から冷や汗がどっと吹き出し、喉が干上がった。吹き上がった風に顔を舐め上げる様に晒されて、俺はようやくそこに巨大な断崖絶壁が奥に奥に伸びているのを理解した。上も下も奥も、闇に呑まれて果てが見えない。石碑から10歩歩けば地面は無かった。
 この石碑は魔王の爪痕と洞窟を隔てる様に建っていた。

 ■ □ ■ □

 何故だろう。俺は洞窟の中の闇よりも外の闇の方が明るく感じられた。
 実際出口付近には赤い光が漏れていて、外に出れば食事の支度をしていたイトニーと竜王が待っていたのだ。
「ローラ様! 良くご無事で…!」
 イトニーが過保護丸出しでローラに歩み寄ると、ローラも母親に甘える子供の様に抱きついた。ローラとイトニーは、きっと竜王の命令以上に親友みたいな関係になっているのだろう。互いの性格や相性が合っているんだろうが、なんとなく無邪気に喜ぶ様にこっちも安堵してしまう。
 そのまま洞窟の中は怖かっただ、愛しい御方と入りたいわだ、頬を染めたり青くなったり忙しくガールズトークで盛り上がる。女とは逞しいが、時に気味悪く感じてしまう物である。俺も竜王も異性の放つ異様な雰囲気に気圧されて、思わず後ずさってしまう。しかもイトニーが竜王に心配のあまりとは言えない、熱い潤んだ瞳で見つめているのに気が付いて思わず視線を見当違いの場所に逸らすして誤摩化した。
 俺が松明の炎を消し終えると、竜王が何かを言いた気に顔を上げた。相手が何か言う前に、俺はポケットに入れた紙を取り出して竜王に差し出した。
「それが収穫だ」
 竜王は早速、俺が手渡した墓所の書き写しを眺めた。竜王はしばらく眺めたが匙を投げたらしく、イトニーに投げて渡した。イトニーは少し眺めた後、何か気が付いたような顔になって俺達に言った。
「文章形式自体は我々が今も使う物ですが、文字だけは恐ろしく古い物を使っています」
 イトニーは彼女自身の覚え書きを書き留めた手帳を取り出し、その中と比べながら文字を解読していった。と言っても大して時間は掛からず、俺やローラが一息ついて寛ぎ始めた頃合いには済んでしまったらしい。イトニーは解読した内容を書き留めた紙を、美しい声で読み上げた。

 私は後世には勇者ロトと称されているだろう
 アレフガルドと異なる世界から来た私達は、この世界に光を灯し期待に応えた。
 しかし私達は祖国に帰る事が出来ず、全てを遮り隔離する障壁を『闇の衣』と呼んだ。
 光を灯し大魔王を退け太陽を昇らせたが、アレフガルドを解放するのには至らなかったのだ。
 この石碑を見る者が未だにアレフガルド以外の世界を知らず、外界に憧れを抱くならば
 祖国に帰る事を諦めなかった私達の力が、この地の何処かに眠っている。
 『ロトの証』と『太陽の石』と『雨雲の杖』を求めなさい。
 『虹』はアレフガルドを隔離する力を突き抜け、外界に達する事が出来るだろう。

 イトニーの声が余韻を残して読み終えると、竜王が納得した様に頷いた。
「ロトも外界から来た者だったようだな。しかも手段まで後世に残すだなんて、マメな奴だ」
「『太陽の石』と『雨雲の杖』は何処にあるか分かりますが、問題は『ロトの証』ですね」
 そんな感じで竜王とイトニーが相談し始めたので、置いてけぼり食らった俺とローラは顔を見合わせた。
 先程の内容を改めて考えると、魔物側が考えた通り『闇の衣』がアレフガルドを覆っていて外界とを隔てているという推測は正しかったようだ。勇者ロトがどのようにしてこの世界に来たかは別として、来た方法は帰る方法として使う事は出来なかったんだろう。執念深いというか心底帰りたかった勇者ロトは、新たに方法を作ってご丁寧に俺達に残してくれた…という訳だ。
 『闇の衣』が残っている状態であったが、勇者ロトは何かして太陽が昇る程の状態にしたのだろう。今回は勇者ロトが築いた状態が崩れたか、大魔王ゾーマかそれに勝るとも劣らない存在が現れたかのどちらかだ。竜王達の事を考えると、前者が正しいだろう。
 竜王達が『虹』の力を求める気満々なのも、きっと外界ならロトがアレフガルドに光を灯した方法の手掛かりがあるかもしれないと踏んでいるのだろう。大魔王が不在の今、退ける対象が居ないのなら『光を灯す』方法を求める必要がある。
 『虹の橋』の魔法。色んな意味で信憑性が出て来た。
「ねぇねぇ、どうなってるの?」
 ローラが俺の袖をちょんちょん引っ張って、こしょこしょ囁き声で訊ねる。
「外の世界に行く方法のアイテムの場所が、一つ分からねぇんだってさ」
「ロトの証って知ってる。私のご先祖様がちょこっと触れてるの」
 ローラが得意げになって俺に説明し出した。
「精霊ルビス様が勇者に授けた金の円盤の事だよ。確か、不死鳥が翼を拡げたロトの紋章の元になったのがそれなんだって。凄い力を秘めていて、持っている人を護ったり力を凄く強めたりするんだって。凄く力が強いし、ロトの名前を騙るのを恐れて、子孫にしか手にする事が出来ない様にしたんだって聞いてるよ」
「それがお前がロトの子孫が居るって妄想の根拠か?」
「その話はしないで!」
 俺がちょっと真剣な顔で返すと、ローラはさっと顔を赤くして頬を膨らませる限りいっぱいに膨らませた。
 そんな会話をいつの間にか見ていた竜王は楽し気に話しかけた。
「まぁ、そう言われているだけで実際は誰でも取れるのだろうよ。イトニー、ローラのご先祖の文献を見せてもらって来い。私はお前達が『ロトの証』の情報を集めている間に、『太陽の石』と『雨雲の杖』を取って来る」
 そういってカラカラ笑う竜王。お前は俺の想像以上にアバウトで前向きな奴なんだなぁ…。
「人々がゴネたら、アレフさんは実はロトの子孫かもしれないとかローラ様に言って頂きますわ」
「ちょっと待て!俺はロトの子孫なんかじゃねぇぞ!」
「嘘は方便です。もし信じたとしても仮定を信じる人間が馬鹿なだけですよ」
 イトニーの知った被った言葉に俺が露骨に反論しながら、ローラのお陰で周りの環境は変わったな…とつくづく思った。たき火を囲むあり得ない組み合わせの連中。傭兵に姫さんに魔王にその手下。阿呆らしいったらありゃしない。これがローラの我が儘の延長線にあるかと思うと、世の中どう転ぶか分かったもんじゃない。
 ヘタをすれば俺はローラにとっての『ロトの子孫』にされてしまうかもしれねぇ。