ラーの鏡

 右頬が疼く。
 真っ白い雪原を突っ切る間も、肌が切れそうな寒風の中でも、右頬だけが熱を帯びるように熱く疼いた。薬草を塗り込み、清潔な布を当て、血は止まっても疼く痛みは未だ引かない。右目も引きつるのか少しだけ不自由しているほど、ラダトームで受けた傷は深かった。
 もうすぐ勇者オルテガを中心とした魔王討伐隊なる組織が、魔の島と呼ばれる暗黒の中心を攻めるのだ。
 リムルダール地方のほぼ真ん中にある湖に築かれた水上の町リムルダール。その湖の西に広がる平原に義勇軍が集結していた。獣の皮で作られた寒さを防ぐテントと炎、そして戦士達の士気の高さが天を焦さんばかりに熱く滾っていた。
 って言えば聞こえは良い。俺の心は殺気だっていた。
 浮かれていない鋭い視線を持つ本物の戦士が俺を見ていたら、おそらく魔物のスパイかと思われるような気配を放ってるに違いねぇ。
 信じられねぇ事にこのアレフガルドの住人は、魔の島の存在がこの明けない夜の原因だと信じているらしい。俺は新たな勇士に振舞われる酒を形だけ傾けながら、義勇軍の連中の会話を聞いていた。
「あの島は最初に禍つが落ちた場所。そして勇者が邪悪と戦い勝利した場所だ。この闇はかの邪悪の仕業なんだ。勇者が打ち倒し損ねた闇がきっとあそこに潜んでいるんだ!さぁ、立ち上がろう!気高き勇者達よ!」
 歓声が上がり、酔っ払いどもが剣を振り翳して雄叫びをあげる。
 これは、そんな簡単な問題じゃねぇ。俺は浮かれている連中を冷ややかに見ながら、二度と開かないあの重たい瞼から流れた一粒の涙を思い出して少しだけ歯を噛み締めた。
 きっと、ロトもガライもこの一触即発の戦争を止めにくるはずだ。必ずここにやってくるはずだ。
 なんたってこの戦争の主役。勇者は、オルテガという名だから。
 そして戦争が始まれば、今までのガライの努力が、セルセトアの決意が、無駄になる。
 俺は右目を開けるのに疲れて目を閉じ、静かに勇者に会う機会が回ってくるのを待った。

 立派な鎧を着込んだ男がいる。
 青い鏡のような光沢の金属に金の縁取り、胸に勲章のように不死鳥が雄々しく飛翔するのを簡略化した紋章が輝いていた。兜にも、盾にも、剣にもその紋章は輝いていた。その紋章の中心に填められた深紅の宝石の鮮やかな輝きに、俺は震えた。『心臓はここだ。急所はここだ。ここを貫けば、勇者は死ぬぞ。深紅の血が、宝石に劣らぬ鮮やかさで吹き出すぞ』と、まるで紋章が歌っている気がした。
 その背に見覚えがある。横顔の日に焼けた顔も、少し高いと思うような通った鼻筋も、少し幼く感じさせるえくぼも、見覚えがある。そしてふとこちらを見た黒曜石の瞳と目が合った。あっと、口が驚きの形に開く。
「カンダタじゃないか!?どうして、ここに!?」
 なぁ、オルテガ。お前がもし俺の知るオルテガであるなら、なんでそこにいるんだ?
 勇士共をかき分け笑顔で歩み寄ってくるオルテガに、苦笑いすら浮かべられねぇ疲労感を感じて俺は片手を挙げて挨拶した。
「殺されかけたよ。ラダトームの兵士にな」
 ざわりとオルテガを囲んでいた勇士共がざわめいた。口々に『あの屈強なラダトームの兵士と切り結んだのか?』『見ろよあの斧。手練でも扱えるか分からん重量と破壊力を持っているに違いない』『あの人相。オルテガ殿の知り合いというが堅気の人間ではないぞ』信じられないという声が、尊敬や一目置くような呟きが、嫌疑の言葉がわき起こる。
 ガライが故郷をアレフガルドを多く語らない理由を今さらながらに理解する。
 陰険な奴らだ。オルテガという希望に縋付いてばかりで、それ以外には冷たい。希望を振りまけるほどの明るさを持つ人間がいなかった。
 目の前に迫ったオルテガが、俺の挙げた手を掴んで嬉しそうに笑った。
「カンダタ。カンダタ。全く不安だった。お前に会えて、すごく嬉しいよ!」
 かわらぬ笑顔。初めて逢った時の印象から全く薄れねぇ、幼さや率直さ。俺の中にあるオルテガへの不信感が全部ふっ飛んだ。
 握られた手を力強く握り返す。
「探したぞ。心配した」
 分かってる。オルテガが困ったように笑った。
「迷惑かけたと思ってるよ。お前にもサイモンにもクリスティーヌにも……そしてロトにも…。なぁ、カンダタ」
「ロトがアレフガルドに来ている」
 きっとこの後に続くのは後悔と懺悔に違いない。責任感と塞ぎ込みやすいオルテガの性格を見越して、俺は言葉を遮る形で真実を告げる。
「だが、お前を探しに来た訳じゃねぇ」
 唇が寂しそうに真一文字に閉じた。お互い力を抜いた手が離れ、オルテガはマントの襟を掻き寄せた。
「寒いね。テントで話そう」
 マントを翻した背中は俺よりも小さい身長に見合った大きさ。
 その背中に無理矢理背負い込ませられた勇者という使命に、俺は同情した。一体、周りの連中はどれだけオルテガに任せているのだろう。
 オルテガは人間だというのに。
 周りから放たれるオルテガを押しつぶす信頼を裂くように、俺は義勇軍の中を勇者に続いて歩いた。
 招かれた指揮官用の大きなテントの中に入り、人払いをするとオルテガと俺は焚き火を挟んで向かい合った。ランプの光に艶やかな光を返す甘い香りの酒を大きめの器に注いで、俺達は無言のままに温められた甘味酒を互いのゴブレットに注ぎ合う。体をアルコールが温めた頃合いを見計らって、オルテガはおもむろに口を開いた。
「ネクロゴンドの東にある海に近い火山帯の調査を行い、ロマリア近海に出没する魔物退治を行う予定を立てていた。ネクロゴンドの火山帯が活発化すれば地震が起き、余波を受けて津波が生じ、航海に大きな影響を及ぼすから定期的にこなしていた仕事だ。アッサラームを出発し、単身で南下していった行程は順調で何事もなければルーラでロマリアに今週にも行けるだろうと思っていたんだ」
 そこで言葉を切り、甘味酒を煽る。
「早く終わるのなら、前々から興味があったギアガの大穴でも見にいこうと思ったんだ。行って驚いた。真っ暗な闇の底に、アレフガルドが見えていたんだ」
 俺はラーミアの背に乗ってギアガの大穴からアレフガルドに来た時を思い出した。
 ギアガの大穴の底は何も見えなかった。だが、ラーミアは言った。
 <確かにアレフガルドへ続いているのです。空の果てが別の世界へ繋がっているのに、そこは空にしか見えないのは思い込みに他ならない。真実を見ようとする目の前では、光も闇も真実を見せるものなのです。逆に見えないという事は真実を見ようとしていない訳ではなく、ただ知らないだけなのです>と。
「白昼夢を見たよ」
 オルテガが自分でも信じられないと呟いた。
「回りには誰もいない。魔物の気配も、人の気配も、動物の気配もしなかった。地面は足についているのに視界にはギアガの大穴が映っているのに、真っ赤な縦穴をものすごい勢いで落ちてゆくのを感じて、目の前にあるギアガの大穴よりも暗い闇を追っている気がした。なぜか、行かなきゃならない気がしたんだ」
 俺はオルテガの空になったゴブレットに酒を注ぐと、奴の不安を薄められればと笑った。
「お前は人一倍好奇心旺盛だからな」
「好奇心で片付けないでくれよ」
 不満そうな口振りで眉根を寄せても、目が笑っている。
「でも好奇心…か。そうだろうな。その白昼夢が何なのか、それが知りたいという好奇心があったのは本当かもな」
「だが、それごときで家族を捨てた訳じゃねぇだろ?」
 そうだとしたら、殺したっていい。俺はオルテガを見つめた。
 オルテガも、勿論だよ、と笑った。
「もっと近くで見ようとして足滑らして大穴に落っこちたんだ」
 あはははははははは〜
 笑うオルテガ横にゆっくり近付くと、俺は脳天に手加減なしの拳骨を振り下ろした!目から火花が散りそうにクラクラしながら、オルテガは真後ろにぶっ倒れた!
「この大バカ野郎が!その理由を言ったのが俺様だから良いものを、クリスティーヌやロトだったら殺されても文句言えねぇぞ!!」
 全く、深刻に捉えていたのがバカみてぇだ。こいつらしいっちゃあ、こいつらしい理由だけどな。
「あたたたた…。長らくご無沙汰してたカンダタの鉄拳は効くなぁ…」
 頭をゴシゴシ撫でて起き上がるオルテガは、悪戯が見つかったガキのように笑った。
「なんだか昔に戻ったみたいだよ。クリスティーヌと二人でアリアハンを飛び出して、カンダタに出会って、サイモンと旅をして…。あの時は本当に何もかもが新鮮で、幸せで、満ち足りていたよ。クリスティーヌと無茶する度に、サイモンと飛び出して騒動起こす度に、お前にガミガミ叱られて問答無用で鉄拳振り下ろされて良くぶっ倒れたもんだ」
「おいおい、まるで俺がいつも口うるさく注意して、ぶん殴ってたような言い様じゃねぇか!」
「その通りじゃないか。…うちの娘は殴らなかっただろうね?」
「どっかの夫婦や問題児に比べりゃ大人しかったからな」
「そうか…ロトは良い子に育ったんだね」
 堪えようもなく零れていた笑みが、苦々しく歪んだ。
「どうしてアレフガルドに?」
 俺はオルテガの向かいに座り直すと今までの経緯を、酒を味わう速度で言って聞かせた。
 オルテガを探す事を口述に、娘に世界を見せようとしたクリスティーヌ。ガライという不思議な吟遊詩人。オーブを求めて世界中を旅するセルセトアという冒険者。突如現れどっかの誰かのように引きずるように旅に連れ出された、カンダタという全く不幸な盗賊。破天荒な政治でサマオンサを治めるボストロールとサイモン。
 そして
 経験を吸い込み、先を目指し、光のように純粋でひた向きで、ちょっとどころかかなり役立たずなロトという娘。
 ここに来るまでに起きた様々な事柄を話し終わる頃には、ランプの燃料が残り少なくなって焚き火の火だけがテントを照らしている。
「話し合いか…。確かにいい方法だね」
 オルテガは長い話を身じろぎもせずに聞いていたが、ゆっくりと息を吐いた。
「ガライ君という吟遊詩人はロゼ姫から聞いていた。魔物と仲良くなれる不思議な力を持つ温厚な若者だが、反面人間と親しくなる事は稀だったそうだ。俺とは真逆で、人間よりも魔物と親しく、人の里よりも魔物の住処に居る方が長かったんだろう、アレフガルド中を旅して擦れ違うこともあったかもしれん。でも、一度も逢った記憶はない」
 感心よりも後悔が強い声で呟いた。
「彼に逢っていれば、俺のやり方も少しは違っていただろう」
「ロトとガライは、もうすぐここへ来る」
 根拠はない。
 だが、ロトとガライの倍以上の歩調で進んでもなお追い付けなかったという事は、すでにリムルダールに辿り着いているか、マイラに寄っているかだ。ラダトームで負傷して一週間ほど潜伏している間にこの義勇軍の情報を掴んだが、先に行かせた二人はそんな事は知らない。おそらくガライは情報を集めるために厳しい山道を覚悟でマイラへ向かうだろうと、俺は予測している。
 アレフガルドにくる前に散々合わせたあの二人の歩調を計算すれば、マイラに寄ってリムルダールへ向かうならもうすぐたどり着く。
 かつて共に旅したことのある男は、その短い言葉から意味を汲み取った。
「もう、集めた軍を散らす事はできないし、俺が背負ってしまった期待も降ろす訳にはいかない。白紙には戻らないとしても、遅らせる事はできる。それが、今の俺にできる最大限の事だ。それまでに…」
「あぁ、あいつらとアレフガルドを救ってみせるさ」
 俺はニッと笑って
 みせようとした。
 右目が、正確には右目のすぐ下を抉るように出来た傷が痛む。殺気が皮膚よりも敏感に治らない傷を刺激する。危険な痛みに、俺は顔を顰めた。
「敵が、来る」
 オルテガは俺の言葉を疑う事なく剣を取った。

 満月。
 綺麗な満月の下に異様な光景が広がっていた。
 黒い。黒い津波が迫ってくる。黒い飛沫には篝火を満月の輝きを反射して、数えきれぬ爛々と輝く瞳がまっすぐこちらを見ている。どんなに、どんなに、満月が明るくても、その黒い津波の一部を担う存在の姿はひどく曖昧で、星のように大量の瞳を抱え、吐く荒い息使いまで漆黒に感じるそれらは、まるでアレフガルドの明けない空から零れ出たように大量だった。
 誰かが悲鳴を上げた。
 悲鳴が悲鳴を呼んで、音を立てぬ黒い津波のかわりに轟音となって響いた。津波から逃げるために、我先に逃げる怒濤が地面を揺さぶり出した。
「…腰抜け共め」
 俺は魔人の斧を構えて舌打ちした。
 津波は瞬く間に迫ってくる。今から逃げたとしても、逃げ切れる希望はもうないだろう。
「魔物…にしては様子がおかしかねぇか?」
「確かに。俺もアレフガルドで何度も魔物の相手をしたが、あいつらは生きている感じがしない。一丸に迫って一糸乱れないなんて、本物の津波のようだ。きっと震源地が、津波を生み出してる存在があるに違いない」
 どうすればこの窮地を切り抜けられるか、俺は隣に立ったオルテガの呟きに答えた。
「あの闇に紛れた存在をどう特定しようか?」
「あれを使おう」
 腰に下げた荷物袋から厚い布に包まれた真ん丸い物を取り出すと、布を手早く解く。大きめの皿くらいの翡翠のように滑らかな緑のふち、青いアクアマリンの滑らかに磨かれた宝石が均等に並んでいる中心に、ごく平凡な、どこにでもあるような丸い鏡が嵌め込まれている。金の飾り文字のような古代文字を解読できた者は口を揃えて言うだろう。ラーの鏡だ、と。
「返してなかったのか」
 オルテガが苦笑する。イシスの宝物庫から何者かに強奪され人の手に渡りに渡り、いつの間にか俺が手にしていた魔法の法具だ。
「ひげを剃るのに重宝してる。ガライもこの鏡で剃ってたから、今頃苦労してるんじゃねぇ?」
「毎日自分の真実の姿を確認しているわけか。なんだか微笑ましいよ」
 オルテガがこの緊迫した空気に似つかわしくない、呆れを含ませて笑った。
「さぁ、真実の姿とやらを拝もうじゃねぇか!」
 俺が鏡を高々と挙げた。
 満月の光を吸い込んだ鏡は、闇の津波に対して光の津波になって放たれた!満月の乳白色の光が森を新緑に照らし、草に日差しを受けたかのように錯覚するほど色付かせ、魔物の姿を毒々しいほどにはっきりと照らす。
 何千になるだろう魔物の津波が、黒いヴェールを外してはっきりと姿を見せやがった!
「ま、さっきの黒い津波を相手にするよりかは、希望が出てきたんじゃねぇか?」
 鏡を荷物袋に押し込むと俺はオルテガを見遣る。
 オルテガは目を凝らしていた。魔物たちの津波の中に潜む、魔物たちの津波を繰る者を、目が痛くなりそうな多彩な魔物たちの中から探し出そうとする。忙しなく動かす黒曜石の瞳が一点を捕らえると、数度瞬きして確信のこもった声で呟いた。
「いた」
 さっと抜き身の剣を振り上げる。鋼にしては青みを帯び、白銀にしては透き通り過ぎているような不思議な刃に、金の細工が雷の青い光を反射して日を透かして見る新緑のように輝いた。
 久々に見る。
 オルテガの十八番。稲妻の呪文。
「ギガ…デイン!!」
 剣を振り下ろし、衝撃波のように魔物たちの津波を金色の雷は引き裂く!
 その先にやけに黒っぽい物があると、俺は気が付いた。それが津波を繰る者だとも、同時に理解した。後少し、一回瞬きするかしないかという所まで、雷光が迫る!俺は光の前でさらに濃い濃密な黒い存在になるものが、人の形をしていて待ち構えるように悠然と立っているのを見た。
 神鳴りが落ちる時に聞こえる轟音。
 貫く筈だった雷光が激突し、雷は消滅した。爆ぜる静電気の向こうで、人の形をしたそれは変わらず立っている。
 信じられない。
 今まで、その呪文の前に立っていられた者など知らなかったし、防ぐ手段などないと思っていた。オルテガが勇者と呼ばれる由縁になった呪文が、まるで鉄砲水にすら微動だにしない大岩のように、こうも堂々と、真っ向から防がれてしまうなんて!
「勇者よ」
 闇が、銅鑼のように反響して滲みて行くような声で語りかけてきた。
「汝は脅威。汝はこの世界全ての闇の敵となる。神に選ばれ認められし、光を投げかける者よ。汝に敬意を表し、選択を与える」
 こいつが、ゾーマ。
 ガライが語り合うべき存在なのか…なんて奴だ。あんな細腕の吟遊詩人が渡り合う存在なんて大した事ねぇとか思ってたが、俺はそいつを前にして冷や汗がとまらん。額から頬へ顎へ流れるのを自分の死のイメージに重ね、汗で滑る手が獲物を扱えぬ焦りになって現実味を増す。殺気など、殺意など微塵も放っていないのに…、俺は本能的に悟った。
 戦って、勝てる存在じゃない。
 このままではオルテガが殺されてしまう。
「あんたが、ゾーマか?」
 闇が、俺を見た。貫かれる視線が、刃になって喉に刺さった錯覚を覚える。
「この世界の者ではないな?神の領土の者であろう」
 俺は喉を励まし、戦い以外の切り口を探す努力をしろと叱咤した。
「そうだ。ガライが戻ってきた。あんたと話す為にこっちに向かっている。あんたこそ、ガライに提示される選択に対する答えを用意しておいた方がいいんじゃねぇか?」
「我が答えはただ一つ」
 視線に力が籠った。
「闇に負ける光は、光ではない」
 俺は後悔した。
 力づくでもガライを止めるべきだった…と。
「なら、俺が答える答えも決まったな」
 オルテガが勇ましく言った。剣をまっすぐゾーマに向けて構える。
「勇者よ。もがき苦しむ事を選ぶか…。我に滅ぼされ、死ぬがいい」
 ジリ…。
 魔物の輪が狭まる。
 その全ての魔物が、すぐ隣にいるだろう俺には目もくれず、全て勇者を見ている。