それが人の為だなんて [偽] - 後編 -

 激しい戦いの跡が残るアストルティア側の奈落の門。柱は薙ぎ倒され、床石が抉り取られ、階段は砕けている。ナドラガンド側の門と鏡合わせのような荘厳華麗な神殿であったろうが、大小様々な瓦礫が散乱し、濃厚な魔瘴に晒されて黒く輝く魔瘴石に変わっていた。ナドラガンドと繋がる門は大きく破壊され、ぽっかりと空いた穴へアストルティアの空気が吸い込まれていく。
 ふと空気が揺らぐと、門の向こうから二人の竜族が現れた。
「アンテロ様。ご無事で何よりです」
 ドマノとロマニ。俺の腹心の部下達は、門の前に立つ俺へ敬意を表して深々と礼をした。真新しい布の衣だったが、二人の体に染み付いた血と泥と汚物を含んだ闇の匂いが無性に懐かしかった。
「急にお一人でご出立されたので、心より心配しておりました」
 面を上げて見せた嬉しそうな顔に、俺も思わず頬が緩む。兄者にすら相談せず、書き置きを残して旅立ってしまったのだ。混乱が生じ迷惑を掛けただろうが、俺の無事を喜ぶ姿に問題は起きなかったと確信する。我が身と授かった召喚の札のみで、アストルティアに向かうなど無謀と思うだろう。だが、俺は竜族でも屈指の剛腕と胆力を持っている。どんな存在が立ち塞がろうと、使命を果たせると寄せられた信頼をくすぐったく思う。
「これを」
 二人に両脇に抱えたものを差し出す。長身の剣士だろう引き締まった体つきのマリーヌの器と、幼さの残るエルドナの器を、ドマノとロマニは恭しく受け取った。このナドラガンドを救うに必要な鍵を受け取った二人は、動かぬ俺を見上げた。
「アンテロ様。一度、お戻りになられては…?」
 いや。俺は小さく否定の言葉を呟いた。
 たった二人。その事実を奥歯が鈍い音を立てるほどに噛み締める。
 アストルティアにのうのうと生きる、ナドラガ様の弟妹神の下僕共。ナドラガンドの責苦を知らず、平穏さに浴する連中に遅れなど全く取らぬと思っていた。最初に降り立った船の上で人間の男の凄まじい剣技で退けられ、ドワーフの策略に器を前にして取り逃がす失態を犯した。果てにガズバランの器を多勢に無勢で、諦めなくてはならなかったのは痛恨の極みだ。
 何もかも上手く行かぬ。大いなる目的の前に立ち塞がる、邪魔極まりない害虫共め。
 ダズニフも邪魔だてしなければ見逃してやったものを、弟妹神の下僕共と共闘をする。炎の領界の解放者となっても、氷の領界の極寒に対応できなかった無能者。しかし、竜族では斗出した感覚による追跡を、ついぞ振り切ることはできなかった。
「俺が手にしたアストルティアの情報が書かれている。あのお方に渡して欲しい」
 ドマノが書状を受け取ると、俺は部下達から背を向けた。
「俺は追っ手を始末し、取り残した器を手に再び戻ってこよう」
 機会はいくらでもある。他の『神の器』を掠め取った盗人も、追いかけて奪い返せばいい。我らは悠久に近い年月を待ったのだ。これから行う様々が終わる時間など、今までの辛酸を舐めさせられた日々を思えば些細なことだ。
 翼が羽ばたく音がする。気がついた時には俺達の上に影が落ち、広くなった場所に二匹の飛竜が降り立った。一匹が戦いの場から離れ、もう一匹が竜族の姿に変わる。下僕共を守るように立つ同族の目元は前髪に隠れていたが、その顔は真っ直ぐ俺に向けられていた。
 匂いで、音で、味で、俺から発する全ての情報を具に拾い集め感じ取っているダズニフの集中は、視線を合わせられるよりも深く覗き込まれているようで腹立たしかった。忌々しい男を唾棄する思いで睨み返す。
「ダズニフ。なぜ、邪魔立てする?」
 静かに問うた俺の言葉だったが、ダズニフの返事は求めていない。
「我々はナドラガンドを救う為に、必要なことをしているのだ」
 弟妹神の下僕共が、俺の語る言葉に動揺して顔を見合わせた。『神の器』がナドラガンドを救う鍵となることは、『神の器』を争奪しあう状況を追いかけるだけの連中もダズニフも知らぬことだ。実際に何かに用いるとは想像し、その為に命は直ぐに奪われまいとまで予測しているだろう。それは正しい。だがその用途がナドラガンドを救うとなると、善き事なのではないかと揺れているのだろう。
 俺は彼らに手を翳し、腹の底から出た威厳に満ちた声で言い放つ。
「ナドラガ様に代わり命じる。下がれ。ダズニフ。貴様は解放者としての責務を果たせばいい」
 間髪を入れず、ダズニフが笑い飛ばすような短い息を吐き出した。
「俺は神の命令であっても聞く気はねぇよ。理由はお前が良く分かってるだろう?」
 笑いながら言うその姿は、哀れなほどに道化だった。
「俺がナドラガンドでなんて言われているか、知らねぇお前じゃねぇだろ。むしろ、面白可笑しく後ろの腰巾着と囃し立ててんだろ? 狂って、頭のイカれた、可哀想な恩知らずってさ」
 我々とダズニフの道が分かたれた出来事は、ダズニフの存在そのものを大きく変えた。以前のダズニフを知る者ならば、誰もが気が触れたと言うだろう。ある者は境遇に同情し、ある者は奇行に眉を潜め、ある者は隣人と面白可笑しく娯楽として消費していった。全てを知っている我々すら、愚かな道化に成り果てたと笑った。
 炎の領界の解放者になるまでは。
 ナドラガンドには、解放者という救世主が現れるという伝説がある。それは子供の寝物語にするような、ナドラガ様が復活され竜族を救うという内容と同じくらい竜族に浸透した伝説だった。断裂した5つの領界のうち、炎と氷を繋げた偉業を成し遂げた初めての竜族こそダズニフだったのだ。
「お前の行いは、確かにナドラガンドを思って実行されたことだろう。疑うつもりはねぇよ」
 竜族に解放者として認められた男は、全てを見透かすように言った。
「むしろ、全領界の解放がナドラガンドを救う方法として最も効率が良いなら、アンテロ、お前はアストルティアに来て『神の器』を誘拐などしない。解放者としての務めを果たす俺を容認するのも、解放もまた、お前達の目的を果たす方法の一つなんだろうと思ってる」
 愚かな道化のままなら、まだ使い道があっただろう。
 だが目の前の解放者は、全く狂ってなどいない。むしろ狂ったふりをして、今まで与えられた全てを駆使して我々の念願を打ち砕き、かの出来事に対して最高の方法で復讐せんとする厄災を齎す者でしかない。
 俺は殺意を迸らせた。背後でドマノとロマニが気圧されて後ずさる音がする。
「ダズニフ、貴様を今ここで、殺さねばならない」
 解放者は声をあげて笑う。堂々と叛旗を翻し、ナドラガンドの意思に反抗を宣言する。
「殺せるもんなら、殺してみろよ…!」
 ダズニフが素早く背後に下がるよう言い放つと、純白の雪原竜に変化した。走ることに特化した後ろ足の筋肉が膨れ上がり、俺の前に瞬く間に詰め寄った。俺もまた竜の姿に変わり、尾でダズニフを薙ぎ払おうとする。俺の尾を飛んで避けると、そのまま空中で回転し俺の顔に尾を叩き込んだ!
 衝撃に意識が飛びそうになるが、空中に止まった雪原竜を掴み床に叩きつけようと振り上げる。
 ダズニフが叩きつけられると防御のために身を強張らせた。そうだ、貴様はこのまま地面に叩きつけられて、意識が飛ぶほどの痛手を追うだろう。そしてそのまま俺に殺されるが良い。慈悲として、一瞬で息の根を止めてくれよう!
 筋肉を膨張させ振り下ろさんとした腕に、闇の力が凝縮し爆ぜる! 突然のことに勢いが削がれ、ダズニフが竜化を解いて手から転がり落ちるように逃げ出した。
 ダズニフが着地した奥に、黄色い大きな帽子を被った男が闇の力の残滓の中で俺を睨みつけている。マリーヌの器を奪取する際に、冥界から召喚した鬼達を駆逐した生者。エルドナの器を手に入れようとした時に、ついでに殺そうと思った娘が地に魔法陣を描き、小さな生き物が護符を手に肩に乗っている。
 高らかにマヒャドの呪文が歌い上げられると、魔法陣と護符が眩い光を放つ。床から巨大な氷の棘が俺を貫いた! 思わず痛みに声が上がり、門の方から俺を心配する声が響く。
「魔法の遠距離中心で、ダズニフ君を援護してやるんじゃ! 接近戦が得意な者は、門の前に! それ以外は状況に応じて支援するぞい!」
 ワギの器を奪取する際に謀った老ぼれか! 忌々しい! 俺は空気を引き裂くほどに怒りに満ちた雄叫びを上げた。
 ナドラガンドから力が流れ込み、災いの旋風となって吹き荒れる。火炎を帯びた渦が肌を焼き、雷が爆ぜる旋風が駆け抜け、毒を帯びた突風が踊る。門に向かおうとした連中は突然の風に驚き、足並みを乱す。
 再び俺と同じ巨大で重量のある竜に変化したダズニフが、俺を組み敷こうと体当たりをしてきた。互いの巨体を押し付け合い、相手を押し込む為に気を窺う。眼前にある純白の竜が、俺に話しかけてきた。
「アンテロ。お前が寒さを克服できぬ俺を、嘲っていたのを知っている。その嘲笑が、お前だけでなく竜族の誰からも聞こえていた」
 そうだ。解放者として名声を得たお前が、次の領界の寒さに対応できず堕ちていく様は愉快だった。ダズニフに良い感情を持っていない俺達だけでなく、数々の奇行を目にしてきた民すらもその様を笑いながら見ていただろう。自分達よりも惨めで哀れな存在を、嘲ることで満たされる感情がある。ナドラガンドの民は、その感情に酔い、存分に叩いて虐げて良い存在としてダズニフを見ていた。
 貴様が悪いのだ。
 我々と同じ道を歩むことを定められた貴様が、我らを導くような立場すら選べた貴様が、そうなることを選んだんだ。当然の報いだ。
「なぁ。何がそんなに面白いんだ? 俺にはちっとも分からねぇよ!」
 腕を差し入れられ、投げられる。大口を開け相手に噛みつき、肉を引き裂く。地面に叩きつけられ、追い討ちをかけようとする巨体の横っ腹を咄嗟に尾を叩き込む。隙を突かれて噛みつかれると、そのまま首を捻られ大きく鱗が引き裂かれ肉が持っていかれる。竜化した状態で戦う経験は決して少なくはなかったが、服を着るかのように竜化するダズニフ程の経験はない。接近戦の乱闘では、奴に分があることを認めざる得なかった。
 さらに厄介なのは、ダズニフには援護があったことだ。
「ダズダズ! がんばれ!」
 自然治癒力を高める呪文の光がダズニフに降りかかると、元々回復力の高い竜の回復力は上級回復呪文と変わらなくなる。俺が大きく抉り取った肉から溢れる血は止まり、肉が盛り上がって筋肉として脈動する。
 さらに防御力を高める呪文が奴を覆えば、俺の牙は微妙に奴の動脈に届かず打撃を与えにくくなる。床を濡らす夥しい出血は、ほとんどが俺のものだった。
 ダズニフと距離をおけば、瞬く間に魔法が放たれるのも鬱陶しかった。炎や爆発の呪文は何ら損害にならないが、爆発の爆風は勢いを削ぎ、氷の呪文は鋭く鱗を貫き、闇の呪文も炎よりも体に響く。魔力に秀でた竜族並みの威力を、奴らは力を合わすことで実現してみせた。
 ドマノとロマニが視界の隅に見えた時、二人は敵の仲間と戦っていた。器を奪われまいと防戦に徹しなくてはならない彼らが、俺の支援に回ることは難しい。そんな彼らの顔に、劣勢による悲壮さが浮かぶのを見た。
 なぜ、そんな顔をする。俺は部下達を睨め付けた。
 この俺が、この俺が負けるとでも言うのか?
 おのれ…! 強く噛み締めた牙が、ヒビ入る音が脳を伝った。
 憎しみが腹の底から湧き上がってくる。苦しみを知らず、憎しみも覚えず、平穏の中で微睡む連中が心の底から疎ましかった。此奴らの故郷がいくつ焼けようが、此奴らの親族が何人死のうと、俺達が受けた滅びと死の人数に遠く及ばない。その為に苦しみ絶望しても、それは俺達の耐え抜いたものの比ではない。
 もっと! もっと! 苦しめ、殺さなくては! 此奴らにも我らと同じ苦しみを、絶望を、味わせてやる! あのお方の言う通りだ。我らが待望を果たし、アストルティアに戦火を! 優れし竜族を忘却の彼方に押しやった尽くの顔を掴み、我らの姿を知らしめてやらねばならぬ。二度と忘れぬように、二度と侮らぬように、二度と刃向かわぬように、魂にまで刻みつけねばならぬ!
「ナドラガ様の後から生まれし、劣った種族共め!」
 最大威力に高めた竜化した者が放つことのできる最高威力の閃光。閉じた口から溢れ出る力が光となって、今か今かと放たれる時を待っている。ダズニフが咄嗟に俺の口を押さえ込もうと前に出たが、遅い。放たれた閃光がダズニフの腕を焼き、我が憎き敵を殺さんと迫る。
 ブレスを吐き出すことで無防備になった体を、咄嗟にダズニフは引きずり倒した。直線上に放たれるブレスは鞭のように奈落の門の前を尽く薙ぎ払い、炎に炙られた虫のように敵が逃げ惑う。片腕が使えなくなったダズニフの抑えは不十分で、俺は暴れながらも破壊を振りまいた。
 もっと苦しめと、笑い声が止まらない。引き攣った笑い声にブレスは途切れ途切れになったが、気にならなかった。
「俺の仲間は、何一つ俺達より劣っちゃいねぇ!」
 頭上を飛竜の影が過ぎる。その影に重なって濃い影が落ちてくる。落ちて、瞬く間に大きく迫る。それが大剣を握ったガズバランの民であることに気がついた時、頭の中に鋭い痛みをねじ込まれた! あまりの痛みに悲鳴が口から迸った。
「アンテロ様!」
 ロマニの声が聞こえ顔を向けたが、目が見えなかった。辛うじて光を感じられる視界は真っ赤になって、体が突然血と肉の袋に成り果てたように動かない。
 それでもこのまま『神の器』が奪われては、元も子もないという考えが過った。俺は込み上げる血に溺れながら、怒鳴りつけた。
「行け! その二つの器をあの方にお届けしろ!」
 弾かれたような二人の気配が、そのまま門の奥に駆け込んでいく。下僕共も一瞬躊躇ったが、短く言葉を交わして追いかけていった。馬鹿め。あのお方の加護で満ちた地は、貴様らにとって墓穴同然だ。
 俺は最後の力を振り絞ってダズニフを押しのける。
 門から流れ込むあの方の力を大きく吸い込み、生命と共に燃やす。込み上げる力と、あの方の慈悲に満たされていく感覚が、俺を竜族として何者よりも強いものに変えていく。体が膨れ上がり、力が至る所から外へ溢れ出る。そうだ、俺達竜族は選ばれし民。下等な存在に引けを取るわけがないのだ!
「下等種族の貴様らに見せてやろう! 選ばれし民、竜族の絶対的な強さを!」
 真っ暗な中にダズニフが浮かび上がる。白く光る竜が瞬く間に迫り、俺にぶつかる。地に叩きつけたが、竜は変わらず縋りつき、力の限り押した。青い光が放った呪文を、緑と紫の光が増幅させ俺の足元で爆ぜる。
「アンテロ。俺はお前を殺さざる得なかった。それくらい、お前は強かった」
 突然、地が急に失われた。空に放り出され、吸い込まれるように落ちていく。俺から手を離した白い光に、翼が生え大きく羽ばたいた。
 すまない。言葉が聞こえた瞬間、体がバラバラになるような凄まじい衝撃と共に視界が真っ暗になった。
 闇に目が慣れてくると、見慣れた教えの部屋に兄者と共に座って、師がいつもの場所に立って教鞭を振るっていた。立派なお方だった。慈悲深く優しい面持ちを崩された顔を一度も見たことはなく、どんな場面でも眉一つ動かさぬ冷静さ。兄者でさえ師の底知れなさに、畏敬の念を抱いていた。
 我らが兄弟の師が、嬉しげに俺達に語りかける。
『もうすぐ、我らの新しい歴史が始まるのです』
 師は兄者と俺に笑いかけ、そっと俺の手を取った。全ての感覚が消えているのに、師の無骨な形だが滑らかな鱗の感触が鮮明に感じられた。
『お勤めご苦労様でした、アンテロ。よく、頑張りましたね』
 心に染み渡る声。その労いの言葉で、心の中で暴れ回っていたあらゆる感情が凪いでいく。静かに満たされる感情は、師の下で兄者と学んだ日々をゆっくりと噛み締める。家を失い、故郷を失った先で受け入れてくれた新しい家。優しく厳しい家長である師が、血の繋がっていない我ら兄弟を我が子同然に愛しんでくれた。
 師が振り返った。師によく似た子供が、扉の前に立っている。
『きちんと案内するんだよ』
 固く目を閉じた子供が小さく頷くと、俺の手を引いて歩き出した。俺が歩いている感覚はなく、子供が進む度に世界が変わっていく。ナドラガンドの灼熱の世界を進み、身が焼けるような憎たらしい暑さが包み込む。子供が足を止めたのは、30年前に我らが兄弟が立ち尽くした場所だった。
 もう何もない山間。赤茶けた大地を赤々と溶岩や炎の光に照らし出された、何の変哲もない風景。
 聖鳥が空を舞っていた。美しい翼から炎を振りまき、悠然と炎の領界を飛ぶ大鳥。その優美なる姿に祈りを捧げる竜族は多くいて、ナドラガ神と変わらぬ信仰の対象として崇められていた。俺も兄者も、故郷の誰もが祈っていた。
 聖鳥が舞い降りてきて、じっと俺を見つめた。漆黒の中に炎の領界の様々な赤が映り込んだ、血のような深い深紅に俺の姿が映っている。瞳の中の俺が頭振って、瞬いた長いまつ毛に潤んだ瞳が隠れる。
 澄んだ鳴き声を空に向けて放つと、大鳥が飛び立った。それをあぐらをかいて座り込んで見送ると、俺は向かい合うようにしゃがみ込んだ者を見た。もう、子供の姿ではない。成人した、師に瓜二つの若者を少し過ぎた男がそこにいる。
「先に冥府で待っているぞ。ダズニフ」
 ダズニフは小さく頷いた。
 口元を引き結んで、痛みを堪えるように、いつまでも俺に向き合っていた。