変化の杖

 「ロトちゃぁーーーーーん!!!!」
 遠く遥かな地平線の向こうから眩しく太陽が昇る方向から、土煙挙げてあたしの名前を叫びながら誰かが走ってくる。
 長い黒髪で長身の女性は、戦士にしては軽そうだが盗賊が使うには重い剣が腰に下げられ、走る度に派手に跳ねる。真剣な目はまっすぐあたしに向けられ、ちょっとどころかかなり血走ってる。尋常じゃないその人には見覚えがある。
 セルセトアさんだ。
 ついに来た。
「オォォォォォォブちょぉぉぉぉぉぉっだぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」
 止まる気配も見せず全速力で迫ってくる冒険者の様子に隣にいた仲間達が焦りはじめた。
 ガライさんが慌てて荷物を逆さまにすると銀の竪琴や地図や楽譜やペンやインクがゴトゴト落ちる。カンダタが急いで荷物を開けると、調理器具一式や盗賊七つ道具など主に使うものが真っ先に出て、その下にあったロープがこんがらがる。
「だだだ誰がサイモンさんから貰ったオーブ持ってるんですか!?」
「俺の荷物には入ってないぞ!」
 二人が同時に顔を上げて、明らかな焦りが浮かぶ瞳であたしを見る。
 あ、あたしが持ってるの!? で…でも、あたしの荷物は……
「どどどどうしよう!あたし、荷物は家に置きっ放しなんだ!」
『なんだってーーーー!!!』
 ガライさんとカンダタが顎が外れそうな勢いで叫んだ!
「セルセトア!!止まりやがれ!!」
 カンダタの制止の言葉が空しく早朝の空に響く。止まる気配は微塵も…というかさらに速度が増してるよ!
 迷っている暇はない!全速力で走り込んでくるセルセトアさんが、もうすぐそばにやってきている!
「家に駆け込めロト!お前、間違いなくロマリアまでぶっ飛ばされるぞ!」
 こんな真夏の朝から全速力で走れば間違いなく汗かいて途中でぶっ倒れちゃうわ!
 もたもたしてるあたしにカンダタは苛ついた声を投げ付ける。
「じゃあ、ルーラで逃げ…」
 だだだ駄目だ!!
 もうセルセトアさんが止まる気配もなく目の前に…
<もう少し落ち着いて下さい>
「はぶぅ!」
 何!?何が起きたの…っていうか砂埃がぁ!
 無感情な声が響くと目に見えない速度で金色の風と共に砂埃が巻上がり、あたしは風に飛ばされる勢いも手伝って気絶したのだった。

「で、本題なんだけど、ロトちゃんの持ってるシルバーオーブが欲しいんだ♪ ちょ〜だい♪」
 ちょ〜だいときたよ。
 気絶から回復してすっきりした気分に投げ付けられたのは、大人らしくない催促の言葉だった。
 セルセトアさん、一応一児だか知らないけど実家に子供がいる母なんだから言葉選ぼうよ…。隣にいるガライさんは苦笑いしてるし、カンダタはオヤジよろしく顔しかめてるよ。
 でも気になるよなぁ…。
 大きな力を秘めた宝玉がこの世界には7つ存在し、そろえば世界を変えるほどの力になるとかならないとか…。実際こんな血眼になって探してるのを見てると、とっても重要な物なんだろうけど、何をするものなのか何が起きるものなのかさっぱり分からない。シルバーオーブを貰った直後にインパスで鑑定してみたけど、なにか強力な封印がかかってるんだか全く分からなかったんだよね。
「ねぇ、セルセトアさんって、オーブを集めて何かするつもりなんだよね?その事を詳しく聞かせてもらっていいかな〜?」
 笑ってお願いするとセルセトアさんの頭に金色の鷲くらいの大きさの鳥が杖をくわえて舞い降りてきた。まだ日が昇り始めたばかりの時間なのに、透けるように薄く柔らかそうな羽毛が弱い光を増幅させてキラキラと輝いている。
<セルセトア>
 この声、気絶する直前に聞いた気がする。
 もしかして…
「その鳥ってさっき…」
 あたしが言いかけるとセルセトアさんは『あぁ』と言いながら頭に留まった鳥の紹介を始めるのだった。
「彼女ラーミアって言うのよ。今は変化の杖で小さくなってるけど、普段はもっとでかいのよ。…さっきはごめんねロトちゃん。シルバーオーブが手に入れば子供の所に帰れると思うと自分が抑えられなくて…」
 ようやく謝られた気がする…。さっきは恐かったからなぁ。
「危なかったんですよ。セルセトアさんにぶつかりそうになる直前に、ラーミアさんがセルセトアさんを捕まえて下さったんです。でもロトちゃんの目の前で羽ばたいたりしたから風圧で飛ばされちゃいまして、後ろにいたカンダタさんがキャッチしてくれたんです」
「って言うか、いきなり何もない空間から鳥が出てきて予想外だったがな」
 はぁ、そんな事になってたんだ。
 ぶつかってたら間違いなくここには居ないだろうけど、ラーミアって常識の外みたいな存在だなぁ。『あの』セルセトアさんを止めるというか捕まえるなんて、誰だってできるものじゃないと思うもの。
 そしてセルセトアさんが反省しきりで頭を下げる。
「本当にごめんね。恐かったでしょう」
「本当に恐かったけど何ともなかったから大丈夫だよ」
 にっこりと笑うあたしの目の前で、ラーミアが杖をくわえたまま首を傾げた。
<気絶した事が謝罪の対象に無いのは気のせいでしょうか?>
「そういうこと気にしてると禿げるぞ」
 口は災いの元か。
 失礼な言葉にラーミアの鋭い嘴がカンダタの顔にヒットした。痛そう…。

 □ ■ □ ■

 フバーハという呪文は断熱効果も然ることながら、ある程度の防風効果も備えている。
 こんな高度な気圧なら氷点下ん度の世界で、それを高速で飛ぶんだから凍った薬草でペーパーナイフよろしく紙が切れる温度間違いなし。それを緩和する目的であたしは初めてフバーハを使ったのだ、が、これほど便利なら砂漠で使えば良かったと少し残念な気分になる。
 乾燥した風が前から後ろに流れ、海と大地がのんびりとした速度で前から下に流れていく。雲は霧のように近くを流れ、空の高い所にいるからか太陽は強くて暑く空気は薄くて息苦しい。それでも輝く空は上だけじゃなくて下まで広がっていて、遥か先の大地よりも奥まで見えそうだ。
 すごい。
 すごくきれいだ。
 セルセトアさんの言った通り、変化を解いたラーミアは4人乗せてもスペースが空くほど大きい。翼を広げればちょっとした豪邸よりも大きいかもしれない。翼を広げて大空を飛ぶラーミアの上で、あたし達は遠足に行くような気分で時間を過ごしていたりする。
 ちなみに変化の杖はあたしの手の中。
 モシャス使えるから特に感動はないんだけど、やっぱり魔法道具を持つと気持ちが高揚するなぁ。
「生きてこんな風景見れるとは思いませんでした」
「普通は一生に一度でも見れる風景じゃねぇと思うけどな」
 感動するガライさんと冷静に突っ込むカンダタだけど、カンダタも風景に見とれてる。
 一人だけ風景にも目もくれずに、黙々とオーブを触ったり回したりして矯めつ眇めつしているセルセトアが妙に浮いている。その顔は真剣だ。
「セルセトアさん。何をしてるの?」
 もこもこふかふかして歩きにくいラーミアの背中を、四つん這いで移動しながらセルセトアさんに話しかける。セルセトアさんが顔を上げてあたしを見ると、黒い髪がすごく奇麗に風になびく。セルセトアさんて、美人だなぁ…。
「オーブの調整をしてるのよ」
 …調整?
 あたしが首を傾げると、セルセトアさんが思い当たったかのように声を上げた。
「あぁ、分かりにくかったわね。このオーブ達には闇を切り裂く力があるの。だから、これを使って闇の結界を突き崩すのよ」
「ふぇ〜」
 途方もない話だ…。
「実際、見た方が早いわ。百聞は一見にしかず、よ」
 セルセトアさんがウインクすると、ラーミアの頭に顔を向けた。
「そろそろ、ネクロゴンド上空じゃないかしら?」
 その言葉にカンダタが弾かれたように振り返った!
「ネクロゴンドだって!?なんだってそんな危険な所に…!?」
「ネクロゴンドという所はそんなに危険なんですか?」
 ガライさんが驚くカンダタに訊ねる。
「テドンって町から徒歩で入れるらしいし、アッサラームから川沿いに上陸するとかいろんな上陸手段があるが、熱帯雨林のジャングルや火山地帯があったりで、誰も最奥まで到達した奴はいない前人未到の大地さ。今でも地震が多くて危険だしな。昔は大きい文明があって栄えてたそうだが、相次ぐ噴火や地震で崩壊した伝説もある。どこまで本当かはさっぱり分からんがな」
「素晴らしいですね!ぜひその伝説を確かめに行きたい!!」
 瞳が輝くガライさんにカンダタは大きなため息を付いた。たぶん帰り道が心配なんだろうと思ってあたしもカンダタの背中を叩く。
「大丈夫よ。帰りはルーラとキメラの翼があるから」
「そうそう、すぐ逃げれる手段があるから連れて来れるのよ〜。カンちゃんは心配性ね」
「…もうお前らに危険を説くのはやめるわ」
<もう眼下にバラモスの城を確認できます。セルセトア、準備は宜しいですか?>
「もちろんよ!」
 セルセトアさんが立ち上がる!
 と同時に6つオーブが輝きながら浮かび上がった!
『…!?』
 あたし達が驚いて声を上げようとした時、ラーミアの背中が傾いた!
<急降下します。皆さんしっかり捕まって下さい>
「そういう事は降下する前に行って欲しいもんだぜ!」
「うわっ!」
 あたしの背中をカンダタがつかんでラーミアの背中に押し付ける。あたしもラーミアの背中の羽毛にしがみついて、背中をすごい勢いで過ぎ去っていく風に冷や汗が飛ばされていく。気絶しようにも、恐くてできない。
 6個のオーブが輝きが視界の端に見えた。
 厳かな…深みのある声が、空気の流れに逆らって深々と響いた。
「ラムプロローグスの首飾りよ。其の同胞たる黒き宝玉の末裔を救わん我にその慈悲を与えよ!光を導き闇を穿つ力となれ!」
 グリーン・オーブと呼ばれる翠玉が、葉を透かした柔らかい光で
 ブルー・オーブの名を持つ青鋼玉が、海の底に差し込む深い光で
 レッド・オーブなる紅玉が、燃えるような暖かい光で
 イエロー・オーブと讃えられる黄玉が、金属の秘める硬い光で
 パープル・オーブである紫水晶が、闇を押しとどめる高貴な光で
 シルバー・オーブと崇められる銀が、光をも貫く鋭い光で
 輝く!
 ラーミアもその光を受けて輝いた!
 背中にカンダタの手を感じるのに、隣にいるカンダタさえ見えなくなる。
 黒い霧のようなものが真下からせり上がって来て体が浮いた。
「あの羽なし七面鳥…どっからこんな強力な闇の力を…」
 セルセトアさんが殺気だった声で呻く。
 次の瞬間、闇の中に光る何かが投げられた!闇の先に放たれた光が闇の中であってなお輝き、光が闇を薄くする。
 薄くなった闇の中に城が見えた。それからラーミアの頭、ガライさんの背中、セルセトアさんの足、カンダタの手、あたしの前髪が霧を抜けた時みたいに広がった。
 ふわり、とラーミアが降り立つと目の前には廃墟になった巨大な城が建っている。
 その中から魔物達が湧き出るように現れる! うわぁ、逃げた方が良いのかな?
「すっげぇ危ない所じゃないか?」
「これくらいの魔物程度でビビらないで下さいよ」
「ビビってねぇよ!」
 カンダタがガライさんをどつくとセルセトアさんに向き直った。
「おい、セルセトア。お前こんな所で何をするつもりなんだ!?」
 セルセトアさんがオーブを荷物の中にしまいながら、てへへと笑った。
「あれ?言ってなかったかしら? 説明するの面倒だからパス。ロトちゃん、変化の杖貸してくんない?」
「うん」
 セルセトアさんが杖を構えて深々と息を吸う。杖に集中した精神力に呼応して変化の杖が魔力を帯びて淡く輝きだした。
 魔力の高まりが達した瞬間に、セルセトアさんはぐっと杖を握り込んで叫んだ!
「いくぞぉ!ドラゴン形態!」
 えぇ!?
 変化の杖が宿すモシャスって呪文はその変化する対象を知らないと、変化できない性質を持っているんだ。魔力の強弱も関係はあるが、変化したい対象を見て記憶していないとまず変化することはできない。つまりセルセトアさんはドラゴンを見たことがあるんだ!すごい!
 モシャスの輝きがどんどん目の前で大きくなる。首が痛くなるくらいの大きさになると光は薄れて、巨大なドラゴンが現れる!白金色の鱗と黄金色の瞳が美しい大きなドラゴンが翼を広げて雄々しく吠えた!その咆哮に空気が震える。
「な…なんてかっこいいんでしょう!!」
 ガライさんが目を輝かせて叫ぶ!
 伝説の代名詞、ドラゴンを見るなんて普通あり得ない。だからあたしやカンダタは呆然とセルセトアさんを見上げるのだし、魔物達も怯えきった様子でその雄々しき存在を見上げるのだった。ドラゴンは震え上がった魔物達を一瞥すると、その先にある城をにらんだ。
「イカサマできないなら力づく!んで子供の土産ごっそりいただくわ!!」
 がっくり。
 見た目はドラゴンだけど、やっぱり中身はセルセトアさんだわ。
 その言葉を聞いて舌なめずりしたのは、あたしの横にいた自他共に認める大盗賊カンダタだ。背中に背負った大剣をを引き抜くと、楽しそうに肩に担いだ。
「ロト、ガライ。俺もセルセトアと財宝漁ってくらぁ。これだけの城なら稀代の名品の一つや二つ残ってんだろ」
「ちょっと〜、シリアスが台無しじゃない」
「シリアスだったかしら?」
「たぶん初っ端からシリアスな所はなかったと思います」
「宝物庫荒らす気満々の詐欺師に言われたかねぇな」
「むあ〜!ひどいよ皆して〜!」
<そんな事言ってる暇があったら早く埒を開けて下さいな>
「面白くない子だね、ラーミアは。じゃあカンちゃん、行こうか」
 膨れっ面のセルセトアさんは背にカンダタを乗せるつもりなんだろう、屈み込もうと頭を下げてくる。セルセトアさんの竜の姿がこちらを向いたので、あたしはセルセトアさんに声をかけた。
「セルセトアさん」
「なぁに?」
「その杖ちょうだい♪」
 あたしの言葉に二つ返事で快諾したセルセトアさんが器用に摘んでいた杖を落とす。あたしの手に変化の杖が落ちてきたのを確認すると、セルセトアさんはカンダタを背にのせてしがみつかせると先に見える荘厳な廃墟に向かって飛んでいった。
 優雅な動作で城の屋根に降り立ち、その背中が完全に城内に消える。
 あたしとガライさんは完全に手持ち無沙汰になって顔を見合わせた。
「暇だね」
「ラーミアさん。どれくらいでセルセトアさんやカンダタさんが戻ってこられるか分かりますか?」
 ガライさんがラーミアを振り替えって訊くと、ラーミアも羽に首を埋める直前の動きを止めて首を傾げる。
<バラモスはドラゴンの姿で本気になったセルセトアの敵ではありません。戦闘の面では大して時間はかからないことでしょう。しかし付いていったカンダタ…でしたっけ?彼と一緒に家捜しする時間は全く予想できません>
 私は少し仮眠しますと呟くのが早いか、ラーミアは羽に首を埋めて完全な鳥団子になった。規則正しく上下する呼吸にフワフワと羽毛が動く様がなんとも眠気を誘う。どこからか竪琴の音色が響いてあたしとっても眠く…
 ってガライさん、竪琴弾いてるの!?
 振り向くとガライさん、早速先ほど湧いてきた魔物達の前で演奏会を繰り広げている。
「すごいねガライさん。この子達、すごく強くて恐そうなのに」
 大人しく聞いてる魔物達も魔物達だが、早速音楽奏ではじめるガライさんもガライさんだ。
「そうですか?僕の故郷はもっと大きいのや怖そうな方々が多かったですからね。彼等なんかとても可愛らしいじゃないですか」
 指先を美しく竪琴の線に走らせ、柔らかに曲が終わる。余韻が収まる頃には指先を立て、踊らすように跳ね弾いて、軽快で陽気な音楽を奏ではじめる。なんだかお祭りの音楽のような、ウキウキするような音楽にあたしは楽しくなって手に持った変化のつえを握りしめた。
「よぉし!折角だから待ってる間、変化の杖で遊ぼう!」
 変化の杖に力を込めて、一気にモシャスの呪文を発動させる。
 魔物達の悲鳴轟く爆弾岩形態。うわぁ、さすが岩。体が重い。
 すると目の前に爆弾岩が転がってきた。
「メ…」
 メ……!?
 メガンテですか!?
 メガンテなんですか!?
「めんこい」
 その感情伺えぬ表情に赤みが差したのはきっと気のせいじゃない。
「うわ!すり寄らないで!ゴリゴリいってるよ〜!!」
 笑ってないで、みんな助けて〜!!

 セルセトアさんとカンダタがお城に行ってから、一時間ほど経っただろうか?
 魔物達の集団にあたし達は完全に大道芸の一団と思われているらしい。
 まぁ、はぐれメタル形態ではぐれメタルと競争してみたり、動く石像形態で動く石像とラインダンス踊ってたり、ライオンヘッド状態でスノードラゴンの輪をくぐってみたりしてればそら大道芸の一団と勘違いされてもおかしくないか。
 ガライさんが、酷く愚痴っぽいエビルマージから解放されてよろよろとあたしの横にやってきた。
「ここの魔物さん方の上司バラモスさんって方は相当酷い方みたいですよ。部下の彼等の給料ピンハネして、アッサラームの怪しい店に注ぎ込んでるとか」
「へ〜〜。酷い奴もいるものね。じゃあ、次行ってみよ〜!」
 地獄の騎士に変化すると、やはり地獄の騎士の方々にご好評頂ける。
 ガライさんが地獄の騎士の一人にぼそぼそと囁かれると、「あぁ」と納得したかのように頷いた。
「ロトちゃん。もう少しぽっちゃり系が好みみたいですよ」
 やっぱり変化しても性別はかわらないみたい。っていうか魔物の性別なんか分かんないし。
 地獄の騎士のメスに変化しているあたしは彼等の基準では相当可愛いらしく、すでに地獄の騎士一堂アッサラームの酒場の踊り子に齧じりつく野郎共さながらだ。地獄の騎士ってかっこいい名前が台無しなのは、女性のいない環境を如実に物語って哀れである。
「そうなの?…そぉれ!」
 大歓声。
 照れるけど、気分は良い。
 城内から爆発音や煙がたなびくのを遥か彼方に眺めながら、あたしは大道芸でも食っていけると確信した。