サマオンサの勇者

 高い山々を従え深い森と豊潤な清流の恵みに祝福されたサマオンサは、平和な国ではなかったそうです。深い森は魔物の住処であり、川は広大で海のように人々に厳しい。この地域の支配者であるボストロールと人間の永きに渡る戦いは、この国の歴史そのものと言えましょう。その魔物との戦いに一つの終止符を打ったのが、勇者サイモンです。
 そんな勇者サイモンの結婚の知らせは、世界中に瞬く間に知れ渡りました。
 僕等はカンダタさんに宛てられた紹介状で、サマオンサにやって来たのです。
 世界各国から様々な人がサマオンサへ招かれています。ロマリア王はロトちゃんを見つけて、投げキッスとウインクをしています。イシスの女王様が大きく膨らんだお腹を擦って、黒猫の李鳳さんと寄り添っている。見覚えのあるダーマの神官の服。商人の町から届く荷物。僕は旅をして来た色々な地域の人達を見て、とっても懐かしい気持ちになります。
 そんな僕の真横を大きな黒い影が駆け抜けた!
「カンダター! あいたかったー!」
 カンダタさんの悲鳴と倒れる音。振り返れば僕とロトちゃんの前で、カンダタさんは長身の男性に押し倒されていました。榛色の髪はサラサラと梳き解され、大鳥の翼を連ねた風のマントの下には貴族の服が見え隠れ。剣はガイアの剣って呼ばれる名剣です。そんな剣を振るう人は、世界広しと言えどただ一人。勇者サイモンさんだけです。
 その、勇者サイモンさん。猫のようにカンダタさんに戯れ付き、殴られ、首根っこ掴まれて釣り上げられるまで自然過ぎて呆れる暇も無い。カンダタさんは疲れ切った様子で僕等に向き直りました。
「紹介する。俺の昔の仲間のサイモンだ」
 にっこり笑顔が幼子の無垢さです。大人の長い手足をぱたぱた動かす。
「きみ おぼえてる! クリス と オルテガ の あかちゃん! おっきくなった!」
 カンダタさんの手から逃れたサイモンさんは、ロトちゃんを抱き上げて高い高いする!
「わわ! サイモンさん! やめてよー! 重たいよー!」
「おもくない! かわいい あかちゃん おおきくなった!」
 おぉ。僕でさえちょっと重たいと思うロトちゃんが、軽々と宙を舞っています。
 事前に調べた内容から推察した勇者像と、違い過ぎて正直戸惑っています。
 勇者サイモンが生を受けた頃、サマオンサは混迷を極めた最悪の時代であったそうです。ボストロールが変化の杖で王に成り代わり、サマオンサの民を片っ端から処刑した。腐敗は蔓延し、裏切り者の告知には報奨金が出て、潔白な身の者も少しの疑いで牢屋に入れられ二度と帰って来ないのは当たり前。サマオンサを脱出する途中で家族が魔物に殺されたかは定かではないが、一人の子供がサマオンサの森で獣達に育てられました。サマオンサで魔物達と共に悪事を働いていた子供を保護し、サイモンと名付けたのは勇者オルテガとその仲間達だったのです。その後オルテガの仲間になったサイモンはボストロールを倒し、サマオンサの勇者として讃えられる。
 正直、そんな事前情報から推測出来る勇者サイモンに、真っ当な人であるという印象はありませんでした。僕は人の世から外れた存在に、人は何処までも冷酷になれるという事を知っている。
「あ! クリスだ! クリスー!」
 サイモンさんはロトちゃんを下ろすと、風のような速度でロトちゃんのお母様に抱きつきに行きました。彼女はにっこり笑顔でサイモンさんを抱きしめる。ロトちゃんが駆け寄って、『母さん、締め過ぎ!』と叫んでいます。うん、サイモンさん口から泡出てますね。
 ロトちゃんのお母様のお元気な姿を見ていると、彼女を仲間にする際の試練のキツさが蘇ります。嫁入り前の娘とはいえ、そんなに信用ならないなら僕と二人旅なんてさせなきゃ良いのに…。
「あれで、色々苦労してるんだぜ」
 カンダタさんがポンと肩に手を置いて囁いた。
「元々、獣の世界で育ったから人間の常識がないし、人間はサイモンを人間として長年見なかった。あんな陽気に振る舞っちゃあいるが、ボストロールと戦ってる時が奴が一番心安らげる時間だったろうよ」
 そうだったんですか。僕は相槌を打つ。
 僕は竪琴を持つ手に視線を落とした。竪琴がなければ、魔物達との繋がりすらなかったら、そう考えるとゾッとする。あらゆる生命を奪う極寒の闇で孤独であったらなら、きっと僕は今、人の形をした人でない何かになっていたでしょう。
 そんな僕の内心も知らず、カンダタさんはニカッと笑ったのです。
「ま、そんな奴も嫁が出来たんだ。ちょっとホッとしてるぜ」
 心の底から喜ぶ素敵な笑顔だなぁと、思うのです。人が善き心である為には、魔物も人も関係ないその人を想う気持ちが必要なのでしょうね。サイモンさんは本当に仲間に恵まれたのでしょう。
 カンダタさんはふと何かを探すように視線を巡らせたのです。
「それにしても、ボストロールは何処に行ったんだ?」
「トロールと言う事は、魔物ですよね? 僕には魔物の匂いは感じませんけど」
 僕は故郷の環境もあって、魔物の気配に聡い。魔物の匂いから種族を特定し、残された足跡で立ち寄った時間を予測し、町にいる魔物は焚かれた香木のように目立つので変化していても見つけ出す事が出来ました。李鳳さんも魔物に近い気配の持ち主でしたね。ロトちゃんやカンダタさんは、魔物を回避する術と感心しておりました。僕の用途は逆ですけどね。
 第一、トロール族は子供でも大変大きい。探さなくても人々の波の間から、腰から上が見えてしまうでしょう。見回して見えないなら、居ないのです。
「あいつが居ないなんて、調子狂うなぁ」
「魔物が居ない事は良い事ではないのですか?」
 ボストロールは長年サマオンサに混乱を齎していた元凶です。僕の質問に、カンダタさんは傾げた首を起こした。
「俺達はボストロールを倒そうとして、できなかった。結果、残ったサイモンは暴れるボストロールと戦って退けて、戦ってとりあえず勝ってを繰り返して今に至ってるんだ。実際は宿敵というよりライバル。好敵手というより腐れ縁みたいな間柄だな」
「という事は、関係は良好なのですね?」
「サイモンには親友みたいなもんだろう。だから結婚式だって顔を見せると思ったんだが…」
 ふーむ、なるほど。
 僕が色々と考え巡らせていると、ちょこちょことサイモンさんが寄ってきました。彼はカンダタさんの影に隠れるようにやや腰を低くし、声を潜めて言ったのです。
「あのね ボストロール いなくなったの」
 サイモンさんの言葉は舌っ足らずの子供のようでしたが、その表情は心配に歪んでいます。
「サイモン ボストロール さがしに いきたい」

 探しに赴いたのは、サマオンサから南東に位置する湖に一つある島。この島はサマオンサの人々が移住する以前から、大きな神殿が建っていた跡が残っています。生い茂る熱帯樹林の中に、柱や石畳の形跡が見て取れ、荒々しい彫刻や人ではない巨大な何かの彫像が当時の名残を伝えています。
 じっとりと汗をかく程の熱気と、口の中に水溜まりが出来る湿度は参ります。
「昔、この神殿の奥に奉納されていたラーの鏡で、ボストロールの正体を見破ったんだ」
 そう言いながらカンダタさんが大剣を振るって、繁みを切り払い道を作って下さいます。その後に僕とサイモンさんが続きます。
 この朽ち果てた遺跡が、サイモンさんが目星をつけたボストロールの居るかもしれない場所です。ロトちゃんとお母様はそんな所に行きたくないと拒否され、カンダタさんとサイモンさんと僕で探しに来たのです。
「この地の神が奉られていた神殿だったのでしょうね」
「だろうな。だが、どんなカミサマかは知らんな」
 残された物をじっくり見ている訳ではないですが、両手の親指が欠損したミトラの信仰ではないようです。鳥や獣の鳴き声は賑やかで、深く茂った木々の葉を、湖から吹き込んだ風ががさがさと揺らしては過ぎるのです。
 遺跡の奥まった場所に地下に降りる階段がありました。
「ロトちゃんが居なくて良かったです」
「お前、本当に良くあの娘と旅ができるな」
 僕は苦笑しました。
 ロトちゃんは洞窟の中はカビ臭くてじめじめして魔物も凄く不潔そうだから、入りたくないと言うのです。仕方がないので荷物は呼びかけた魔物に頼んで持ってもらい、僕は眠っている彼女を背負って洞窟を通り抜けていました。アッサラームからバハラタに抜ける洞窟も、僕が背負いました。僕の旅に付いて来ている彼女の事で、カンダタさんに迷惑かけるのも忍びないので。
「僕は特に気になりませんけどね」
 本人は潔癖性と言いましたが、旅は町中の生活と違って不衛生である事は仕方ありません。アリアハンから北方大陸へ抜ける旅の扉を抜けるまで大変な鈍行でしたが、今ではベテラン冒険者並の足腰になりました。
 旅を始めたばかりの頃は頭を付き合わせ、改善点や妥協点を探る毎日です。でも、僕にとっては初めての同行者。それを苦痛に感じる事はありませんでしたし、一緒に考えただけでなく、ロトちゃんの努力もあって旅が出来ていると僕は感じているのです。
 一番の心配は、呪文を使った後の体調不良。強大な攻撃魔法をいとも容易く使う彼女ですが、その反動は酷く吐いて食べ物も受け付けず寝込んでしまうそうです。焚火の着火のメラですら、顔を真っ青にさせて寝込んでしまいました。でも魔法を唱えなければ良い話ですし、回復や補助呪文で体調不良になりませんでした。旅先ではちょっとした怪我を治してくれるだけでも、有り難い事です。僕も薬草臭さがだいぶ薄れました。
「まぁ、お前が居れば魔物と戦う必要は無いからな。中に魔物がいるから、頼んだぞ」
 ぽっかりと口を開けた闇の手前でカンダタさんが振り返って言った言葉に、僕はこくりと頷きました。竪琴を奏でると、穏やかな音色が弦から紡ぎ出され広がって行きます。眠る頬を薄らと濡らす露のように儚く、目覚めを促す明るくなった空のように淡い音色。音は直ぐさま空気に溶けてしまうものですが、紡ぎ列を成し細波になった旋律は波紋のように絶え間なく空間に押し寄せるのです。
 受け入れるかは、相手次第。
 最初は鳥や獣が顔を出し、虫が旋律に加わり始めました。やがて、魔物達の姿も目立つようになり、闇からひょっこりガメゴンさんが首を伸ばして僕を見ました。僕は闇から首をもたげてみるガメゴンさんにぺこりと頭を下げました。
「こんにちは。僕は吟遊詩人のガライと申します」
 ガメゴンさんもぺこり。
 僕達がボストロールさんを探しに来た事、その為に洞窟に少しだけお邪魔させて頂きたい旨を伝えると、ガメゴンさんは一つ雄叫びを洞窟に向けて闇の中に首を引っ込めてしまいました。再びにょきりと首が出て僕等を見るので、付いて来いという事なのでしょう。
 松明を灯し、巨大な甲羅を背負った竜の後に続きます。
 洞窟の中を進めば、ふわふわと駆けっこをするベホマスライム達を横に見て、キラーアーマーや骸骨剣士達の相撲や腕試しをシャドーやゾンビマスター達が囃し立てています。そんな日常を横目に見ながら、サイモンさんは感心しきりで言いました。
「ガライ すごい まものと なかよし」
 はは。僕は苦笑しました。
 魔物が人間を攻撃するのも、何の断りも無しに彼等の生活圏に踏み込むからだと思うのです。互いに信頼があれば、もしくは相手がこの人間は強いと怯えて手を出さなければ、攻撃はして来ないものなのです。人は、自分勝手だ。僕は故郷を巡っている頃から、そう思っています。
 やがて朽ちかけた桟橋が架かる地底湖に差し掛かりました。ガメゴンさんは清らかで冷たい水にするりと滑り込み身を浮かせると、乗れと言わんばかりに留まります。流石にカンダタさんは重過ぎて全員乗り切らず、応援で呼ばれたガメゴンさんの甲羅に彼は乗る事になりました。グラグラする乗り心地に地底湖に落とされないよう踏ん張っているうちに、地底湖の奥の祠にたどり着きました。
 祠は地底湖の岩盤を刳り貫いたもので、ご神体を納めるだろう台座には何もありません。
「ここに、ラーの鏡が納められていたんだ」
「返さなかったんですか?」
 噂のラーの鏡。僕とカンダタさんが朝使っている髭剃りの鏡だそうです。恩恵を受けているとはいえ、盗品を使っていたとは…。
「だって、俺様、盗賊だからな」
 悪びれもなくにっこり。あぁ、頭が痛い。
「ねぇ ボストロール いない」
「本当だ。案内されたここにいるって言うなら、何かすれば出て来るんだろう。呪文とか、儀式とか。だが残念なことに、サマオンサの歴史を俺は知らねぇんだよな。手っ取り早く取り掛かるなら、元々あったラーの鏡を試してみるか」
 あ、僕の荷物に入ってますっけ? いや、俺の荷物の中に転がってんじゃねぇの? 二人して荷物を開けてがさごそ。
「ボストロール!」
 サイモンさんの歓声に、僕もカンダタさんもハッと顔を上げました。
 松明に明々と照らされた石壁に、くっきりと巨大な影が映し出されていました。勿論カンダタさんの影ではありません。影の前でぴょんぴょんと跳ねるサイモンさんの榛色の髪が金色に輝き、ガイアの剣は喜びにはち切れん犬の尻尾のように左右に振られています。
『サイモン。お前は人に受け入れられた。俺は自分の事のように嬉しく思う』
 僕達は直ぐさま、その声の主が目の前の影であるボストロールだと分かりました。脳に直接響く低い声色に敵意はなく、言葉の内容通り友人を祝福する喜びに満ちていました。僕もカンダタさんもほぼ目的を達した事で、緊張を解きます。
「ボストロール どうして ここにいるの?」
『もう、出て来る必要がないからさ』
 トロール族より二回りは大きいボストロールの影は、そう言いまいた。
『この地は人を拒んだ。俺はその意思を具現化した存在だから、この地の意向を反映して人間を苦しめた。だが、サイモンと過ごした日々、人が過ごした年月は、この地に人を許容するに至らしめた』
 サイモンさんは目をぱしぱし瞬かせ、最終的に首を傾げました。
「ごめん よくわからない」
『ぶっちゃけると、この地に人間住んで良いよってこと』
 砕けた口調はサイモンさんの友人、ボストロールのものなのでしょう。穏やかな雰囲気ながら、重要な事を語っている彼に僕は訊ねました。
「今までは駄目だったのですか?」
 ボストロールがこちらを向いたのを感じました。その強い視線。故郷の闇のとても暗い所から僕を見る視線を思い出して、とても懐かしく思えました。冷酷で無慈悲でしたが、ふと、暖かさを感じるような大きく気紛れな存在です。
『闇の国からの旅人よ。お前なら分かるだろう。人が住み着く事で、その土地が如何に人の手で変質させられてしまうか。この地をこの地足らしめる生命と存在意義が脅かされるなら、俺はこの地を守る為に人を排除しなくてはならなかったという事を…』
 僕は顔面に冷水を浴びせ掛けられた気分だった。
 心のどこかで彼の行いが正しいと思っている。
 故郷の人間達が滅び行くさまを、僕は遠くから眺めて当然だと思っていた。人々は絶望し嘆き苦しんでいる姿も、どこか別の世界の御伽魔無しのように現実味が無い。そう、サマオンサの過去を聞いて『可哀想』と思っているのと変わらず、彼の言葉を聞いて人は排除されても仕方ないと感じている。その対象は人間だけじゃない、僕自身だってそうなんだ。
 それなのに何故、僕は人間達の足跡を探しているんだ?
 どうして…!
「にんげん くらす だめ おしえれば そうした」
 しまった。考え込んでいた。
 慌てて顔を上げた先で、ボストロールは愉快そうに笑っていました。
『そうだな、サイモン。お前にはそう伝えれば、お前は人々に伝えて出て行こうと頼んだろう。だが、人間達が素直にそうするか? 俺だって最初は人間達を傷つけず、怖がらせたり脅したり、丁寧に説明したさ。だが、出て行った奴の数なんかこれっぽっちよ』
 影が親指と人差し指を近づけて笑う。指の隙間は無く、見た目は輪が出来てます。
『だがら、マジになって滅ぼうそうとしたのさ。身体に人間共の血肉が染み込んで来るのは、本当に辛かった。だが、これっきり。ここで根絶してみせれば、二度と来やしねぇだろと思ったのさ』
「お前がサマオンサ王に成り代わった、人間にとっての暗黒の時代か」
 カンダタさんの言葉に、ボストロールの影は頷きました。
『まさか、コリドラスが乗り込んで来るのは誤算だったぜ。だが、その一件は俺に人間の様子を見るに値する、一つの材料が現れたんだ。お前さんだよ、サイモン』
 目をぱちくりするサイモンさんに、影は芝居掛かった身振り手振りで種明かしをするかのように自慢げに語り続ける。
『サイモンは人ではなく獣に寄った者だ。たかが3人の人間に受け入れられ時間を少し共にした程度じゃ、獣の常識は拭えん。そんなお前を多くの人間が受けれ居た事、それは人間が俺達にも多少の譲歩をするだろう存在に成長したと俺は認めたのだ』
 だが、安心してはいけない。
 影は秘密を明かすように神妙な声色で予言した。
『人が奢りサマオンサを脅かす存在になるなら、俺はボストロールとなって再びこの地に現れるだろう』
「サイモン とめる ボストロール と たたかう!」
 サイモンさんが剣を振り上げ、明るい声で宣言した。今まで親とはぐれたような不安な顔は何処にも無く、実はさり気なく裾を引っ張っていた手も力漲る握り拳。正々堂々と希望を背負う勇者の背中です。
 影が愉快そうに勇者に語りかけたのです。
『ふふ。勇者サイモン。その時をとても楽しみにしている』
 そして気配がこちらを向きました。
『ラーの鏡で俺を映してはくれぬか?』
 僕とカンダタさんは顔を見合わせ、互いに荷物を漁り出しました。そうしてカンダタさんの荷物の中から出て来たのは、丸い鏡に美しい翡翠の彫刻の縁取りとサファイアが飾られた鏡。いつも曇る事も傷一つ付かない、素晴らしい僕等の髭剃り用の鏡です。
 カンダタさんが影に鏡を向けると、影は淡く輝き融けていきます。
「ボストロール!」
『俺はサマオンサそのもの。常に友の傍に居る事を、忘れるな。勇者サイモン』
 人の手と淡く融けゆく巨大な影は握手を交わし、暫くして人の手は宙を虚しくつかんだ。
 勇者の横顔を見て、僕は何故か心が熱くなるのを感じていた。