伏魔殿

 お前は、何も見ていない。
 焦点の合ってない微睡む目に、重たげな瞼が覆いかぶさった。今にも眠りに溺れてしまいそうな頭は、危ういバランスで首の上に据わっている。俺はそっと離れて物陰に身を潜めると、眠たげな竜族の男は目を擦った。頭を振って眠気と格闘していて、さっき発見した侵入者のことなど忘れているだろう。
 先に物陰に隠れていたルアムが俺を見上げた。地鳴りのような溶岩の音が地下道に反響しているから、囁かれた小声は耳を澄ましてようやく聞き取れる音量だ。
「グランドタイタスでは得体の知れない術でしたが、便利ですね」
 竜族の隠れ里には、弟妹神の民に隠れ里と竜族の存在を決して知られてはいけない掟があった。隠れ里から人里に降りる為には、里に伝わる忘却術の習得は必須。さらに忘却術でポッカリと開いた矛盾を埋める為に、操心術の習得も求められた。人里で関わった者達の記憶に残らぬよう、関わった者が疑問を抱かないようにする。
 類似する術が、エジャ聖堂の司祭の一族が口伝でのみ伝える秘術だと言うんだから笑ってしまう。
 潜入にこれほど打って付けの術だとは、俺自身も戸惑うくらいだ。
「同族の懐に潜入するので実感するだなんて、思ってもいなかったよ」
 俺は苦笑いを浮かべるしかない。
 ムストの町の地下に広がる疾風の騎士団の本部で、イサークが瀕死になっていると引き返し、その足でプクリポのルアムの要請を受けて翠嵐の聖塔へ飛ぶ。そうこうしている間にエジャルナは強固な結界に覆われ、テンレス救出の為に潜入すら出来ずに待機。ようやく結界が解かれた事で、延び延びに延期したナドラガ教団の地下への侵入が叶った。
 シンイの幼馴染にしてルアムの兄テンレス。彼が教団に囚われて随分と日数が経っているが、シンイは確信に満ちた顔で俺達に救出を頼んだ。ルアムもシンイの言葉を信じ、兄が生きていることを疑いもしない。
 それでもナドラガ教団の闇の濃厚さを目の当たりにすると、シンイの言葉でも気持ちが揺らぐ。
「ナドラガ教団の闇を誰も知らないのは、知る者が生きていないから…なんですね」
「どんな清廉潔白な王国でも、深い闇はあるものさ」
 それでも目の前の光景に匹敵する闇は、今のアストルティアを探しても見つからないだろう。
 闇の領界の地獄が生易しく感じられる、悪意に満ちた空間だ。
 生きとし生けるものを拒絶し、世界が生命を根絶せんとする闇の領界。空気に、水に、大地に、闇の領界に染み込んだ毒は俺の体に入るや否や、血液を汚し、内臓を腐らせ、意識を混濁させ、躊躇せず殺害に至らしめようとする。しかし、その毒に悪意はない。ただ生き物が相容れぬ自然現象であっただけだ。
 ナドラガ教団の大神殿に広がる地下の闇は、猛烈な悪意を持って生命を奪う。
 澱んだ空気は血に吐瀉物に糞尿の臭いに腐敗臭まで混ざり、この世界の悪臭を捏ねくり回して発酵させている。俺は脳天を突き刺す激臭に胃の中の全てを吐き出したが、それでも吐き気が止まらない。
「同族にここまでするだなんて、正気とは思えない」
 俺は他種族にだって、こんなことをしたいと思ったことはない。
 闇から浮かび上がる独房には、竜族だった成れの果てが転がされている。全ての爪が剥がされ、目玉をくり抜かれ、鱗も剥ぎ取られて肉塊と成り果てたもの。生きながらに焼かれ炭化したもの。瀕死の体に虫が集り、声を上げる事すらできずひゅうひゅうと風の通る音を響かせるもの。拷問による鱗が裏返りそうな悲鳴。糞尿が腐った肉と混じり合い、最悪を醸し出す。この地獄にこびり着いた残虐の限りが詰め込まれ、亡者の苦悶が耳の奥に木霊する。そのあまりの醜悪さに俺は誇り高き竜族の成す事かと、激しい憎悪すら抱いた。
 それでも。俺は受け入れ難い現実を、苦い唾と共に飲み込んだ。
 ナドラガ教団の考えに共感する部分が、俺の中にあった。
 新しい命が生まれず、滅んでいく事が定められた故郷。俺はその運命を呪い、感情の矛先を弟妹神の民に向けた。俺達は天駆ける偉大なる竜族であるのに、どうして地を這い何もかもが劣る弟妹神の民から隠れなくてはならないのだと、憤りに身を焦がした。竜化の術を体得し、守るべき故郷から出る事を許された時、俺はレンダーシアの人の住処を壊してやろうと思ったものだ。
 だが、出来なかった。
 いざ、実行に及ぼうとした時、脳裏に不吉な未来が過ぎった。
 竜族の隠れ里が壊されていく様が鮮明に浮かんだ。何も悪くないじいちゃんが、優しいおばさんが、穏やかなおじさんが、元気な兄や姉と慕った近所の歳上達が、武器を持って復讐に駆られる人間に斬り殺される。訳のわからぬまま、驚いた顔の死体から流れた血が故郷の地に染み込んでいく。神聖な程に罪から遠く清らかな場所が、俺の罪で残虐な限りを尽くして壊されるのが妄想とは思えない恐怖を生んだ。
 今思えば、それは隠れ里に暮らす竜族に刻まれた恐怖だ。
 種族神に従いアストルティアへ攻め入った多くの竜族達。しかし戦いはナドラガの敗北で幕を閉じ、ナドラガンドへの帰る事も出来ず取り残された者達が竜族の隠れ里を興した。
 その経緯は時の流れに失われ、隠れ里には残されていない。だが、ナドラガンドを実際に巡り竜族の犯した罪を知った俺が導き出した結論は、真実に限りなく近いものだと確信していた。
 敗者がどうなったのか、想像は容易い。
 取り残された竜族は、弟妹神の民によって徹底的に狩られたんだろう。
 広大なアストルティアに取り残された竜族が、どの程度居たかは分からない。戦える者達が集まり戦い続けたかもしれない。しかし結果は撤退する事もナドラガンドの援助も得られない、背水の陣とも玉砕とも言える負け戦。竜族は完敗したんだ。
 しかも弟妹神の民は、自分達を滅ぼそうとした竜族を血眼になって探したに違いない。単体でも甚大な被害を生み出す竜族が恐ろしかったんだ。地の果て、海の向こう、森の奥。竜の影があれば虱潰しに探しただろう。
 隠れ里を興した先祖達が『竜族はもうアストルティアに存在しない』と弟妹神の民が思うまで、顰めた息遣いを感じるようだった。当時徹底しただろう里の外に出る時は変化の術で姿を変え、関わった者に忘却の術を施すという厳重な隠蔽は掟となって今も残っている。弟妹神の民も竜族も原因を忘れてしまう年月が流れても、隠れ続ける事を選んだ先祖達の恐怖は刻まれているんだ。若くて愚かな俺にも…。
 それでも、教団が掲げただろう偉大なる竜族の復権に心が騒めいた。
 大空を舞い、弟妹神の民も魔物ですら簡単に実現しない力強さを持ち、多種多様な吐息が全てを薙ぎ払う。斗出した万能感に、竜化の術を得たばかりの子供だった俺は酔いしれた。
 竜族とは特別なのだ! 竜族とは弟妹神の民よりも優れている!
 世界を知っても心の底に燻っている陶酔した記憶を、教団の理念が否応なしに刺激する。ナドラガ教団の言葉に喜んで飛びつき、心の赴くままに偉大なる竜族という存在を体現したいという誘惑が、甘い魅力的な果実のように鼻先に吊り下がっているんだ。
「どうかしたんですか? クロウズさん」
 思わず鼻で笑ってしまった俺を、ルアムが変な顔で見上げる。
 一晩の寝床を貸してくれた老夫妻が、『よく眠れたかい?』と柔らかく言った言葉。温かい食事を食べる俺を見て、遠くの都で暮らす孫と重ねる瞳。種族も違うのに、じいちゃんが恋しくなる。井戸端で楽しげに笑う大柄な婦人達の賑わいに、畑仕事に精を出す男達の背中に、故郷の誰かが重なる。隠れ里に暮らす竜族も、アストルティアに暮らす弟妹神の子供達も、何も変わらないのだと、俺はシンイとの旅で知る事ができた。
 ナドラガンドの竜族だって、隠れ里の竜族と変わらない。魔力に秀で、力が優れていようと、竜化の術を持たなければアストルティアの熟練の冒険者に劣る。竜化の術で強大な竜になろうと、熟練の冒険者が束になって戦いを挑んでくれば勝機は薄れる。現に各領界の問題に率先と対応するルアム達は頼もしかった。
 神様。世界をひっくり返す程に、強大な力を持っているんだろう。
 それでもその神に縋る事が、教団が掲げる最高の竜族のあり方だなんて馬鹿馬鹿しい。竜の神の威を借りた竜族が、教団の考えた最高の竜族ってか? 神様は験担ぎ程度で、自分達で解決しようって行動するアストルティアの民の方が逞しいくらいだ。
「ナドラガ教団は井戸の中の大王ガマか、いどまねきだなって思ってさ」
 なんですか、それ。緊張した表情を緩めて、ルアムは床に添わせた短剣に視線を戻した。
 びくりとルアムの肩が跳ね、大きく飛び退ろうと素早く腰を浮かせた瞬間だった。
 ルアムの真横の壁が突然崩れ、現れた竜の大きな手に掴まれて壁に叩きつけられる。驚く声を上げる間も無く、自らが壊した瓦礫を落としつつバトルレックス型の竜がルアムに乗り上がる。長身の人間ですら胸元に届かぬ中型の竜だとしても、その全体重を乗せられて人間の少年が無事な訳がない。悲鳴を上げて喚き散らして良いのに、バトルレックスの緑色の腹の下で脂汗をかいて歯を食いしばる。
「ネズミ宜しくチュウチュウ喧しく叫ぶかと思ったが、根性はあるようだな!」
 ルアムの頭を丸呑みしてしまいそうな大きな口を寄せ、竜はにたりと笑う。丸い頬の上につっと滴った涎だったが、ルアムの戦意に燃えた瞳は竜を睨みつけている。
 そんなルアムの様子に、竜がゲラゲラと喉を震わせて笑う。
「いいぞ! いいじゃないか! 俺はそんな反抗的で芯の強い奴が、絶望に折れてボロボロになっていく様を見るのが大好きなんだ!」
 応戦しようと身構えた俺の首筋に、冷たい刃物が当てられる感覚が走る。
「ドマノ。その子供はアンテロ様の仇の一人だ。早く殺せ」
 無表情な竜族の男の横顔に、思わず目を見開いた。先程、操心術で無力化したはずの男だった。淡々と俺の首筋に刃を押し付ける男に、竜は『ロマニは真面目だなぁ』と笑う。ぐいっと顎を掴みルアムの顔を見せるように上げる。
「ナドラガ様の元で牙を研いでおられるアンテロ様に、こいつの悲鳴を聞かせてやりてぇじゃん」
「アンテロ様に代わり、僭越ながら我々がナダイア様の手足とならねばならん。悠長に時間をかける事は出来ない」
 だが、そうだな。そう顎を摩りながら囁いたロマニと呼ばれた男は、長い髪を揺らしてこちらを向いた。
「お前はアンテロ様の報告書にあった、アストルティアに取り残された竜族の末裔だそうだな」
 腹を割かれて、生きたまま氷の塊を詰め込まれた気分だ。ナドラガ教団に竜族の隠れ里の存在が知られてしまっているという事実は、生きたまま心臓を握られているのと同じこと。
 へぇ!そうなんだ! ドマノの粗野な相槌が耳を打つ。
「竜族の隠れ里の処遇は、まだ決めかねている。しかし、アストルティアに残っておきながら、ナドラガ様に仇なした弟妹神の民と戦いもせず、臆病にも逃げ隠れていたそうだな?」
 ぷつぷつと冷や汗が浮かぶ。
 ロマニの言葉を俺は否定出来なかった。このままナドラガ教団が竜の種族神ナドラガを復活させ、アストルティアの覇権を握った場合、隠れ里の竜族はどうなるのか。同族という事で他の弟妹神の民よりか、マシな待遇を受けられるのか? それとも臆病に隠れる者を同族と扱わぬと切り捨てるのか?
 同族と扱わない。
 それが何を意味するか。俺はこのナドラガ教団の大神殿の地下で、嫌というほどに見てきたじゃないか。故郷の皆がこんな目に遭うだなんて、あってはならない。
 ロマニの手が俺の肩に優しく触れた。
「報告には老人が多く、アンテロ様の協力者として耐え得る若者は居なかったとあった」
 故郷の皆を具に観察するアンテロを想像するだけで、震えが止まらなかった。『まぁ、俺達ですらアンテロ様に付いて行くのがやっとだけどな!』ルアムを掴んだ手を緩める事なく、ドマノが豪快に笑う。
 甘ったるい声が耳に流し込まれた。
「なぁ、若いの。この目の前の子供はアンテロ様を害した、まさに竜族の怨敵だ。この子供をお前が殺したとなれば、勇敢なお前の故郷の心象も随分と良くなる。滅びゆく運命が目前に迫る小さな里だ。我々とて同じ竜族に手荒な真似はしたくない」
「クロウズさん! 信用しちゃダメだ!」
 ネズミは黙ってろ!そんな声が掻き消えるほどに、ドマノがルアムの頭を掴んで床に叩きつける。
 首筋を這う冷たい感触が消え、目の前に刃を持ったロマニの手が踊る。『さぁ、どうぞ』そう言わんばかりに俺に柄を向ける。
「下賤な人間の子供一人の命と、お前の故郷全員の命。比べるまでもなかろう?」
 俺は無言で柄に手を伸ばした。思ったよりもずっしりとした直刀の短剣で、ここの竜族の拷問で使い込まれて不気味な錆が浮いて刃こぼれが激しい。お世辞でも切れ味が良いとは言い難く、戦いでは全く使えそうにないと思う。
 ドマノがルアムの頭を掴んで引きずり上げる。指の隙間から薄らを目を開けたルアムが、苦しげに俺の名を呼んだ。その様子を態々前のめりになってドマノは覗き込んで、盛大に笑う。
「良い顔してんじゃん! 良かったなぁ! オトモダチに殺してもらえてよぉ!」
 俺はロマニの短剣を振り上げ、ぐっと腕に力を込めた。
 筋肉で盛り上がった腕が、さらに大きく膨らむ。白金の鱗が闇を照らし、巨大な竜の手の圧迫に耐えきれず短剣がひしゃげた。竜化する際の勢いを加えた一撃がドマノの頭を直撃し、衝撃に緩んだ手からルアムを引き剥がす。そのまま身を捻って竜化した竜の尾が、ロマニを薙ぎ払って壁にめり込ませる。
 ルアムを胸に抱き止めながら、ドマノが壊した壁に向かって頭を突っ込む。
 竜化を途中で止める余裕は、今はない。どんどん膨れ上がる体が壁にめり込んで生き埋めになってしまう前に、どこか広い場所に出なくてはならない。俺は大きく顎を開き、最大出力でブレスを放った。地下迷宮のような牢獄を、閃光が貫いて瓦礫を巻き上げながら破壊していく。
 放った先に灼熱の溶岩の照り返しが、灯火のように灯った。
 俺は灯火に向かって若干角度を変えてブレスを放ち、穴を広げる。鱗がこそげ落ちて溢れた大量の血が潤滑剤となって、俺を繋ぎ止めようとする岩から逃してくれる。壁に翼を引っ掛けて骨が折れ、角が欠けた衝撃が頭を殴るように響く。重い体を前へ引っ張ろうとする腕が悲鳴をあげる中、熱が鼻先を撫でる。俺は赤い光で満たされた空間に飛び出したが、重力に掴まれて落ちていく。
「クロウズさん!」
 胸に抱いたルアムが声を上げ、俺にありったけの力を込めて回復呪文を掛ける。淡い光が優しく俺の体を包み込んだ。
 骨が折れて千切れそうな翼が繋がり、鱗が弾け飛んで剥き出しになった肉から流れ出る血が止まる。痛みの代わりに襲い掛かる凄まじい疲労感から意識を奮い立たせ、俺は翼を羽ばたかせ体勢を整えた。
 そこは広大な溶岩の地底湖だった。あちこちの壁から溶岩が滝のように地底湖に流れ、ちょっとした広場くらいの島まである。あまりの熱気に溶岩から炎が蛇のように立ち上がり、身を捩って溶岩へ潜る。旋風が溶岩の上を舐める炎を絡め取って赤く燃える強風となって吹き荒れ、巻き上がった火の粉が霧雨のように降り注ぐ。
「クロウズさん。助けてくれて、ありがとうございます」
 礼を律儀に言ってきて、こそばゆいな。
 ルアム。俺が声を掛けると、ルアムが下げた顔を上げた。
「俺は故郷を守りたい。その為だったら、なんだってしようと思った」
 俺より後に子供の生まれない故郷を存続させる方法は、伝説の地ナドラガンドから同族を連れてくるより他ない。だから俺は、大魔王の侵攻を後押しする形でナドラガンドへの道を作った。アストルティアが大魔王の手に渡ってしまっても、故郷さえ無事ならそれで良いと思いながら…。
 我ながらに最低だ。それに今のロマニのように故郷を人質に取られてしまえば、俺は教団の先兵になっていただろう。
「でも故郷の皆は未来より、俺のことばっかり心配してさ」
 隠れ里の掟は、外の世界を恐ろしく演出した。それでも、外の世界を語る故郷の皆の言葉は優しい。
 情報は十年くらいのズレがあるが、グランゼドーラ王国に王子様が生まれたとか、メルサンディの若い男が書いた本が面白いとか、ダーマにやってくる世界中の巡礼者は何日見ても見飽きないとか。弟妹神の子供達を慈しむ言葉に、ちくりと嫉妬心が疼くくらいだ。凶作で飢え苦しむ様を自分の事のように嘆き、道中の旅人が魔物の被害に遭わないよう祈る。
 弟妹神の子供達の安寧を心から祝福する、空の守護者の子供達。故郷の竜族を、俺は心から誇らしく思う。
 俺は故郷の皆に誇れる竜族になれるだろうか?
 どうすれば、そうなれるかは分からない。でも、じいちゃんが喜んで満面の笑みになるような、おばさんが嬉しくて誰彼構わず自慢したくなるような、おじさんが酒を片手に酔いながら上機嫌に語ってきかすような、そんな竜族になりたい。存在が在るだけで安心できる、そんな竜族。
 それが俺の考える、最高の竜族だ。
「俺は故郷の皆が誇れる存在でありたい」
 ルアムが朗らかに笑った。
「クロウズさんは、これからもずっとオルゲンさんの自慢のお孫さんですよ」
 そうだな。俺は小さく頷く。
 手の中に収まった小さな命の温もりを、俺は誇らしく感じていた。