月の港

 『楽園』の明るさに慣れた視界が、真っ黒に塗りつぶされる。聖塔の内部は闇の領界を凝縮したような闇が詰め込まれ、夜目の利かない者には明かりを欲するほどに暗い。アストルティアから来たドワーフという種族の老人が、ランタンを灯すと暖かい明かりが闇を押しのけたのです。
 明かりの向こうに緑の肌にずんぐりとした見慣れぬ体格が浮かび上がる。白髪に埋もれた顔が『全員居るかね?』とふさふさと揺れながら訊ねます。
 私が振り返ると、ダズニフがゆっくりと歩み寄ってくるのを見留める。
「はい。私もダズニフもいます」
 それは重畳。ガノさんは嬉しそうに、豊かな髭を動かして見せました。
 闇の領界に逆さに突き立つ聖塔の入り口は『楽園』に存在しました。本来『楽園』の維持を使命とするカラクリ達ですが、現在『月』の修繕が竜族の排除よりも優先されている。カラクリ達に邪魔されずに聖塔に侵入出来る、またとない機会でした。
 しかし、カーラモーラ村の襲撃の直後の為、ナダイア様とルアムさんが村に残ることになりました。更に私達に何かあった場合に来れるようにと、竜化の術が使えるクロウズさんも村で待機しています。カラクリに詳しいガノさん、解放者であるダズニフ、そしてオルストフ様から解放者に付き添うよう命じられている私が塔にやって来たのです。
 目が闇に慣れても何も見えず、息遣いすら煩い静寂で満たされている。
 ガノさんがしゃがみ込んで、ぺたぺたと厚みのある手のひらで床を叩きます。壁も床も奥行きすらも闇に溶けた世界では、音がしなければ宙に放り出されたような気分にさせられるのです。これが光を失っているダズニフが、感じている世界なのでしょう。
「この素材は光を吸い込むようじゃな。光は意味を成さぬじゃろう」
 そしてランタンを掲げると、正面に何かが反射して光っている。
「だからこそ、より際立つというものじゃ」
 招かれるまま光に反射したものに近づけば、それは両開きの扉くらいの大きさの一枚板でした。光を吸い込み塔の闇を生み出す素材と違い、この一枚板を構成する金属は遠くからでも僅かな光を拾い上げて反射します。板は僅かな角度をつけて扇状に折ったような形になっており、奥へ広がり外へ向く面には言葉が刻まれています。
 『四角い燭台には青き炎が灯り、丸い燭台には赤い炎が灯る。三角の燭台には紫の炎が灯る』そう刻まれた言葉を撫でて読み取ったダズニフは、金属の板の向こうを覗き見た。
「炎ってあれのことか」
 そう指差した先に、紫の炎が灯されています。
 先ほどの金属の板と同じ扇状の一枚板の前には、三つの燭台のうち一つに炎が灯されています。カットされた紫の硝子が詰まった三角形を重ねた燭台に、紫の炎が灯って板を正面から照らしています。金属の左側を照らす為に、青い硝子を嵌め込んだ立方体を重ねた燭台。右側の赤い燭台は婉曲した支えに吊るされた丸い燭台で、鎖の部分に赤い硝子が注ぎ込まれているようです。
 扇状の板の左右には、同じ言葉が刻まれていました。
「『神聖な炎は消えず。されど、灯せる炎は一つのみ』」
 そう読み上げたガノさんは、ふむ、と小さく唸ってランタンを掲げました。炎の灯っていない燭台に炎を注げば、風もないのに炎が灯っている燭台から火の気が失せる。なるほど、と老人は心得顔で頷きました。
 ぐるりと闇の中を見渡した老人が視線を止めた先、やや下方にランタンの光が反射している。ガノさんがにっと笑ったのか、もさりと白髪が動いたのです。なだらかな坂道を下ると、先程と同じ立ち位置で扇状の金属板と2つの燭台があります。ランタンの光が左右異なる文字を浮かび上がらせました。
 『ナドラガンドの竜族は勇んで戦いに赴き、罪なき者の命を奪っていった』そう刻まれた言葉を読み上げると、私は腹の底から怒りが込み上げてきました。例え試練と言い聞かせても、竜族を侮辱するとしか言いようのない表現だったからです。
「…なんという妄言!」
「こちらは『ナドラガンドの竜族は勇んで戦いに赴き、敵となる存在を屠った』とあるぞい」
 反対側の言葉を読み上げたガノさんに向けて、拳を握り、叩きつけるように言葉を吐き出す。
「竜族が意味もなく命を奪うなどあり得ません!」
「黙ってくれ、エステラ」
 ダズニフの低い声が私を諌めるように言う。確かにガノさんに怒鳴りつけるような真似は、八つ当たりに等しい。しかし、言わずにいられましょうか! 偉大なる女神ルティアナの長子、ナドラガを種族神に抱く竜族が罪もない者を殺すなんてあり得ない!
「黙れと言っている」
 口を開き息を吸い込むと、迸る声の出先を潰すようにダズニフが囁く。その威圧感に迫り上がった声は喉の奥に押し返され、私は言い募ろうとした言葉を苦しげに飲み込まざる得なかったのです。
 なぜ、貴方は黙れと言うのです。 偉大なる竜族が、間違いを犯すとでも思っているんですか?
 偉大なる血筋を表すような虹を帯びた銀の鱗を見る。私と同じ世界で生きて、同じ神を信仰しているというのに、何もかもが違う。噛み合わぬもどかしさを、私は苛立たしく感じる。
「竜族の視点では敵を討ち取ったが、敵対した側からすれば罪なき者も殺されていたということか…」
 ダズニフの呟きに老人は深くゆっくりと頷いた。
「灯せる炎は一つだけとは、よく言ったものじゃわい。我らが知るのは所詮、勝者の歴史。都合の悪い事は闇に消えてしまうからの」
 ダズニフが青い燭台の前に屈み、ふっと息を吐く。青い炎が照らし出したのは、竜族が罪のない者を殺害したという言葉でした。青い光はランタンよりも明るく言葉を闇から浮かび上がらせ、ガノさんの読んだ言葉は闇に沈んでしまう。
「竜族が命を奪ったのは事実だろう。生きていれば大なり小なり罪を重ねる為に、罪なき者は存在しない。それでも、命を奪われる程に罪深き者はそう多くないはずだ」
 ひどく悲しげに紡がれた言葉に、私は否定の言葉を言えずにいました。背筋を伸ばし奥を見る視線を追えば、ランタンの光が次の言葉へ導いていました。
「こんなことが、本当に…?」
 刻まれた言葉は『カーラ郷の竜族達が、恐るべき災いを齎す毒を作り出し用いた』という内容でした。『敵を滅ぼす為』か『敵から身を守る為』という違いがあるのみ。私は言葉を失い、震えが止まらない体を抱きしめました。
 少し離れた場所には『災いの毒により迎えた終わりなき争乱は、竜族の敗北という形で幕を閉じた。双方の数え切れぬ屍と、毒に汚染された大地が残った』という言葉が紫の光に照らされている。結果だけの言葉を照らす紫の光の前で、ガノさんが振り返ったのです。
「この闇の領界の地獄は、カーラモーラ村の竜族の先祖が生み出した結果であるようじゃな…」
 そんな。目の前が真っ暗になる。
 闇の領界の苦しみは、竜族が生み出した…。そんな事はない。あり得ない。どんなに否定しても、刻まれた文字は変わらない。どちらの炎を照らしても、竜族が恐ろしき災いを齎す毒を使ったという事実が揺るがない。
 ダズニフが青い燭台に身を屈めようとしたのを、ガノさんが制する。
「毒は最後の手段であったじゃろう。余程追い詰められていたに違いない」
「そ、そうですよ! 誇り高き竜族が毒だなんて卑劣な道具を使うだなんて、あり得ない。この塔の言葉は偽りに違いありません…!」
 ぱっと灯った明るい感情は、ダズニフの否定に掻き消える。
「誇り高き竜族ねぇ…。毒を撒いた連中は何も考えていなかった。敵を滅ぼし、毒に穢れた大地を棄てるつもりだったんだろうよ」
 淡々と吐き捨てる言葉には、憎悪と嫌悪で塗れている。
「やめなさい、ダズニフ! 過去の同族を冒涜してはなりません!」
 今までにない大声で否定した声は、喉を焼くほどに痛む。涙が滲む。痛い。喉も、がなり立てる心臓も、心も、本当か嘘か分からぬ言葉に否応なく傷つけられる。嘘だと否定しても良いのに、闇の領界の毒は我々竜族の考えもつかない恐ろしい存在の仕業だと決めつけて良いのに、逸らす事ができない。
 なぜ、竜族は苦難の環境に身を置かされているのか。
 その疑問を抱かぬ者は、このナドラガンドに一人としていないだろう。
 なぜ、ナドラガ様は我らを救ってはくれぬのか。
 応じぬ懇願に呪いさえ抱く我が身を、自ら罰した者は数知れぬほどいるだろう。
 漠然と思い巡っていた疑問が、明確な言葉となって突きつけられる。
 竜族は罪人なのだ。
 その言葉は埋まらぬ複雑で空虚な形に、ぴたりと合わさった。もう二度と外す事ができないほどに、隙間なく合わさってしまう。
「竜族が偉大な他の種族に勝る存在だったなら、身を守る必要なんかない。毒なんて恐ろしいものを制御出来ると、自惚れた結果が闇の領界だ。エステラ、見てこなかったとは言わせねぇぞ」
 やめて。やめてください! 私はもう、言葉になっているか分からぬ声を上げる。
 喉が痛かった。血が溢れて溺れてしまいそうな苦しみで、もはや立ってはいられない。溢れる涙は誰の為なのだろう? 闇の領界で苦しむ民の為ではなく、罪を犯したのが竜族であると認めたくない己の為の涙だと自覚したならば止まる事がない。
 私はいつも都合の良いことばかりを考える。
 神官様が村を助けてくれると思った。弟だけは助かると思った。死にたくないなんて、嘘だ。最後に私だけが生き残ってしまった。死ななくて良かったと思っていたくせに…!
 今だってどうにもできぬのに、闇の領界の民を救うのだと息巻いている。
「だがな、エステラ。俺は誰よりも傲慢だ」
 暖かい手が私の肩に置かれました。虹を帯びた白い光が、私の顔を覗き込んだのです。
「俺は竜族でありながら、竜族の行いを悪いと決めつける。世界で一番傲慢な竜族だ」
 そう言うと、青い光が灯ったのです。
 敗北者となりし竜族は、自らの手で汚染した大地で生きねばならない。数多の生命を奪いし罪と大地を汚し子孫に悪しき遺産を残した罪は、実行せし者達の寿命で贖えるものではない。永劫と呼べる長き時を、罪を償うために竜族は生きていかねばならない。
 もはや痛みを通り越し朦朧とした意識の中で、ダズニフは青い炎を灯し続けました。
 たどり着いた金属の一枚板は、今までの扇型のものとは全く異なっていました。白い角を支えるシンプルな燭台を正面に据え、一枚だけ立っています。
 『宣誓の炎は不変なる白き炎』そう刻まれた言葉の前の燭台にダズニフは恭しく屈み、そっと息を吹き掛けて真っ白い光を灯しました。白い光に照らされた板に、新しい言葉が浮かび上がる。
 『新たなる裁定者よ。ワギの裁きは正しかったのか、判定を下すのだ』
「ワギ…。やはり、闇の領界に関わっていたか」
 ナドラガ様の弟神、ドワーフの種族神であるワギ。ガノさんより『楽園』を維持するカラクリや現在修理中の『月』が、神の御技で造られたであろうと言われていました。女神ルティアナの兄弟の中で最も技工に優れた、ワギ神が関わっているのではないかと推測されていたのです。それが正解であっても、ガノさんの表情は暗い。
 この冥闇の聖塔、闇の領界の頭上にある『楽園』、毒を浄化する『月』。全てはナドラガンドが神代の時代の戦いで穢され、アストルティアより切り離された間に、ワギ神がお造りになっただろう。そう、しゃがれた声が言い、私達に視線を向けた。
「竜族は神代の時代の戦で全滅してはおらなんだ。この塔に残された言葉から、ワギは生き残った竜族を敢えて過酷な環境に置き去りにしたと読み解く事ができよう」
 女神ルティアナの兄弟神は、皆が神と称される偉大な力を有していると聞きます。ワギ神がこれらの遺物を製作しておきながら、生き残った竜族を救う事ができなかったとは考えられない。
 なぜ。
 疑問が不吉な薄寒さを伴って湧き上がる。
 なぜ、ドワーフの種族神は、生き残った竜族を救わなかったのか。
 これは、推測でしかないが…。ガノさんの絞り出すような声が、不吉の詰まった箱の蓋をこじ開ける音のように響く。その中にある不吉の正体を察している。明らかにしないで欲しいと願いは届かず、異種族の老人は不吉を世界に解き放ってしまう。
「竜族が奪った罪なき生命。それらがドワーフであったなら、種族神ワギが報復として竜族を救わなかった理由になりうる」
 長兄の子供らが、弟の子供らを殺める。ぐらりと世界が傾ぐ気がしたのです。
「それだけではない。伝説では女神は子供らに協調を説いておる。ワギ神とナドラガ神との間で争いが起きたとして、他の兄弟神が仲裁に必ず乗り出すであろう」
『おや、エステラ。まだ本は早いのではないかね』
 優しいオルストフ様の声が聞こえると、にっこりと笑ったお顔が私を覗き込みました。
 エジャルナは古より竜の神ナドラガの信仰の中心地でした。炎の領界では貴重な書が数多く残されている。早く恩義あるオルストフ様の、そして竜族の力になろうと、文字も十分に読めないうちに本を手に取っていました。そんなことないです。幼い私は頬を膨らませました。
 どれ。オルストフ様は腰を下ろし、私を招きます。オルストフ様の膝の上にすっぽりと収まると、私の膝の上に広げられた本を柔らかい声で読み上げてくださったのです。
『創世の女神ルティアナ様には、7人の子供がおり、7柱の種族神としてアストルティアを支えていました。女神ルティアナ様は長兄であるナドラガ様に、弟妹達の繁栄と共存を見守るように言いました』
 どういう意味ですか?
 私はオルストフ様に尋ねました。はんえい。きょうぞん。あの頃の私には難しい言葉だったのです。
『お兄ちゃんなのだから、弟や妹達の面倒を見てあげてください。そう、女神様が言ったのだよ』
 なるほど。お姉ちゃんだった私は、小さい弟の面倒を見るのが役目でした。危ない所に行かないよう気をつけて、美味しいものがもっと食べたいと言ったら嫌だけど私の分も少し分けてあげる。他所の子と喧嘩をしたら止めに行って、泣いたら慰めて、仲直りがしたいから一緒に来てと言われたら付いて行く。お姉ちゃんは大変でした。でも、弟がお姉ちゃんお姉ちゃんと後ろをついてきて、笑ってくれるのが愛おしいかったのです。大変な事もいっぱいだけど、大事な大事な弟でした。
 私はナドラガ様にとても親近感を抱いたのです。
『弟妹神の喧嘩を仲裁し、悩みに耳を傾け、間違いを正す。優しく、時に厳しく。ナドラガ様は立派に長兄の役目を果たしておられた』
 オルストフ様の大きな手が、私の頭を撫でてくれました。暖かくて、大きくて、私は大好きでした。
『ナドラガ様がお目覚めになるまで、ナドラガ様のお勤めは我ら竜族が担うのだよ』
 私達竜族は、アストルティアの弟妹神の種族の、お兄さん、お姉さんなんだ。
 なんて大役なんだろう。幼い私は胸の高鳴りで、息を詰まらせました。
「アストルティアには六つの種族。切り離されたのはナドラガンド。それが意味するものは…」
 しかし、現実を告げる声が氷の領界の吹雪のように、暖かい記憶を凍りつかせて行く。
「神代の時代の争いは、竜の神ナドラガと弟妹神との戦いであった…か」
 ダズニフが呟き、顔を上げた。
「本当にそうだったとしたら、酷ぇ兄弟喧嘩だな」
 今までの二つの選択肢は、闇の領界に竜族を留めさせた者の葛藤だったのでしょう。命を殺めた。毒を撒いた。大地を汚し、子々孫々を苦しめる禍根を残した。どんな理由があれ、そうした竜族が最も悪しき者であるのは明白だったのです。
 元凶の竜族に対して行う罰として、罪として、それらは正しかった。
 それでも、正しかったのかと今でも自問自答している。
 ダズニフは白い炎に向き合いながら、ぽつりと零したのです。
「正しかったよ。死ぬ程に苦しみ、実際に死んでしまった命がたくさんある。それは竜族だけじゃなく、敵対した者達にこそ数多くいた。苦しみと悲しみ怒り、死ぬ絶望。報いる為にも、竜族を罰した判断は正しかった」
 きっぱりと断言して、ダズニフは両膝を折る。
「だからこそ」
 床についた膝の上に手を置き深々と頭を下げたダズニフの姿に、思わず息を呑む。
「許して欲しい」
 竜族は簡単に己の非を認めない。立場や言い訳で飾り立てた、遠回しの謝罪とは言い難い何かを言うことで精々な者ばかり。境遇的な弱者として虐げられた者は簡単に非を認めてしまうものですが、竜族の性質か認める事は簡単ではないのです。
「苦しめられた者は全員死んだ。罪を犯した奴らは皆 死んだ。今生きている連中は、何者でもない」
 地面に膝をつけ、誰よりも頭を低く下げる。身分が高い男が、竜族を悪だと決めつける傲慢さを見せつけておきながら、背筋を伸ばし腰を折り堂々と頭を下げて許しを乞うている。
「闇の領界の汚れは残ってる。苦しみから解き放たれる日は、想像出来ないほど先のことだ。それでも俺は竜族の行いを悪だと思って尚、許しを乞う。何を求められても、許される為なら応じてみせる」
 驚きに食い入るように見ていた視界の中に、大剣を持った鎧が浮かび上がる。聖塔にて円盤の守護者を担う存在と同じ形の魔物が、すっと大剣を振り上げる。白い光が刃の上を駆け抜け、強風となってダズニフの首に打ち込まれる!
「ダズニフ!」
 解放者が殺されてしまう! 叫んだ声は鋼が撃ち合うような音に掻き消されてしまったのです。
 水晶のように斗出した鱗が首筋から飛び出し、刃を受け止める。ダズニフがぞろりと牙を見せて、邪悪な笑みを浮かべてみせた。
「だが、黙って殺されてやらねぇがな!」
 ダズニフの頭上をハンマーが横薙ぎに振るわれる。ダズニフの首を切り落とさんとした腕を捉えると、勢いよく振り抜いたのです。腕は跳ね飛ばされ、鎧を軸に回転して金属の板に勢いよく当たる!
 轟音を立てて、金属の板がひしゃげてしまいました!
「最高じゃな! 知識が詰まった脳よりも、守る頭蓋骨こそが大事じゃ! ワギも気に入る答えであろうよ!」
 高笑いが響くと、男達は円盤の守護者に襲い掛かる。先程までの神妙な雰囲気を薙ぎ払い、男達は競うように円盤の守護者を叩く。『円盤を出せ!』と強盗のような発言まで聞こえてきます。
「おい! エステラ、援護しろ!」
 言われなくても、わかっています! 両手杖を構え、私は高らかに呪文を唱える。
 なぜか胸の痞えが取れて、息が出来た気がしたのです。