人の見る夢はあまりにも [儚] - 前編 -

 初めて訪れたドワチャッカの最初の印象は、砂まじりの強い風だった。乾燥した温い南風が僕を舐め上げてカルサドラ大火山を登っていく。見渡す限り複雑に入り組んだ煉瓦積みの壁と、それを鮮やかに彩る幾何学模様に覆われていて、日除けの役割を持った街路樹の鮮やかな緑が映える。青空の下なのに巨大な迷路の中のように感じた。
 少しでもスペースがあれば露天が入り込み、ドワチャッカ大陸から集まってきた様々な商品がやり取りされる。ドワーフ達は地面が見えている場所を見つけては、小さい折り畳みの椅子を持ち寄ってその場で買った料理を口にしながら大きな頭を突き合わせて談義に興じている。砂漠から来た砂塵よけのフード付き外套で体を包み込んだドワーフ、商品を載せた籠を頭に乗せて商品名を張り上げて歩く売り子、はしゃぐ子供達。背が高くても僕の胸元くらいのドワーフ達の波をかき分け進む。
 目印はヘルメットの上にちょこんと留まった、アイアンクックだ。小さい鉄の丸い胴体から、白い羽と、赤いカラーリングが目を引く顔が出ている。アイアンクックはグラグラと動くヘルメットの上で、器用にも毛繕いをしていた。
 僕が後を追ってこれてるか気になって振り返った顔は、艶のない砂まみれの白い髭と髪で埋もれている。僕らの仲間の中で最も旅慣れたベテラン、ガノさんは人通りが少ない道に出て並んだ。歩きがてら買ってきた、熱々のガタラ豚まんとスパイスの効いたお茶を差し出してくる。
「ルアム君、エテーネ村以来じゃの。村の復興は順調かね?」
 豚まんの中身は期間限定の角煮味だった。柔らかく煮込まれて解れる肉と、甘辛いタレと肉汁を吸った外側のパンっぽい部分がとても美味しい。味わいながら、村長代理をヤクウさんにお願いしてきたこと、ナルビアの町と繋げる街道の整備が本格的に始まったことを話す。
 歩きながら『それはなにより』とガノさんは嬉しそうに聞いている。すれ違いざまにカットフルーツを買い、肉まんを食べ終えて空になった僕の手に握らす。ぼ、僕、そんなに食いしん坊じゃないんだけどなぁ。
 僕から見れば歩幅の小ささから足早に進んでいるように見えるガノさんは、明るい態度を曇らせる。
「ヴェリナードの襲撃事件の話は聞いておる。…イサークは目覚めたかね?」
「いえ。兄さんの目で確認してきましたが、命に別状はありませんが意識が回復しないそうです。ブレラさんが言うには、冥界から這い上がるのに時間がかかるそうです」
 ヴェリナードは無事オーディス王子を守り切ることができた。しかし、影武者を勤めたヒューザさんの誘拐された後の安否は不明で、襲撃者に襲われたイサークさんは昏睡状態だ。兄さんはイサークさんをブレラさんとヴェリナードに任し、銀色のドラゴンキッズを目覚めさせるついでに、エンジュさんの応援にエルトナへ渡る。そう伝えながら、僕は重いため息を吐く。
 僕の歩みが遅くなったのに気が付いたんだろう。ガノさんが、足を止めて僕の二の腕を優しくさする。
「気落ちするでない。お主の兄がイサークに害をなした訳ではないぞ」
 頷きはするが、気持ちは重い。白いフードの襲撃者が、テンレス兄さんの協力者とは断定されていない。しかし、同じく若き王族を狙っているのだ。共謀していると考えるのが普通だろう。
 ルアム兄さんが、とても怒っている。戦って傷つけてでも止めるんだって、火が着いたように怒ってるんだ。だから僕は状況の割に冷静だ。テンレス兄さんに会ったら『どうしてこんなことをしたのか』って聞かなくちゃって思ってる。
 ガノさんが大きな肉を吊るして焼いている露天の前で足を止めると、削ぎ落として串に通した肉を3本も買い付けた。その内2本を僕に持たせるんだ。スパイスが効いてて凄く美味しいけど、食べちゃうけど、どうしてそんなに食べさそうとするのさ。お腹いっぱいになっちゃうよ。
「ヴェリナードの影武者を用いた作戦は功を奏し、王子は無事だったと聞く。ドルワームもラミザ王子の護衛を強化しておるが、我輩は別に作戦を用意しておる。ほれ、頭の上に載っておる子がそれじゃ」
 そう言いながら、ガノさんはヘルメットの上で毛繕いをしているアイアンクックを指さした。
「我輩が開発をしている、アイアンクック型自立式神カラクリ『クイック』じゃ」
 くるんと顔がこちらを向くと、ぱかりと嘴が開いた。見た目は完全にガタラ平原で見かけるガチャコッコの色違い。ガノさんの頭の上で大人しくしていなければ、思わず短剣で叩いちゃうくらいだ。
『くいっく! るあむ くん 登録。初めまして。くいっく! くいっく!』
 ぱたぱたと羽ばたくと、僕の周囲を何周か飛び回って肩に止まる。うっ! 見た目以上にずっしりだ!
 カラカラと笑うガノさんに合わせて、クイックも鳥が囀るように笑う。ただ、関節や首が回るごとに金属ががちゃがちゃ音を立てるから、うるさいし壊れないか心配になっちゃう。
「我輩は己で判断し行動する、神カラクリの術式を長年研究しておっての。ウルベアの魔神機も搭載しているのだが、未熟と言うか敢えて制限を掛けておるようで謎の多い分野なんじゃ」
 今、ドルワーム王国の技術は凄まじい速度で成長を見せていると言う。その原因はたぶんガノさんだ。遺跡探索の趣味が高じて、失われた古代ドワチャッカ大陸の技術を自己流で再現してしまう。目の前のクイックは現在のドワチャッカ大陸の最先端の神カラクリなのだろう。
 肩に乗ったまま毛繕いを始めた。まって、凄く足が食い込む。ずっしりとした体が落ちないように、びっくりするくらい力が入ってる。凄く痛いんだけど!
「クイックには今、探知機能を備え付けさせておる」
「探知機能?」
 ガノさんの所に戻ってとお願いすると、クイックは囀りながら戻っていく。ガノさんが頷いた拍子にヘルメットからズリ落ちそうになり、羽ばたいて居心地の良い場所を探している。
「例え影武者が拐われて王族が無事でも、追跡できぬでは意味がない。そのため、影武者役の者に発信機を持たせ、このクイックの探知機能で追跡させるんじゃ。今、そのテストの真っ最中なのじゃよ」
 結局、ヘルメットに留まれなかったクイックはガノさんの腕に止まる。クイック用なのか、何重にも皮を重ねた分厚い肘まで覆うグローブだ。ガノさん、僕の肩に留まってた時、凄く痛いの分かってたんじゃないの?
「くいっく! 発信機の 電波 きちんと拾える! くいっく! えらい? えらい?」
 ガノさんがクイックの嘴の下を撫でる。
「うむうむ。偉いぞ、クイック。よく出来ておる」
 くいー! クイックが嬉しさのあまり飛び上がり、空中を旋回した。まるで我が子が喜ぶ様を見るように、優しく見守るガノさんが僕の方に向き直った。
「発信機を持った生きの良い女子に手伝ってもらっての、電波がきちんと拾えるかを確認しておるのじゃ。洞窟の最奥、山の上、断崖入り組む複雑な地形、火山地帯、海の中、様々の場所で正しく作動することを確認してきたんじゃ。これから発信機を持った子と合流して、ドルワームに戻る」
「その発信機を、ラミザ王子に持ってもらうんですね」
 僕の言葉にガノさんが唸った。
「本当は影武者に持たせたいのじゃが、王子君は優しいんで危険な真似はさせられないと断固拒否での。実際にドルワームの騎士団の団長を務めて腕っ節もまあまあなんじゃが。…まぁ、仕方がない。発信機を持たせて、ルアム君と我輩の追跡探索スキルを駆使して速攻で救助に行くとしよう」
 責任重大だ。僕は気を引き締める。
 自分の肉体に戻ってから、僕は兄さんの体に馴染んでしまった癖を戻すことに必死だった。人間の腕力はプクリポ以上で純粋に弓の威力も上がったし、集中すると的が止まるように見えるから射撃の正確さも上がった。兄さんの体に害があっちゃいけないって、使ってなかった毒も使う。強くなった筈だけど、一番困ったのは兄さんの身軽さに慣れてしまったことだ。あんな風みたいに動けないのは、地味に辛かった。
 今も僕と兄さんは感覚や意識の共有ができる。でも、兄さんの体を動かすほどの干渉はもう出来ない。
 でも、それでいい。兄さんの体は兄さんのものだ。これが、自然な形なんだ。
 狩りで戦闘を意識した動きはしたし魔物とも戦ったけど、誰かと一緒の実戦は初めてだ。ガノさんの足手纏いにならないよう、頑張ろう!
 丘の上に建つガタラは階段が多い。段々に建てられた家々の合間を縫うように、たくさんの階段が丘の斜面をなぞるように作られている。それらを登った僕らは、広々と開けた広場に出た。町のシンボルだろうドワーフらしい建造物を中心に、植物が植えられている。
 人々も今まで歩いてきた場所に比べて疎らだ。しかし、疎らな原因を僕はすぐに察することができた。
 レンガの黄色や装飾の目に鮮やかなガタラの町の色彩の中で、その建物は黒く沈み込むようだった。遠巻きから見て、それは建物と言って良いのかすら分からない。何に使うのか巨大な歯車が屋根の上に乗った重みでか建物が傾ぎ、窓という窓、穴の空いた壁からは部品らしい何かが詰め込まれている。長い鋼鉄の梁のような棒が飛び出た横で、割れた鉢植えに小さいサボテンが花を咲かせている。収まり切らないのは、家からこぼれ落ちて広場に散っている始末だ。
 目を白黒させて拾い上げたヒビ入って使い物にならない歯車と、ガノさんの指さしたゴミ捨て場のような家を見る。
「我輩の弟子の家じゃ。ガタラではガラクタ城と呼ばれておる」
 あそこが待ち合わせ場所、なんだろうな。僕を含め仲間も皆個性的だけど、ガノさんの弟子も相当なんだろう。ちょっと不安を感じながらも、僕らは広場を突っ切ってガラクタ城と呼ばれた場所へ歩き出した。
 すると、ガラクタ城の入り口が弾け飛び、白い服を着たドワーフが高々と宙を舞う。2階に相当する高さまで吹き飛ばされた体が、石畳に叩きつけられては大怪我をしてしまう。駆け出したガノさんが鞭を振るい白い服を絡め取ると、自身に引き寄せ受け止める。
 その間に僕は弓を番え、吹き飛んで暗闇がぽっかりと口を開けた入口を睨みつけた。入口周辺にあった遺跡の遺物らしい様々が粉々になり、砂埃になって視界が悪い。
 それでも、それは闇の中で浮かび上がるようだった。
 白いフードをすっぽりと被り、一体化した同色の外套が足元まで包み込んでいる。兄さんの目で見た、ヴェリナードの襲撃者だ。何かを抱えるように膨らんだ外套の内側に、鮮やかなオレンジの髪が見える。王子がここに来ていた? いや、それは関係ない。これほどの距離がありながら、凶悪な獣が蹲っているような威圧感。強敵だ。弓を引き絞る手が震える。
 集中して時間が引き延ばされる感覚。その中で僕はフードの闇に溶けた、襲撃者の眉間へ狙いを定めた。体全体に行き渡った力を糸を切ったように離すと、弓から矢が放たれる。
 矢は鋭い音を響かせて、吸い込まれるように襲撃者の顔へ駆ける。その速度は熟練の魔法使いのメラをも超える。僕を認識していない以上、不意打ちに近いこの射撃を躱すことは不可能だ。
 それでも、それは僕の集中した視界の中で、素早くオレンジの髪が見えていない腕を動かした。砂埃を貫いて進む弓を顔の前で掴む。鋭い射抜くような視線が向くと、僕に向けて矢を投げ返してきた!
「…っ!」
 僕は腰の短剣を引き抜いて矢を打ち払う。あまりにも鋭い投擲で、打ち払った衝撃に手が痺れる。
 一瞬目を離した隙に、白い影はもう何処にもいなくなっていた。
「院長君! しっかりせんか! 何があったんじゃ!」
 ガノさんが助けた白い服のドワーフの顔を、ぺちぺちと叩く。その横を駆け抜け、僕はまだ埃がもうもうと煙るガラクタ城の中に踏み込んだ。真っ暗い窓からの光もなく、室内に吊り下げられたひび割れたランプが揺れて闇が右往左往する空間。雑然として目が惑わされる空間を、短剣片手に見回す。もう先程の白い影はいないようだ。
 まるでイオ系を室内で放ったかのような、荒れ具合だ。吹き飛ばされ真っ二つに割れたテーブルの傍に、若いドワーフが倒れ込んでいる。むき出しになっている肌には傷はなく、血溜まりも出来ていない。大きな怪我はなさそうだが、動かない肩を揺する。
「大丈夫ですか?」
 うぅっ。弱々しいが呻き声が聞こえる。僕が良く診ようと、膝を付いて覗き込もうとした時だった。
 がたっと傍の瓦礫が突然押しのけられた!
「ムキャーーー! チリを返すんですよ!」
 わっ! 膝を付いて姿勢を低くしていたから、伸し掛かるそれを払い除けることもできず転倒する。しかもドワーフはプクリポと違ってずっしり重いから、転がされて伸し掛られると、どうにもならない。中年に差し掛かりそうな男性ドワーフは、ムキャムキャと興奮した様子で僕を叩くんだ。そんなに痛くないけど、や、ちょっと、待ってよっ!
「こぉれ! ダストン! やめんか!」
 ダストンと呼んだ僕を叩くドワーフの脇腹を、ガノさんの全力のハンマーが抉っていった。大きく吹き飛ばされ、奥に積み上がった色んな物にぶつかって崩れ落ちた下敷きになる。家が倒壊するほど揺れて肝を冷やした僕の横で、やれやれとガノさんが首を振った。やれやれじゃないよ。死んじゃうって。

 ガノさんが助けた白い服はドルワーム王立研究所の制服だそうで、彼は『所長のドゥラです』と生真面目な顔で握手を求めた。ポツコンと呼ばれているが、絶対そんな名前じゃないだろう青年も意識を取り戻して僕の隣でお茶を啜る。ガノさんに吹き飛ばされたダストンさんは、なぜかホイミすら必要ないのでもう考えることを辞めた。
「で、何があったんじゃね?」
「ガラクタ城に突然白いローブの男が現れたのです。この狭い空間に魔物を解き放ち、こちらが混乱している間にチリさんを拐って行きました。妨害しようとして吹き飛ばされた後のことは、お二人もご存知の通りです」
 ドゥラさんが苦々しく顔を歪めた。疲労を考えてベホイミ程度の治療に留めたが、痛みが疼くのだろう。ガノさんの隣に座っていたダストンさんが、なんの悪意もない顔でドゥラさんに言う。
「妨害ってアンタ、狭い場所じゃ魔法も使えないって右往左往してただけじゃないですか。惚れ惚れする無能っぷりでしたよ!」
 うっ! ドゥラさんが胸を押さえて、テーブルに突っ伏した。これはホイミでは治せないダメージだ。
「賊はチリちゃんを狙っていたと言うのかね?」
 ガノさんが訝しげにドゥラさんに尋ねたが、答えられる状態じゃない。
「あの白いフードの男の裾から、蛇みたいなのが見えたんです。チリさんに向けられた蛇が赤く光ったのを男が見て、拐って行ったんです。チリさんの真横に立っていたダストン様も助けようとしたんですが…」
 代わりに答えたポツコンさんの言葉に、ガノさんがふむと頷いた。僕も首を傾げる。
「行動からしてチリさんという方を狙ったようですが、王族の方ではないんですよね?」
 テンレス兄さんも、白いフードの襲撃者も若き王族を誘拐している。ドワチャッカ王国の若き王族は、ドルワーム王国のラミザ王子だけだ。王立研究所の研究員であるチリさんが、狙われる理由が見当たらない。
 しかし白いフードの襲撃者は、何かしら確認した上でチリさんを拐って行った。一体、どういうことなんだろう? 今まで王族であったのは偶然で、別の条件があるのか?
 何かを思案するように黙り込んでいたガノさんは、ぽつりと言った。
「実はドルワーム王国にはラミザ王子の他に、もう一人子供がおるのじゃ。双子が王権を奪い合い滅んだ王国の逸話から、ドワチャッカ大陸では双子は不吉とされておる。その迷信を信じ、今でも双子が生まれるとその内一人を養子に出す家もあるほどじゃ。王は、生まれて間もない双子の片割れを捨てたと言うておった」
「まさか、チリさんが捨てられた王の子だと言うんですか!」
 ショックから立ち直ったドゥラさんが張り上げた声のあまりの大きさに、ガノさんのヘルメットからクイックが落ちる。ガノさんが眉毛を持ち上げ、ドゥラさんを見返した。
「なんじゃい、院長君。まるでチリちゃんが王族である可能性などない、みたいな言いっぷりじゃが」
「あ、いえ。そういう訳…では」
 ごにょごにょと言葉を濁して座ったドゥラさんを横目に、ダストンさんが声をあげて笑った。
「先生、チリが王女だなんてあり得ないですよ。だって、あの子は赤子の時にゴミの山に捨てられてたんですよ? なーんの役に立たないから捨てられたんですよ? 王女なんて役に立つ娘じゃありませんよ!」
 うーん。このタイミングで、チリさんが王女だって信憑性が増す発言だなぁ。
 ガノさんやドゥラさんの口振りでは、ドルワーム王国では捨てた子供の行方は把握していないことになる。そして実際に王族が狙われている状況で拐われてしまったチリさんが、王子の双子の兄弟である可能性は大いにある。僕としては何処にいるか分からない王子の兄弟を探す手間が省けて、良かったなって思うんだけど不謹慎かな?
「しかし、あの当時は流行病もあり、孤児はかなり多かった筈です。確かに歳の頃合いも、髪の色も王子と符合しますが、それだけでチリさんが王族に連なる者と断定するのは早急過ぎます」
「どうでも良いわい」
 食い下がるドゥラさんを、ガノさんが面倒そうに一蹴した。
「チリちゃんが王女であるかなど、王国の連中が判断すれば良い。我輩には関係の無いことじゃ。今向き合うべきは、チリちゃんが拐われたという事実。そして…」
 ガノさんは足元に転がっているクイックを拾い上げた。壊れたガラクタで折れた脚を補い、辛うじてテーブルの体をしている物の上に置かれる。樽のような状態から羽だけが飛び出して浮かび上がると、テーブルの上に青い光を投影された。ドワチャッカ大陸の地図に一つ灯った赤い光が、ガタラから北の位置で瞬いている。
「チリちゃんが持った発信機が、役割を果たしておると言うことじゃ」
 にまりと、ガノさんが不敵な笑みを浮かべる。
「襲撃者のアジト。観光に行きたい者は挙手するが良い」
 観光。僕は手を上げながら思う。
 殴り込みの方が、表現的に正しいんじゃないのかな。