約束

 いずれ世界で最も深い闇の底になるだろう。
 そうなる前に目を覚まし、共に出て行こうじゃねぇか。あんたが守るべき存在は俺様が全て叩き出してやろう。
 あんたが望んだ守るべき民を守る手段が、あんたの名を継いだ俺様にとってこういう形だからだ。
 名を継ぐ時に、名前も変えた。それは決意だ。
 最後にこの地を去る者に俺様がなろう。
 勝手に俺様が決めた事だ。それでも、あんたの為だと思ってる。

 ■ □ ■ □

 新緑の美しい季節には取り分け空気が緑に洗われ、光が微かにエメラルドのような色彩を帯びるといわれている。
 豊かな緑が命を育み、この大地は際立って生命力に溢れている。その為か、サマルトリアに生を受ける者は回復呪文を得手とし、ミトラ教の総本山リムルダールの神官の職に就く者もサマルトリア出身が多いそうだ。
 その理由の一旦なのか、時期的な問題なのか、俺様は大変珍しい物を見る機会を得る事となる。
「復活の玉?」
 俺様が目に掛かる金髪にすら受け取られてしまうほど色素の薄い茶色い髪を払いながら、隣で足をぶらぶらさせるマリア王女を見る。開け放たれた窓に腰を掛けるその姿は王女という立場としては決して行儀の良いものではないが、何か大きな行事があるから皆が大聖堂に集まっているとかで全く人気のない城内で咎める者など誰もいない。
 マリア王女は眩しいほどに鮮やかな金髪に、日の光を受けた新緑のような碧の瞳を瞬かせる。尖った唇はふっくらと優しい赤を宿し、不機嫌そうに膨らんだ頬はつややかに光を反射した。王族が着るべきドレスにしては控えめで、僧侶が着るようなローブのような機能的で清楚な印象の服が子供っぽさを引き立ててしまっている。
「父様が言うにはね、それで一昨日だったっけ…あの傷跡を癒せるって言うんだ。リュゼル様、本当にそう思う?」
「あぁ?あの傷跡って…大陸真っ二つになっちゃった被害のことか?」
 俺様がそう訊くと、マリア王女はさらに唇を突き出して唸るように頷いた。その反応に、俺様もマリア王女並みに唸らざる得ない。
 事は一昨日に起きた。
 凄まじい光が、ローレシアとサマルトリアを分断したのだ。一つの大陸にあった二つの王国は、もう二度と徒歩で行くことはできない。
 前触れもない太陽がほんの少し傾いた時刻、風も穏やかで木々の囁きも甘く、生きるためにがむしゃらに働く蜂でさえ花の上で日差しの祝福と密の恩恵に羽を動かす事のない幸せを噛み締めていただろう。そう、全く予想などできるはずのない、ありふれた日常の一コマ、後々考えればあれもこれも予兆だったなどと抉じ付ければ毎日が予兆だらけだろう。そんな日だった。
 俺様は未だうっすらと黒煙燻る大森林の地平の果てを見遣った。
 四方に広がる森林を歩き続ければ当然、いつかは森を抜ける。南に抜ける者は多く森の中に人々の足跡が刻んだ街道が、リリザへ向かう街道として栄え、東へ貫く街道は遥かローレシアへ続いていた。一昨日までは。
 森林の果ては見事なまでに切り裂かれて流れ込んだ海があり、崖が延々とサマルトリアとローレシアの沿岸を決して交わることなく続いている。対岸となってしまった大地が見えるが、橋を渡すには離れ過ぎてしまった岸に人影は見えずにいる。
「兄様だったら即座に不満言うよ。『んな事出来る訳ねぇだろバーカ』とかあたしにぐちぐち言うよ」
 口では決して不満は言わないが、表情と気配を駆使して不満を露にする彼女を見て、ラダトームで見た彼女の腹違いの兄と確かに兄妹であると認識する。しかもサマルトリアの国民でもない、ラダトームから外交に来ただけの俺様に言ってくるのだからまだまだ子供である。
 しかし、この堅苦しいサマルトリアに何日も居れば、彼女が俺様に打ち解けて愚痴の一つも零したくなるのは分かる。
 謁見するのに沐浴までさせられるなんてカチコチのしきたりなんぞ、とうの昔にムーンブルクですら廃止されちまったくれぇでどこの国だってしちゃいねぇぞ。
「まぁ、復活の玉なんてご大層な名前が付いてるんじゃ、神頼みじゃないけど頼りたくなるのも分からんでもないぞ」
 俺様はへらりと軽く言い放ったが、国王の心境は痛いほど分かっていた。
 こんな事に対応できる者など、世界中どこを探しても存在しないだろう。
 あんな大陸を真っ二つに切り裂いてしまう訳分からん力は、きっとムーンブルクが崩壊した力とほぼ同じである。もはやムーンブルクだけの問題ではない。等しく世界に稲妻のように落ちて壊してしまう出鱈目な力は、果たして誰かが操っている力なのか世界の崩壊の兆しなのか…。前者だったら暴力ともいえる力を操っている主謀者を打ちのめして一件落着と言えるかもしれんが、世界の崩壊だったらそんな問題ではすまされない。
 逃げ場がない。
 それは俺様の目的を成し遂げる上で重要な問題だ。
 アレフガルドの住民をどこに逃がせば良い?という悩みは、世界が安全という前提がなくては確立しないからだ。
「で、その復活の玉ってどんなもんなのさ?」
「この王国の国宝だよ」
 マリア王女は唇に指を当てて天井を仰ぎ見た。
 そこには豪華な彫刻が天井から柱まで続く、伝統と格調の高いサマルトリアに嫌みなほどに相応しい空間があった。
「その玉は物体が所有している記憶を蘇らせ具現化させるんだって。割れて元に戻らなくなった硝子の皿を、崩壊した建物を、失われた世界を、そして命さえ復活させる、使う者の意志によって善にも悪にもなる。だから世界の果てまで死守しなくてはならない、悪用されてはならない物なんだって」
 王族だけあって基礎知識なのか、説明に全く淀みがない。
「ムーンブルクの王様とローレシアのアレフ王が、その為だけにこの国を先住民と共に作ったそうなんだ」
 ほぉ…。
 それって、結構なお宝じゃないか?
 ローレシアのアレフ国王の時代のムーンブルク国王は、賢王と名高い外交王リウレム・ブルクレット・ムーンブルクだからな。当時の世界を支えた二つの大きな王国の国王が手を組んで成し遂げた大事業の理由が、チンケなものじゃないのは確かなはずだ。
「それってどこにあるんだい?」
「私も聞きたいわ。マリア姫様」
 俺様達しか居ないと思っていた空間に第三者の声が響き渡った。
 声の方向を見れば美女としか形容できない人物が一人。黒髪で色の黒い肌、サマルトリアの新緑にも負けない鮮やかすぎる緑の瞳。そのしなやかな肢体を包むのは露出の高い純白と黒に深紅のアクセントが利いたドレスだ。隣にいたマリア王女が惚けたように見る眼差しは、純粋な美しさに見とれるものだった。
 それでも俺の鼻は誤魔化せない。
「誰だいあんた?」
 モート。
 そう彼女の唇が動く。
「死臭臭ぇ息吐き出してんじゃねぇぞ。てめぇの偽名なんぞに興味はねぇんだよ」
 俺が睨み付けると、モートと名乗った女がくすりと笑った。髪を掻き揚げて艶やかに落ちる黒髪の横で妖艶で毒の含んだ頬笑みが、危険な魅力を呼び覚ます。体からにじみ出る臭いさえなければ、俺だって声掛けざる得ねぇくれぇ美人さ。俺様は圧倒されて唇を噛んだ。
「竜の血を引いてるだけあって分かっちゃうようね…。もう少し付き合って騙されたフリの一つや二つ出来ないの?ほぉら御覧なさい。あなたが背後に庇っている王女様が脅えているわよ」
 ふらりと振った細い腕に身構えると、俺様はちらりとマリア王女を見下ろした。
 懸命に逃げようとせず俺の背後に引っ付くように控えている彼女は賢いと思う。このまま恐怖に駆られて逃げ出してしまえば、サマルトリアは恐怖に揉まれて、その隙にこの女に滅ぼされてしまうかもしれない。
 それに、俺様がここに立ってこの女と向かい合っていられるのもこの子がいるからだ。
 俺様は彼女の体温に励まされて、モートと名乗る女を見据えた。
「一昨日の事、お前の仕業だったのか」
 含んだように微笑んだモートはあっけらかんと答えた。
「あれが、この世界に帰属する器が放てる力だと思っていらっしゃるの?」
 俺様も知っている。この世界に器を置く存在が放てる力に限界がある事、そしてあの力は確かにこの世界の器が放つ力を軽々と超えていた。
 いや。
 俺様は首を横に振って、彼女の答えに賛同した。
「この世界でその存在を知っている者は少ないわ。そう、この世界に生きている者でその存在を知る術は、もう一冊の予言書しか残っていない」
 俺様は体中の筋肉が緊張するのを感じた。
 初代竜王もまた、いずれアレフガルドが闇に閉ざされる事を予言した。その予言は混乱を避けるために竜王の名を継ぐ者が後継者に口伝でのみ伝えていて、知っているものは竜王の名を継ぐ者だけだった。それと同じようによほど大事を記したことなのだろう。
 この姿も分からない大陸を真っ二つに切り裂く力を持った存在に、対応できる者など存在しない。存在を知らないから対応しようにもできないのだ。
 その一冊を持つ者は誰だ?
 いや、こいつは何が目的だ?
 俺様が見上げた視線の中に含まれた問いに気が付いたのか、モートは笑った。底冷えする笑みに、体の体温を奪い尽くそうとする残虐さを含んだ赤が青白い白を含む。
「予言書を手にしている者は遥か遠い。それとも私に懇願するの?」
 このリュゼル様が、んな事するわきゃねぇだろ。
 俺様が無言で首を横に振ったのを、モートは微笑ましげに目を細めた。
「懸命な判断ね」
 そう言って黒いドレスをマントのように翻し高く響くヒールの足音を残して、日の光と影にくっきりと分け隔てられた暗がりに解けてしまった。俺様がそれを認識して、意識でモートを探っても見いだせないと分かると盛大に溜め息をついて壁に背を預けた。
 そんな俺様を見て、今まで黙って耐えていたマリアちゃんも安心したように吐息を吐く。
「あんな客人、居たかい?」
「知らない」
 ふっくらと頬を膨らませると、すっかり調子を取り戻した彼女は俺様を見上げた。
「誰なの?」
「間違いなく悪魔だ。魔力も強いし、きっと地位も高い」
 そこで俺様は言葉を切ってマリアちゃんを見遣る。
 彼女も聞いていたはずだ。俺様がドラゴンの血を引いている…つまり純粋な人間ではない事を。
「俺様の事…恐くないのかい?」
 俺様は初代竜王に連なる血筋ではあるが、限りなく人間に近い。初代竜王の孫に当たる俺様の母親はドラゴンと人間のハーフであり父親は純粋な人間で、俺が受け継いでいるドラゴンの血は本当に微量である。それでも流石は最強のドラゴンと称された初代竜王であり、その微量さであっても生粋のドラゴンに勝る力を俺様に与えてくれる。
 実際、あの女を悪魔と見破った事もドラゴンの、初代竜王の血のお陰である。
 俺様が探るように問うた問いに、マリア王女はあっけらかんと答えた。
「兄様も良く言うけど、あたしは人間の方が恐いわ」
 左様で…。
 サトリ王子の主治医を担当したゼナンの婆が『サマルトリアは恐い所じゃえ』と言ったのを思い出す。人が人を信じられない場所とは、その人にとってなんと不幸な場所なんだろうなぁ。
 呆れた顔をどうにか修正すると、俺様は少し真顔で彼女に改めて訊いた。
「で、その復活の玉って何処にあるんだ?」
「今、大聖堂にみんな集まってるでしょ?父様が復活の玉の封印を解く儀式を行うからなのよ」
 …
「おぉい!!」
 兄貴は周りを振り回すマイペース、妹は空気の読めないマイペースかよ!!勘弁してくれ!!
 モートが復活の玉の場所を問うて来たんだから、目的が復活の玉の可能性が非常に高いって察しようぜ!!

 ■ □ ■ □

 宗教国家としても名高いサマルトリアの大聖堂は特殊な形を成している。
 まず中央にサマルトリアの大黒柱となる要の柱が建てられ、その柱を支える12匹の竜があらゆる方向に目を向け、正確な方向と数千年に渡る季節と暦を微妙な姿勢であったり表情であらわしている。その芸術的な柱を中心に網目状に祝福された銀の円盤を配置し、聖水を満たし、聖水の底には何千という貝殻の銀を利用した装飾で飾り付けられている。天井には見る者によって荒れ狂う炎であり、生い茂る木々であり、細波立つ水にも複雑な宝石の原石にも、さらには肥沃な大地にも見える複雑な彫刻が彫り込まれていた。
 そこに響き渡るは壮大な森林の何億の木の葉が風に擦れるのような荘厳な祝詞であった。

 この国に守りを
 剣なる国かローレシアならば、盾なる国をサマルトリアとして
 堅牢な大地に礎を立て、魔力の流れを守りに変えて、人々に永久の安らぎを授けたまえ
 先なる民と未来を分ち、新たな民に過去を授けよ
 必ずや、全てが汝の力となろう

 国王が純白のシルクのマントと、金と銀の装飾が歩く毎にじゃらりと鳴る法衣を纏い、静かに進み出て言い放った。
「祈れ」
 瞬間の静寂が全ての音を押しやった。
 押しやられたのが音ならば、集められたのはその場に居た者達が発する膨大な力。それが床に満たされた聖水に均一な波紋を広げ、差し込む木漏れ日に引火して光となって発される!光は床の銀盤に乱反射し、複雑な彫刻の影を見事なまでの複雑な魔法陣にしてみせた!
 洪水のように感じる魔力の奔流に、俺様の感覚は過剰なまでに反応して思わず目を瞑り翳した手の影で顔を背けてしまった。
 光が静まったと感じて目を開くと、竜の彫刻の横にさっきまでは居なかった誰かが立っていた。
 魔法使いが好む複雑な文様が刻まれたローブが、日の出か日の入りか分からぬ外交官が着こなすローブの色合いに縫い込まれ既視感を感じる。大小様々な銀色の円盤を数多く結わえた一本の布は、床まで滝のように落ちるマントを厳かに落ち着かせ、たっぷりとしたローブに通した袖を少しでも動かすと涼やかな音を立てた。
 振り返った顔は紫の髪と瞳の男。簡素なムーンストーンをあしらっただけの一本のサークレットが、額に真一文字に掛けられている。
 微笑む顔は、数カ月前に会った顔だったはずだ。
『…さん、どうぞ前へ』
 貴方は曾祖父殿に良く似ていらっしゃるよ。
 そう言った男の声が蘇る。
 魔法ばかり卓抜とした国のものには珍しい、武術を心得た体つきと身のこなしを備えた腕の立ちそうな外交官だった。紫の髪であったが王族の傍系が外交官を勤める事は珍しくもなかったから、リウレムという名もかつての名君から拝借した名だと思っていた。
 あの時、ルクレツィア女王とやって来た男は、リウレム・ブルクレット・ムーンブルク王だ。
 あの時はハッタリも含んで冗談半分で声を掛けたが、初代竜王の時代に世界を平安へ導いた大偉業者である。なんで、そんな人物がこの時代にいるんだ?
 驚きのあまりに、俺様が呼ばれたのか分からなかった。
 それでも俺様が呼ばれたのだと、前へ出る。
『モートが来ているそうですが、彼女に復活の玉を渡してはなりません。その為に私は出来る限りの対策を施しました…しかもこんなラルバタスの正装までして儀式に望むなんて本来の私なら考えられぬ事です』
 と話した所でリウレム王は慌てて復活の玉を見遣った。
 見下ろす顔が歪んで見えるが、深紅の瞳と色彩の薄い金にすら見える薄茶色の髪を持つ人の姿がそこにある。しかし、向かい合う男の姿は映ってはいない。
『そんな余計な事は話すなと貴方に怒られてしまっていましたね。貴方の曾祖父殿…つまり竜王さんに聞いた話では、純血でなくては光の玉は形になりませんが、血を引いてる者は光の玉を生み出す資質がある…と。という訳でこれの出番です』
 ぺちぺちと復活の玉を男が叩く。
『この地の力と、復活の玉の力で』
 声はそこで途絶えた。
 背中を這うような冷気が吹き付けるのを感じて振り返ると、そこには白く切り取られた光に溢れた外を背に、禍々しいほどに黒く塗りつぶされたモートの姿があった。
「マリア…!」
 さすが二児の父。俺様よりも早く気が付いて声を上げた。
 そのモートの手がマリア王女の首に掛けられていた。爪で喉笛を切り裂くつもりなのか、その細腕に隠れた暴力で首をへし折るのかは分からない。それでもモートはマリア王女を確実に死に至らしめる事ができるだろう。根拠はただひたすらに冷たい気配だけだったが、十分な威圧がそれを確信に変えていた。
「リュゼル様、その玉をお渡し下さいな」
「渡すなと、言われているのだがね」
 あら、とモートは穏やかに目を細めた。
「もし私が手に掛けたら、この子はただでは死ねないわ。魂は私の腹の中で永遠に苦しみ続け、その辛さ苦しさ憎しみが私の胃を満たし続けるのよ。こんな可愛い子の魂なら、本当は貴方との交渉に使うなんて用途がなければすぐさま喰ってしまいたい所なのにね」
 残念だわ…とモートはもう片手でマリア王女の頬をすすっとなぞり、そこから出た深紅の真珠を舌で舐め取った。
「さぁ、どうするの?」
 俺様は復活の玉を改めて見下ろした。
 リウレム王は言った。
 モートに復活の玉を渡してはいけない。その為の用意をした。
 俺様は復活の玉を両手でしっかりと持つと、モートに向き合った。
 呪文を掛けるように、意識を静かに集中する。魔力を集めるよう配置された空間がその中央に立つ俺様に魔力をかき集めてくるから、俺様は今までに感じた事のない大量の魔力に体が燃えるように熱くなってくる。
「リュゼル様。折角だもの、私達と共に世界を滅ぼさない?」
 集中を掻き乱そうとしているのか、モートは優しく甘く囁くように提案してきた。
「貴方の曾祖父様を繋ぐ鎖である世界の秩序、いずれ貴方にも降り掛かってくるかもしれない理不尽な龍神の末裔が全うすべき人柱としての責務、そんな何もかもを滅ぼして自由になってはみない?」
「てめぇから見て虫螻だろうけど、俺様にだって意地ってもんがあるんだよ」
 曾祖父は偉大な竜だ。俺様はそんな竜に憧れている、そんな偉大な竜の末裔だ。悪魔の誘いも、邪悪への招きも、一切合切否定してみせる。威厳ある力は俺様の堅い決意からやってくる。俺様はまず、意志から曾祖父に近付こうと考えていたのだから…!
 リウレム王は言った。
 血を引いてる者は光の玉を生み出す資質がある。それは曾爺さんの血を引いているというだけじゃない何かになって、俺様に自信を与えてくれる。
 もしかしたら、この復活の玉を使って光の玉を生み出してみろと言いたかったのかもしれねぇ。余計な事ベラベラ喋っちゃいたが、冷静に考えればそう結論できなくもない。
 どうすりゃいいかなんて解りゃしねぇが、このモートの舐め切った声は聞いてるだけで腹が立つぜ!
 俺様は思うがままに声を張り上げた!
「確かに俺様は出来損ないだった。あの初代竜王の血を引いていながら人間の血が濃くて、どんなに知識があったって実力があったって魔物にゃあ迎えてもらっちゃくれねぇ。それでも俺様はしつこくてよ、どんなに周りに嫌われようが反対されようが曾爺さんの名前を受け継ごうとしたのさ」
 俺様はにやりと笑ってモートをにらみ付けた。
「そして俺様は名を継いだ!俺様は人と竜の血を持った半端もんだが、人と魔物の上に立ってみせる!それが、俺様にとって曾爺さんが恥ずかしくねぇ竜王になるって事なんだよ!!」
 俺様は言葉にありったけの想いをつめて叫んだ!
 直視できない程の眩しさなのに、目を痛める事は無い不思議な光を復活の玉から燦然と放たれる。
 …そうだ。
 光の玉とは、命そのもの。
 モートの悲鳴を遠くに聞きながら、優しく力強い声をした誰かが俺様にそう言った。

「あ、リュゼル様。瞳の色が変わってるよ」
 マリア王女の空気の読めないマイペースっぷりに、俺様は改めてがっくりと肩を落とした。
 お嬢さんよぉ、俺様が竜の王、竜王の血を引いてる上に、その名を継いで魔物の頂点に君臨してるって分かってるのかなぁ?
「綺麗な、金色だよ」
「へ?」
「でね、あたしもリュゼルさんの言葉聞いて思ったの。あたし、サトリ兄さんの事大好きだから、頑張って皆にサトリ兄さんの事分かってもらうんだ!この王国の王位継承者としてじゃなくて、ありのままに認めてもらう。どんなに嫌われたって、負けないよ。あたしも…」
 一方的なまでに意見を言ってくるマリア王女は、しっかり話は聞いてるみてぇだ。
 聞く限り、その努力がきっと君の兄と君の帰る場所をさらに居心地の良い場所としてくれるはずだろうと思う。
 耳には優しく、これから頑張る事を約束する決意が延々と届いている。俺様は改めて人間も魔物も守るつもりでいるんだって事を思わされた暖かさに、密かに笑った。
 とことんマイペースだなぁ、君は。